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クマゼミが北上中!? クマゼミの北限の最新事情

ウェザーニュース / 2022年8月21日 9時0分

ウェザーニュース

クマゼミはおもに静岡県以西の西日本で、7月中旬から9月上旬にかけての午前7~9時頃を中心に、『ワシワシ』とリズムを刻みながら鳴いています。

東日本ではこれまでほとんどなじみのなかったクマゼミですが、近年その生息域が北上を続けているのではないかと指摘されています。

そんなクマゼミの「北限」の現状などについて、窓蛍舎(そうけいしゃ、滋賀県大津市)代表で大阪市立自然史博物館の元学芸員(昆虫研究室)の初宿成彦(しやけ・しげひこ)さんに解説して頂きました。

真っ黒な国内最大級のセミ

まず、クマゼミとはどんな特徴をもっているセミなのでしょうか。

「クマゼミは日本国内に生息している約30種類のセミの中では、ヤエヤマクマゼミに次ぐ最大級の大きさのセミです。図鑑によるとクマゼミは、頭から尻までの体長が45~52mm、透明な羽を含めた全長は63~70mmほどと計測されています。

体色は真っ黒で、これが『クマゼミ』という名の由来とされています。鳴き声はアブラゼミより大きく、数が少ない東京都内からの朝のニュースの生中継では、背後から『ワシワシ』と包丁を刻むリズムのような鳴き声がよく聞こえることがあります。

大阪市内では数が多く『セミしぐれ』状態になってしまい、逆に刻むような鳴き声は聞こえなくなります。数の多い時期は一日中鳴き声が聞こえているほどです。

東海から九州にかけて広く分布

クマゼミはどのあたりの地域に多く分布しているのでしょうか。

「東海地方以西の西日本、近畿、山陽、四国、九州にかけてのおもに平野部に広く分布しています。

大阪市の中心部や南部の長居公園(東住吉区)では、クマゼミが9割9分を占めている印象です。ただし、市内でもばらつきがあり、大阪城公園(中央区)ではクマゼミとアブラゼミが3:1ほどの割合で、靱(うつぼ)公園(西区)では1:1ぐらいになります。その理由は不明です。

クマゼミは山陰地方ではこれまであまり見られなかったのですが、近年は結構生息しているようです」(初宿さん)

宇都宮市と金沢市でクマゼミのぬけがらが確認

クマゼミの生息域が近年北上しているといわれます。現在、クマゼミの「北限」といわれるのはどのあたりになるのでしょうか。

「30~40年前には『クマゼミの北限』は、神奈川県の三浦半島周辺といわれていました。現在では埼玉県、茨城県での生息が確認され、北関東では“ぽつぽつ”といった印象でしょうか。栃木県の宇都宮市では2009(平成21)年にクマゼミの成虫が捕獲されていますので、ここが『北限記録』といえるかもしれません。

私が最近東京都内を歩いてみたところでは、大井ふ頭(品川・大田区)でクマゼミのぬけがらを見つけました。

日本海側では福井県が長く『北限』とされてきましたが、石川県金沢市のウェブサイトでは、2005(平成13)年から3年連続でぬけがらが見つかったとあります。金沢市内にクマゼミが生息している確証となりますので、『日本海側の北限は石川県』といっていいでしょう」(初宿さん)

温暖化が「北上」に直結しているかは明白でない

クマゼミの生息域は北へ広がっているといっていいでしょうか。また、その原因は温暖化によるものでしょうか。

「北関東や北陸でぬけがらの発見や成虫の捕獲が確認されていることから、クマゼミの生息域は拡大しているといっていいでしょう。

『クマゼミの北上』は地球温暖化がひとつの要因とは思われますが、気温の上昇がそれに関係しているかどうかは明白ではありません。たとえば和歌山市や南九州(宮崎市と鹿児島市)では、いずれも市内の公園は大阪市の長居公園のようにクマゼミ一色とはなっておらず、アブラゼミがクマゼミと同レベルぐらいに発生しています。

和歌山や南九州は大阪より暖かいはずなので、気温だけがクマゼミの増加を決定づけているわけではないといえるので、温暖化だけでは説明がつきません。都市化の進行が影響しているとの説もあります」(初宿さん)

ウェザーニュースではスマホアプリ「ウェザーニュース」の全国のユーザーを対象に「クマゼミいる?」というアンケート調査を実施しました。「たくさんいる」「少しいる」「いない」「わからない」の選択肢のうち、「わからない」を除いて最も割合が高かった回答を都道府県別に色分けすると、次のような結果となりました。

この結果からも、神奈川県あたりまで、クマゼミが分布域を広げていることが分かります。

「都府県レベルでの色分けとしては、おおむね私が持っているクマゼミの分布のイメージと合っているように思います。おもに都市部の方からの回答が多いと思われますが、各都府県の中で細かくみていくと、セミの勢力地図は自然環境によって大きく違っています。

東京の都心部ではクマゼミはまだあまりいないようですが、人工島の多い東京湾周辺でクマゼミがたくさん鳴いている場所があると聞きます。

また西日本の平地、たとえば奈良市では、午前中にクマゼミでうるさい市街地から春日山原始林内に入ると、クマゼミはまったく鳴いておらず、ニイニイゼミなど他のセミの鳴き声ばかりになります。

ですから、人による影響、つまり都市化がクマゼミの増加と深く関わっていると考えられると思います。

余談になりますが、北海道に多いエゾゼミは、西日本でも標高1000mぐらいの山の上で鳴き声が聞こえるところがあります。興味がある方は聞きに行ってみてください」(初宿さん)

「セミの成虫の寿命は1週間」とよく聞きますが、実は俗説で、鳥などに捕食されなければ1カ月ほどセミは鳴き続けられるそうです。この夏、東日本で『ワシワシ』と聞こえるセミの鳴き声が響いてきたら、耳をすませて録音し、クマゼミかどうかを確認してみてはいかがでしょうか。

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