コロナ禍の影響で予防接種率が低下!? これから風疹、麻疹に注意
ウェザーニュース / 2023年5月16日 5時10分
新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが日本では5月8日に「2類相当」から季節性インフルエンザなどと同様の「5類」へ移行されました。しかし、コロナ禍の影響で世界的に他の感染症ワクチンの接種率が低下するなど、なお予断を許さない状況は続いています。
ゴールデンウィーク(GW)明けのこの時期、感染症の中でも特に懸念されるのが風疹(ふうしん)と麻疹(ましん=はしか)の流行といわれています。
風疹と麻疹とはどのような疾病(しっぺい)で、なぜ注意が必要なのかについて、日本大学医学部附属板橋病院救命救急センター科長の山口順子先生に解説して頂きました。
風疹・麻疹はどんな病気?
風疹や麻疹とはそもそもどんな疾病で、どのような症状が現れるものなのでしょうか。
「風疹は『風疹ウイルス』による感染症で、飛沫(ひまつ)感染で広がります。
患者は特に30~50代の男性が多いとされていますが、免疫が不十分な妊娠20週以前の妊婦が感染すると、難聴や白内障、先天性心疾患などの『先天性風疹症候群』と呼ばれる症状をもった子どもが出生する可能性があります。
2013年の流行では、45人の新生児の先天性風疹症候群の届け出がありました。
風疹は軽い風邪に似た症状で始まり、37~38度の発熱とともに耳の後ろ側から全身に赤いぶつぶつの発疹(ほっしん)が現れます。
発疹の形や大きさはさまざまで、かゆみはほとんどありませんが、首や耳の下、わきの下のリンパ腺が腫(は)れることが特徴です。発熱と発疹、腫れが3日前後で治まることから、『三日はしか』とも呼ばれます。
一方の麻疹は、空気、飛沫、接触により感染し、感染力が極めて強く、手洗いやマスクの装着だけでは防げません。免疫を持っていない人が感染するとほぼ100%発症しますが、一度感染・発症すると一生免疫が持続するといわれています。
麻疹ウイルスに感染すると、10日前後の潜伏期を経て38度前後の発熱や倦怠感、上気道炎症状が2~4日続き、いったん解熱した後に再び39度以上の高熱が出て、体中に発疹が現れます。
発疹は3日ほどでひいて回復に向かいますが、ウイルス性脳炎や細菌性肺炎などの合併症により死亡する例もあります」(山口先生)
海外からの移入やGWの移動が原因に
風疹と麻疹がGW明けに、注意が必要とされるのはどのような理由によるのでしょうか。
「予防接種の導入や強化などの対策により、風疹や麻疹の国内での流行はしばらく抑えられていました。
ところが、風疹は2011年以降、海外で感染して帰国後発症する移入例が散見されるようになり、2012~2013年にかけて全国で1万6000人を超す全国的な大流行となり、2018~2019年にも流行しました。
麻疹についても2018年、沖縄県で台湾からの旅行者による感染が拡大し、名古屋市から沖縄県へ出掛けた人の感染によって愛知県での感染者も確認されました」(山口先生)
国内で抑制されていたはずの風疹・麻疹のウイルスが、海外から持ち込まれてしまったということですね。
「今年は海外だけでなく国内でもコロナウイルス感染症による行動制限が緩和され、特にこのGWはコロナ禍以前の水準に近い旅行者の大移動がありました。
海外でウイルスに感染した可能性がある人たちが数多く日本に入ってきた可能性もあり、注意が必要です」(山口先生)
コロナ禍の影響から予防接種率が低下
他にも今年特有の、風疹・麻疹への注意が必要な理由があるのでしょうか。
「新型コロナウイルスのまん延が原因で、他の感染症対策に必要なワクチンの予防接種率が世界的に低下していることが挙げられます。
ユニセフ(国連児童基金)の調査によると、世界112ヵ国で予防接種率が低下し、特に麻疹とジフテリアやポリオ、黄熱病の集団感染が増加したとされています。
2021年だけでも2500万人以上、2019・2020年と合わせて約6700万人の子どもが、必要なワクチンの接種機会を1回以上逃しているとの報告もありました。
麻疹ワクチンでみると、予防接種率は2019~2021年の3年間で86%から81%と5ポイント低下。これにより2022年の麻疹感染者数は、2021年の2倍に増加しています。
