なぜダンゴムシは丸くなる? 99.9%が外来種? ダンゴムシの「ひみつ」
ウェザーニュース / 2022年3月28日 10時30分
実はエビやカニと同じ「甲殻類(こうかくるい)」ながら「ムシ」と呼ばれ、市街地の公園などでもよく見かけるダンゴムシ。春の訪れとともに動きも活発化して、軽くつつくと丸まってしまう愛らしい姿を観察できる機会が増えてきます。
なぜ丸まってしまうのか、どんな食べ物が好きなのかなど、ダンゴムシの知られざる「ひみつ」について、栃木県立博物館学芸部自然課主任研究員の南谷幸雄(みなみや・ゆきお)さんに“深掘り解説”をお願いしました。
丸くなる理由は防御だけじゃない?
ダンゴムシは軽くつつくと逃げたりかみついてきたりせず、じっと丸まってしばらくおとなしくしています。丸くなるのはなぜなのでしょうか。
「まずは天敵からの防御のためです。ダンゴムシの天敵といえる生き物は、カエルやサンショウウオ、アリやムカデと一部の鳥類が挙げられます。ダンゴムシはそれらの生き物が襲ってきたとき、体を硬い殻で覆ってやり過ごしているのです。
防御のほかにもう一つ、ダンゴムシが丸まるのには『乾燥から身を守るため』という大きな理由があります。
甲殻類のダンゴムシはもともとエビやカニと同じように海の中で暮らしてきた生き物でした。そのため、陸に上がって生きるようになっても水分の蒸発を防ぐ機能が十分に発達しておらず、乾燥にとても弱いのです」(南谷さん)
99.9%が明治以降に渡ってきた外来種
ダンゴムシはどこでもよく見られる印象の生き物ですが、昔から日本に生息していたのでしょうか。
「私たちが市街地や家のまわりで目にすることができるダンゴムシの99.9%は外来種で、地中海沿岸を原産地とするオカダンゴムシがその代表です。
どのようにして日本に渡ってきたかはよくわかっていませんが、およそ100年前の大正時代には外来種であるオカダンゴムシの存在が確認されています。輸入植物が収められたポッドの土の中などに潜んで上陸し、全国に広まっていったのだと考えられます」(南谷さん)
わずか100年ほどで、外来種が日本中に生息するようになったというのは意外ですが。
「ダンゴムシは生まれてから1~2年後には年に2回、数十個ずつ卵を産みます。日本の市街地にはダンゴムシの天敵が比較的少ないこともあって、繁殖が進んだと考えられます。
また、家のまわりで簡単に捕まえられてつつくと丸まる姿が愛らしいこともあって、子どもたちがダンゴムシを観察用に持ち帰ったことも、生息域の拡大に影響したのかもしれません」(南谷さん)
在来種はどこにいる?
在来種のダンゴムシを見つけることは難しいのでしょうか。
「在来種は市街地にはほとんど生息しておらず、ハマダンゴムシは海辺、コシビロダンゴムシは森の中にすんでいるので、目にできる機会はほとんどありません。
ただし、海辺に住んでいる人でしたら、砂浜や砂利浜で海藻が打ち上がっているところを掘り返してみると、ハマダンゴムシが見つけられるかもしれません。岩礁ばかりの磯には生息しておらず、見つけられたとしても夜行性なので、昼間は丸まっていることが多いのですが。
コシビロダンゴムシは海岸から山地にかけての森林で,倒木の下などで見つけられる可能性があります.海沿いの暖かい地域の自然林では見つけやすいかもしれません。
ハマダンゴムシはオカダンゴムシよりも大きくなり,2cm以上になります.コシビロダンゴムシの大きさは1cm程度でオカダンゴムシより一回り小さく、お尻の『腹尾節(ふくびせつ)』と呼ばれる部分がオカダンゴムシの三角形とは違い、砂時計や盃(さかずき)に似た形をしているので、見分けることができます。
ただし、ハマダンゴムシもコシビロダンゴムシも密には生息していないので、見つけられたとしても“一度にたくさん”というわけにはいかないでしょう」(南谷さん)
ダンゴムシの好物は?
ダンゴムシは何を食べて生きているのでしょうか。
「ダンゴムシの“主食”といえるのは落ち葉です。特に大豆やタンポポの葉、クズ,クワなどの軟らかい葉を好みます.続いて,少し硬めのサクラなどの落葉広葉樹の葉も食べますが、硬い常緑樹のカシやシイは好みません。オカダンゴムシは生のキャベツも食べます。
基本的には雑食なので、シイタケなどのキノコ類も食べますし、飼育環境下で干しエビやチーズを与えるとすぐに寄ってきます。
ダンゴムシは花壇やプランターなどで育てている若葉を食べてしまうので、害虫扱いされてしまうこともあります」(南谷さん)
生態系の中でダンゴムシはどんな存在なのでしょうか。
「落ち葉を食べますが、直接体内でセルロースなどの有機物を分解して無機物に戻す,分解者ではありません。
ダンゴムシは落ち葉をより細かく裁断することで、ダンゴムシの腸内や糞(ふん)の中で落ち葉を菌類やバクテリアなどが分解しやすくする役割を担っています」(南谷さん)
ダンゴムシは何年生きられる?
ダンゴムシはどんな一生を送るのでしょうか。
「ダンゴムシの寿命は3~5年です。1年に1度か2度、春か夏に腹部の膜のような袋の中に数十個の卵を産み、ふ化した後の幼体は1ヵ月ほどそこにとどまります。母親から離れた翌年か翌々年には、卵を産むまでに成長します。
ダンゴムシは脱皮しますが、一度に全身ではなく前半分と後ろ半分ずつ、長い時には数日かかります。どちらが先に脱皮するかは個体によってばらばらで安定していないので、個体を識別して観察の対象にしてみるのもいいでしょう」(南谷さん)
ほかにダンゴムシを観察する際、おもしろい生態などはありますか。
「ダンゴムシはどこでも見られて動きが遅く攻撃してこないので、幼稚園児でも観察がしやすい生き物です。食品用のプラスチック製保存容器などでも飼育することが可能です。
観察する時はただ“軽くつついたら丸くなる”ことだけでなく、『交替性転向反応(こうたいせいてんこうはんのう)』という習性に着目してみるのもいいでしょう。ダンゴムシは、T字路では右→左→右→左と交互に曲がるという不思議な習性をもっています。
これは多くの生き物に見られ、天敵から逃れるための行動と考えられていますが、ダンゴムシは特に左右交互に曲がる動きが顕著です。
丸まったとしても少し待てば、ほとんどのダンゴムシはまたすぐに動きだして、左右交互に方向転換を繰り返すはずです」(南谷さん)
ダンゴムシが動きを活発化させるのは気温が15℃以上の時季とされています。身近にいながらさまざまな「ひみつ」を潜めたダンゴムシ。この春は、愛らしいダンゴムシの興味深い生態をじっくり観察してみてはいかがでしょうか。
参考資料など
取材協力:栃木県立博物館(宇都宮市睦町2-2)
※8月21日まで、テーマ展「ダンゴムシ」が開催されています
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