スズメバチに対するニホンミツバチの「命がけの戦術」
ウェザーニュース / 2023年3月8日 5時0分
3月8日は「ミツバチの日」でもあります。ミツ(3)バチ(8)と読む語呂合わせから、全日本はちみつ協同組合と日本養蜂はちみつ協会(現・一般社団法人日本養蜂協会)が制定しました。「世界ミツバチの日」もあって、こちらは5月20日です。
「蜂(はち)」や「蜜蜂(みつばち)」は春の季語でもあります。
「ミツバチの日」を機にミツバチの特徴、特にミツバチのスズメバチ対策について見ていきましょう。
セイヨウミツバチとニホンミツバチの違いは?
日本にいるミツバチは「セイヨウミツバチ」と「ニホンミツバチ」の2種類です。
セイヨウミツバチは「ヨウシュミツバチ」(ヨウシュは漢字では「洋種」)ともいい、蜜をとるために海外から持ち込まれ、全国各地で飼育(養蜂)されています。
一方のニホンミツバチはもともと日本に生息しているミツバチで、多くは山地にいます。セイヨウミツバチが導入されたことなどが影響して、減少しています。
大きさを働きバチで比べると、セイヨウミツバチは13~14mm、ニホンミツバチは12~13mmとセイヨウミツバチのほうがやや大きく、ニホンミツバチのほうがセイヨウミツバチより黒っぽい色をしています。
とはいえ、一般的には、セイヨウミツバチとニホンミツバチを見分けるのは容易ではありません。
ただ、大きな違いがあって、それはスズメバチとの向き合い方、戦い方です。
スズメバチはミツバチを襲う
スズメバチは、セイヨウミツバチにとっても、ニホンミツバチにとっても、天敵です。
オオスズメバチやキイロスズメバチはミツバチを襲って食べたり、巣にいる幼虫や蛹(さなぎ)、さらに蜂蜜を自分たちの巣に持ち帰って、女王バチや幼虫に与えることがあります。
スズメバチの襲撃に対して、ミツバチたちは手をこまぬいているかというと、そうではありません。
特にニホンミツバチは、ある方法でスズメバチを撃退しようとします。
それは「蜂球(ほうきゅう)」といわれるもので、ニホンミツバチが集まって、球状の形を作るのです。
「集団蒸し殺し」戦法で、スズメバチに立ち向かうニホンミツバチ
具体的にはどういう方法でしょうか。
スズメバチがニホンミツバチの巣を襲うとき、初めに偵察役のようなスズメバチが1匹やってきます。この偵察役を放っておくと、仲間が次々にやってきてしまいます。
スズメバチがたくさん来たら、ニホンミツバチに勝ち目はありません。
だから、最初のこの段階でニホンミツバチたちはスズメバチに果敢に挑みかかります。何百匹といった集団で1匹のスズメバチに飛びつき、囲んで、胸部の筋肉を震わせるのです。
すると、内部の温度は46~48℃まで上昇し、スズメバチの動きは鈍っていき、まもなく息絶えます。いわば「蒸し殺し」です。熱でもって殺すため「熱殺蜂球(ねっさつほうきゅう)」ということもあります。
この戦術はニホンミツバチにもかなりの負担になるようで、蜂球に参加したミツバチの寿命は短くなるといわれます。蜂球の中心部にいるニホンミツバチはスズメバチに噛み殺される危険性もあります。
まさに「自己犠牲」の精神。ニホンミツバチたちは、子孫を守るために、身を挺して強敵のスズメバチに立ち向かっているのです。
セイヨウミツバチは対抗する術(すべ)を持たない
蜂球はいつも成功するとは限りません。うまくいかずに、スズメバチ(特にオオスズメバチ)が次々にやってきて、襲いかかってくることもあります。
そうなると、もうお手上げ。ニホンミツバチは巣を捨てて、逃げ去ります。巣はスズメバチたちに占領されて、幼虫や蛹は次々に殺されてしまいます。
しかし、逃げたニホンミツバチたちは別の場所で再び巣を作ることを目指し、再起を期すのです。
一方、セイヨウミツバチは蜂球をすることがなく、単純に、しかし勇敢にスズメバチに立ち向かっては、噛み殺されていきます。
セイヨウミツバチは、スズメバチのいない地域から日本に持ち込まれたため、スズメバチに立ち向かう術を持ち合わせていないと考えられます。
非常に厳しい自然界の戦いが、ミツバチとスズメバチの間でも繰り広げられていることがわかります。
ただし、飼育されているセイヨウミツバチは養蜂家の皆さんがスズメバチから守る対策をとっているようです。
〜蜜蜂やしきりに飛んでたのもしき〜
これは、高浜虚子に師事した俳人で法医学者でもあった高野素十(たかのすじゅう/1893~1976)の一句です。
確かにミツバチは頼もしい。スズメバチとの攻防を知ると、その思いが強まります。
参考資料など
『昆虫の生態図鑑 大自然のふしぎ 増補改訂』(監修/岡島秀治、発行所/学研教育出版)、『人気の昆虫図鑑ベスト257』(監修/岩淵けい子、発行所/主婦の友社)、『昆虫図鑑 調べてみよう名前のひみつ』(写真・文/森上信夫、発行所/汐文社)、『俳句の鳥・虫図鑑』(監修/復本一郎、発行所/成美堂出版)、『日本の365日に会いに行く』(編著/永岡書店編集部、発行所/永岡書店)
玉川大学大学院「ニホンミツバチの対オオスズメバチ蒸し殺し戦法は『諸刃の剣』だった」(https://www.tamagawa.jp/graduate/news/detail_14741.html)
三田評論「ミツバチの不思議」(https://www.mita-hyoron.keio.ac.jp/3-person-chat/202106-1.html)、山田養蜂場「養蜂場だより~スズメバチが気になる季節」(http://honey.3838.com/frombeefarm/vol_22.html)
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