発展途上国に限らず、2000年に日本と同じく麻疹排除国に認定されたアメリカでも、コロナ禍に伴う感染拡大が起こっています。
ユニセフはWHO(世界保健機関)などとともに、子どもの予防接種レベルをコロナ禍前の水準に引き上げ、上回ろうと努める『The Big Catch-up(大きく取り戻す)』活動に取り組んでいるところです」(山口先生)
日本も例外ではない? GW以降の感染者数増に懸念
日本では「麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)」を接種することで、95%程度の人が風疹・麻疹ウイルスに対する免疫を獲得することができるといわれています。
「1回の接種で免疫がつかなかった人の多くは、2回の接種で免疫をつけることができます。ただし、日本も例外ではなく、MRワクチン接種率が低下傾向にあるのです。
MRワクチンは2006年度から1歳児と小学校入学前1年間の小児に対する2回接種制度が導入されています。
厚労省と国立感染症研究所感染症疫学センターの『麻しん風しんワクチン接種状況』によると、第1期(1歳児)の全国平均接種率は2019年度が95.4%、2020年度が98.5%だったのに対し、2021年度は93.5%にとどまりました。
第1期MRワクチン実施率の93.5%は、2回接種を開始した2006年以降最低で、95%を下回るのは2009年以来のことになります」(山口先生)
風疹・麻疹の流行を防ぐためには、第1期・第2期ともに95%以上の接種率を保つことが望ましいとされていますので、国や自治体では2回のMRワクチン接種を忘れずに受けるよう呼びかけています。
「東京都でも、5月12日に新幹線に乗り合わせた男女2名が麻疹に感染していることが分かりました。都内で感染が確認されたのは2020年2月以来の約3年ぶりになります。患者の疫学調査から、4月にインドへの渡航歴のある麻疹患者との接触歴が確認されているようです。
GW明け以降、海外渡航者やインバウンドによる感染者の移入増に伴う流行が懸念されているところです。未接種の場合は任意接種も行っていますので、予防のためにも積極的に受けるようにしましょう」(山口先生)
免疫を持っていないリスクのある世代とは?
定期接種の対象者だけではなく、成人も油断はできません。罹患歴がなく、2回の予防接種歴が明らかでない人は免疫が不十分な可能性がありますので、予防接種を検討してください。
「特に、風疹については、特に1962年4月2日から1971年4月1日生まれの男性は、ワクチン定期接種の機会がなかったため、免疫を持っていない可能性があります。
また、麻疹については2回の定期接種が義務化されたのが1990年4月2日以降です。1990年4月1日より前に生まれた人は予防接種が1回未満の世代になり、こちらも免疫が十分でないかもしれません。
ご自身の予防接種歴が分からない場合は、抗体検査を受けると免疫の有無がわかります。成人でもワクチンは有効なので、もし検査で免疫が十分でなければ、積極的にワクチンを接種しましょう」(山口先生)
厚労省は2019年度から「風疹の追加的対策」として、1962年4月2日~1979年4月1日生まれの男性を対象に、原則無料でMRワクチン接種を行う「第5期定期接種」を実施しています(2024年度まで)。対象者には在住する市区町村からクーポン券が送られます。
「さらに、妊娠を希望する女性や、抗体を保有していない妊婦の家族で過去に風疹・麻疹にかかったことのない人は抗体検査を受け、抗体価が低い場合には接種を検討してください。
また、MRワクチン以外に予防接種を行っていない感染症がないかについても、この機会に再確認してみると、安心です」(山口先生)
GW明けに風疹・麻疹を大流行させないためにも、抗体検査の受診を検討してみてはいかがでしょうか。
参考資料など
厚生労働省「麻しん風しん予防接種の実施状況」、同「麻疹の現状と今後の麻疹対策について」、同「風しんの追加的対策 Q&A(対象者向け)」、同「風しんについて」、同「麻しんについて」、内閣府「昭和37年~53年度生まれの男性へ 風しんの抗体検査・予防接種を!」、日本小児学会「MRワクチンの接種推奨対象者について」
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