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地球温暖化がもたらす「海洋酸性化」の問題とは?

ウェザーニュース / 2024年6月5日 11時30分

ウェザーニュース

日本の海に異変が起こっています。珊瑚礁に棲む沖縄の大衆魚グルクンが伊豆半島で確認され、2022年にはかつて全国一を誇ったサンマの銚子港水揚げがゼロとなりました(2023年は復活するも低水準)。

また、瀬戸内海や西日本近海が主産地だったフグの漁獲量は、ここ数年、北海道が1位をキープ。ブリやタチウオなどの漁場も北へ北へと移ってきました。さらにはカキの養殖や甲殻類・貝類の水揚げにも変化が起きていると報告されています。

こうした海洋生態系の変化は、地球温暖化にともなう海水温の上昇が主因といわれてきましたが、近年、海洋酸性化もクローズアップされているのです。

今回は海洋酸性化の原因と影響について、ウェザーニュースLiVE「地球天気予報」の解説を務める、ウェザーニュース予報センターの森田清輝(以下、モリタ)と一緒に考えてみました。

気温だけでなく海水温も上がっている

日本近海の海水温は、2023年までの100年間において1.28℃上昇しました(年平均海面水温)。世界平均の上昇率(+0.61℃/100年)よりも大きく、日本の気温の上昇率(+1.35℃/100年)に匹敵する値です。

このまま地球温暖化が加速すれば、21世紀末までに100年あたり、3.6℃上昇するという予測もあります。

近年はサケやサンマなど身近な水産物の漁獲量の減少が相次いでいますが、今後の海水温の上昇によって、分布域の変化や不漁といった、さらなる水産資源への影響が懸念されています。

海は二酸化炭素(CO2)を“呼吸”している!?

海水温の上昇以外にも大きな問題があります。海洋酸性化です。まだまだ認知度が低い現象ですが、海洋酸性化は平均気温や海水温の上昇とも関係があるといいます。

「二酸化炭素は水に溶けやすい性質を持っています。家庭で炭酸水を作るサーバーは、冷水ボトルやコップに炭酸ガスを『ジュジュー』と注ぐだけで簡単にできてしまいます。同じように大気中の二酸化炭素も容易に海中に溶け込むのです。

地球温暖化に関する学術機関『気候変動に関する政府間パネル』(IPCC)は、1年間に産業活動で排出された二酸化炭素(炭素重量換算で約109億トン)の実に4分1を海洋が吸収していると発表しています。これは森林の二酸化炭素吸収量の10倍近い数値です(IPCCデータ)。

一方で、二酸化炭素を大気へ放出する海域も存在します。季節や年によって、吸収量や放出量は大きく変動するのですが、変動する主な要因のひとつが、大気中と海水表面の二酸化炭素濃度の差です。

海水表面の二酸化炭素濃度が大気よりも高いと、海面から大気へ二酸化炭素が放出されます。逆に海水表面の二酸化炭素濃度が大気よりも低いと、海は大気から二酸化炭素を吸収するのです」(モリタ)

海面の二酸化炭素濃度はどのように変化するのでしょうか?

「例えば、水温が上がると、二酸化炭素は水に溶けにくくなるため、海面表面の二酸化炭素濃度が高くなり、大気に放出されます。これはコーラをイメージすると分かりやすいのではないでしょうか。冷たいコーラは炭酸が強く残りますが、ぬるいコーラは炭酸が抜けやすいですよね。

また、二酸化炭素は海底に溜まりやすいのですが、鉛直混合(えんちょくこんごう)によって海底に溜まっていた二酸化炭素が表面に上がってくることがあります。すると、表面の二酸化炭素濃度が高くなり、大気へ二酸化炭素が放出されます。

このように、海水温や、鉛直混合などのさまざまな影響を受けて、海の二酸化炭素濃度は大きく変動します。まるで海が“呼吸”しているように二酸化炭素の吸収と放出を繰り返しているのです。

これまでは海が二酸化炭素を“呼吸”してくれるおかげで、地球全体としてバランスが保たれてきたのですが、大気中の二酸化炭素が増大している現在、海中に溶け込む量も増えてきています。これは観測データによっても明らかで、綿々と続いてきた海の“呼吸”バランスは崩れつつあるのです」(モリタ)

海洋酸性化で失われかねない生物多様性

大気中の二酸化炭素が増えると平均気温は上昇しますが、海中の二酸化炭素が増えるとどんな現象が起こるのでしょうか?

「海洋酸性化です。二酸化炭素の一部は海中で炭酸に変化し、やがて炭素が分離して水素イオンとなります。溶け込む二酸化炭素が増えると、当然、この水素イオンも増加します。

本来、海水は海洋生物が好む弱アルカリ性のpH8.1程度(海面付近)ですが、近年は水素イオンが増えることで酸性化に向かっているというのです(Ph/ペーハー。液体が酸性なのかアルカリ性なのかを示す水素イオン濃度。中性はpH7)。

海洋酸性化といっても酸性になるということではありません。酸性化すればそれこそ死の海ですから。弱アルカリ性の適水が酸性方向に振れ、海洋生物が棲みにくい環境になっていくということです。海洋酸性化が進めば、生息種が変わり生息数や生息域が変化する可能性があるのです。

最近では、炭酸カルシウムの骨格をもつサンゴや貝類などの骨格成長への影響が報告されています。酸によって骨格が溶けてしまうのですね」(モリタ)

将来、カキや貝類の価格が上昇してしまうのでしょうか?

「海洋酸性化が進めば、心配されるでしょう。でも、食卓の問題にとどまりません。心配なのは、生態系の最下層に位置づけられる海洋プランクトンや微生物が繁殖しにくくなるということです。

これらを捕食して成長する魚類の稚魚や幼魚に影響してきます。魚類が成長しにくくなれば、海の生態系の上部にいる海獣たちも生活できません。

海洋酸性化は海の生態系全体に影響を及ぼしかねない深刻な問題です。さらには地球上に3000万種以上といわれる生き物の互いのつながりと、その生物多様性さえ脅(おびや)かしかねないのです」(モリタ)

二酸化炭素などの温室効果ガスの増大は、平均気温や海水温の上昇にとどまらず、海洋酸性化という問題を誘発していることがよくわかりました。地球上のさまざまな生き物の命のつながりを保つこととも密接に結びついているのですね。

ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきたいと考えています。



▶ 森田 清輝(もりた きよてる)

ウェザーニュース予報センター所属のベテラン気象予報士。現在は、24時間生放送の気象情報番組ウェザーニュースLiVEで「地球天気予報」コーナーの解説を務める。



参考資料
気象庁「海面水温の長期変化傾向(日本近海)」、同「海洋による二酸化炭素の吸収・放出の分布」、同「地球温暖化予測情報第9巻」、文部科学省・気象庁「日本の気候変動2020 大気と陸 海洋に関する観測・予測評価報告書」、農林水産省「気候変動に対応した漁場整備方策に関するガイドライン」、水産総合研究センター「水産資源ならびに生息環境における地球温暖化の影響とその予測」

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