写真家・水野克比古氏に教わる紅葉写真のワンポイント撮影テクニック
ウェザーニュース / 2022年11月13日 5時0分
秋の気配が深まるとともに、色づいた紅葉が高い山々から平野部へ、さらに市街地でも見られるようになってきました。紅葉は絶好の被写体ですが、初心者には美しく撮影することが難しい素材でもあります。
紅葉の写真をより美しく撮影するにはどうしたらいいのか。紅葉の名所である京都をテーマにした写真集を多数出版する「京都写真」の第一人者・写真家の水野克比古さんに「ワンポイント撮影テクニック」を解説して頂きました。
デジカメに枚数制限はない、失敗を恐れず挑戦を
最近のスマートフォンはカメラとしての性能が向上し、“それなり”の紅葉写真が撮れるようになっています。ただ、せっかくの紅葉ですから、デジタルカメラを使ってより美しい写真を撮ろうと思った際のポイントを教えて頂けますか。
「多くの方がお持ちのデジカメは、一眼レフタイプでもミラーレスタイプでも焦点距離がワイドから中焦点のレンズが付いています。紅葉写真の7割方はそのままで撮影が可能です。ことさらレンズ交換にこだわるよりも、むしろお持ちのデジカメを100%使いこなすことを意識するといいでしょう。
フィルムを使う銀塩(ぎんえん)カメラとは違って、デジカメなら撮影枚数に制限はありません。失敗を重ねてこそ撮影技術は進歩していくものですので、失敗を恐れずにさまざまなシチュエーションに挑戦してみてください。
自分が撮った写真を見直したりプロの写真集を見たりして、“いいな”と思ったらそれを参考に、場所やアングルなどを自身の撮影に生かしてみるのもいいでしょう。歌手がレパートリーを増やすのと同じように『引き出し』をたくさんつくって、表現のバリエーションを増やすことが肝心です」(水野さん)
PLフィルター使用時はさまざまな角度を試してみよう
とはいえ、限られた秋の紅葉シーズンではできるだけ失敗は避けたいですよね。紅葉写真を撮ったけど実際に眺めたような鮮やかな色が出ないといったときには、便利なアイテムがあるといいます。
「紅葉をより鮮やかに見せたり色のコントラストを強調したりするためにはPL(偏光)フィルターを用いるのがオススメです。
PLフィルターは、曇りの日の白くぼんやりした空も青く鮮やかに見せてくれるなどの効果をもっていますので、紅葉と空のコントラストがより強調されます。PLフィルターを装着して、太陽光が入る角度を変えてみるなどの『フィルターワーク』を試してみるのがいいでしょう」(水野さん)
「ただし、PLフィルターは逆光や太陽光が真後ろから差している場合は効果がありません。太陽光が当たる方向は、横か少し前か少し後ろ。偏光効果が効きすぎると“ギラギラ”したどぎつい感じの写真になってしまいます。
PLフィルター装着時は1.0〜1.5絞りほど暗くなるので、シャッター速度やF値、ISO感度などを加減して、装着前と同じ明るさになるよう調整しましょう。角度を変えるなどいろいろ試してみて、PLフィルターを使ったときの『いい感覚』を身に付けてください」(水野さん)
紅葉越しの透過光がつくる「光条」に注目を
紅葉の鮮やかな色をうまく出せないときは、ホワイトバランス(光の色の影響を補正して、白を白く写すための機能)の調整も効果的だそうです。
「紅葉を撮影する際に、それほどホワイトバランスを意識する必要はありません。朝日や夕日の光景や曇りの日の撮影の際に、白を強調しようとし過ぎると、かえって雰囲気を損ねた不自然な写真になってしまう可能性があります。
日の出どきや夕方の柔らかな光、曇りの日の陰り、雨の日の水っぽさ。どれもむしろ紅葉の美しさを引き立たせてくれるシチュエーションと考えてください。
むしろ意識してほしいのは、紅葉越しの透過光がつくる『光条』です」(水野さん)
「紅葉は葉がもつ葉緑素が失われることで生じる作用で、葉緑素が失われた葉は新緑の時季より太陽光が透過しやすくなっています。紅葉を『外』から撮るのではなく、枝を広げた『内』に入って、積極的に逆光に挑んでみてください。
葉の間からちらちらと光の線、光条が見えてくるはずです。露出を絞り込めば絞り込むほど、光条がくっきりと現れてきます。
光条は必ず液晶モニターで確認しましょう。太陽をレンズ越しに光学ファインダーで直視すると、眼にダメージを受けてしまいます。画面で確認しながらカメラを少しずつ動かしてみて、より美しい光条をとらえてください。
紅葉の内側に入って撮影すると、“紅葉の気持ちになった”かのような主観、撮影者の個性がより強まった写真になるという効果もあります」(水野さん)
散った紅葉こそ「心」を表現できる被写体に
紅葉が鮮やかな時季は限られます。せっかく目当てのポイントを訪れても、場所によっては散ってしまっている可能性もありますが、散った紅葉も主役にできると水野さんは話します。
「散ってしまった紅葉にも、情感はあります。むしろ地面や池などの水面に散ったカエデなどの落ち葉を狙ってみるのもいいでしょう。
京都でしたら紅葉は例年11月の初旬から始まり、所によっては1月半ばまで色づいた葉が見られます。『紅葉シーズン』は案外長いので、時季を逸してしまったと思っても大丈夫なものです。
むしろ、わずかに残った紅葉や散り終えてしまった落ち葉こそ、撮影者の『心』を表現するのに好適な被写体だと思いましょう」(水野さん)
散った紅葉を主役にした作例
「スローシャッター、長時間露出を効果的に用いて、鮮やかな色合いの落ち葉が水面で動いているものは動いたまま、沈んで止まっているものは止まったままに写し取るのは、紅葉写真の醍醐味(だいごみ)のひとつです。ただし三脚が必要になりますので、撮影場所には十分注意してください」(水野さん)
事前に撮影場所を決め切らず、突然の出合いにも対応を
そのほか、紅葉を撮影する際の“心構え”について、教えていただきました。
「事前に“どこそこのどんな紅葉を取りに行くんだ”と決め切らないことが大切です。目的のポイントに向かう途中の道筋に、人知れぬすばらしい紅葉が潜んでいる可能性も少なくありません。
視野を狭めることなく、家や宿を出た瞬間から頭をからっぽにするよう心がけてみてください。そのうえで、予期していなかった紅葉の風景に出合えた瞬間に、どう対応できるかが大切です。
いつも撮影している紅葉スポットに、突然鳥が飛んでくることがあるかもしれません。その瞬間を切り取れれば、それが新たな個性の現れになるのです」(水野さん)
撮り尽くされたイメージがある京都の紅葉撮影名所、たとえば嵐山の渡月橋(とげつきょう)でも、少し目線を変えるだけで全く違った印象になると水野さんは話します。
「多くの人が集まっている北側(三条通)の下流ではなく橋の袂から対岸の法輪寺に向けて狙ってみたり、南側(渡月小橋側)の上流から小倉山の紅葉を狙ってみたりすると、朝日が昇ってくる時間帯などに、人と違ったすばらしい瞬間が撮れます」(水野さん)
テクニックの習得にのみ熱中せず、一瞬のタイミングを逃さない即応性と五感を働かせるよう心がけて、個性あふれる紅葉写真を撮影してみましょう。
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