“うどん文化”と“そば文化”の境目は「気候の境目」だった?
ウェザーニュース / 2021年8月22日 5時0分
暦(こよみ)の上では立秋を過ぎたものの、残暑というには厳しすぎる猛暑の日々が続いています。食欲も減退しがちなこの時季、“食卓のおいしい助け舟”ともいえる存在として、冷やしたうどん・そばが挙がります。
一般に好まれるのは「東はそば、西はうどん」とされますが、実際のところはどうなのか。ウェザーニュースでは「うどんとそば よく食べるのはどっち?」についてのアンケートを実施しました。
その結果、全国的にはうどんが51%、そばが49%とほぼ拮抗していました。しかし、地域別にみると、うどんは四国が82%と圧倒的に多く、中国が71%、九州が69%、近畿が63%と続き、そばは甲信が64%、北海道が61%、東北が57%、関東が56%となりました。やはり西南日本はうどん、東北日本はそばが好まれるという結果が如実に現れています。
アンケート結果から見えた、うどん・そばの好まれ方や気候とのかかわりなどについて、歳時記×食文化研究所の北野智子さんに聞きました。
そば文化とうどん文化を分けた背景は気候?
アンケートでは沖縄、鹿児島、群馬などの例外を除けば、基本的に東はそば、西はうどんと大きく好みが分かれました。
「そば文化とうどん文化を分けた境目、分かれた理由は、『気候風土』にあったといえます」と話す北野さんは次のように続けます。
「そばは古くから救荒作物として栽培され、寒冷な気候や痩(や)せた土地に強いので、東日本にそばを嗜好(しこう)する地域が多く、うどん(小麦)は温暖な気候で育つので、西日本にうどんを嗜好する地域が多いといえます。
気候風土に合わせてそれぞれの土地でとれた素材を、最も理にかなった方法で調理加工する知恵である『土産土法』により、うどんとそばを好む地域が生まれたのでしょう。
土産土法の知恵は、“その土地のものを食べ、生活するのがよい”という意味の『身土不二(しんどふじ=身と土、二つにあらず)』という思想に通じています。“人間の身体と人間が暮らす土地は一体で、切っても切れない関係にある”という考え方です」(北野さん)
小麦とそばの生産量が多い地域はどこですか。
「小麦、そばともに北海道がけた違いに多い生産地です。ここ数年の生産量でみると、小麦は福岡、佐賀、群馬が、そばは長野、栃木、茨城が北海道に続いて上位に入ります。
一方、生めん類の生産量(2009年度)では、うどん(生めん+ゆでめん)は香川、埼玉、群馬の順。そば(同)は埼玉、静岡、東京と、小麦・そばの生産地とは必ずしも一致していません。
なお、『うちなあすば』とも呼ばれる沖縄そばはソバ粉ではなく、うどんと同じく小麦粉で作られています。南の沖縄で例外的にそばが好まれるというアンケート結果は、そのためではないでしょうか」(北野さん)
うどん文化とそば文化の境目は?
うどん文化とそば文化の境目はどのあたりになりますか。
「上記のアンケート結果のように、大まかな境目は、北から新潟県、長野県、静岡県あたりまでがそば勢力圏ではないでしょうか。愛知県の名古屋地方には、きしめんや味噌(みそ)煮込みうどんなどの郷土料理があり、うどんの勢力が強いと思われます。
ただし、東日本でも“名物うどん”が存在する県ではうどんの勢力が増し、同様に西日本でも“名物そば”がある県ではそばの勢力が増すといえます。これはアンケート結果に通じるものがありますね。
例えば名物うどんとしては、稲庭(秋田)、水沢・館林(群馬)、氷見(富山)、伊勢(三重)、さぬき(香川)、博多(福岡)などが挙げられます。大阪はうどんすき、小田巻き蒸し、きつね、おじやうどんと種類が豊富です。
一方の名物そばには、白河(福島)、深大寺(東京)、片木(へぎ/新潟)、越前(福井)、坂本(滋賀)、出石(兵庫)、祖谷(徳島)、出雲(島根)、薩摩(鹿児島)などが挙げられます。北海道と京都にはにしんそば、岩手は有名なわんこの他にも、はらこ、ひっこ、まつも、という珍しいそばがあります。
埼玉では昔から日常生活や冠婚葬祭など行事の折にうどんが食べられ、小麦の生産量も多い所なのです。“埼玉を日本一のうどん県に”と、 2017年からは熊谷市で『全国ご当地うどんサミット』が開催されています」(北野さん)
かつては「地域限定」だった珍しい名物うどん・そばも、手軽に「お取り寄せ」が可能になってきています。ステイホームの日々こそ、好みのうどん・そばをきりっと冷やして、猛暑の時季を乗り切りましょう。
参考資料など
『たべもの起源事典』(岡田哲編/東京堂出版)、『日本の味 探求事典』(同)
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