1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

桜だけじゃない!? 温暖化で紫陽花(アジサイ)の開花前線にも変化が

ウェザーニュース / 2024年6月9日 5時10分

ウェザーニュース

梅雨前線が活発になってきています。雨が降るなか一層美しく咲くのが紫陽花ですが、その咲き方に変化が生じているといいます。

近年は桜の開花日のズレが大きな話題となっていますが、紫陽花の開花も今年は全国的に非常に早い傾向です。

古くから日本に自生していた紫陽花に何が起きているのか、気候学、生気象学から環境問題を考える専門家に解説していただきます。

小さな変化も気候変動のしるし?

毎年、梅雨近くには民家の庭先や線路脇、公園など街のあちこちで紫陽花が咲き始めます。紫陽花は日本最古の歌集「万葉集」でも詠まれるほどに、古くから日本人に親しまれてきました。ところが紫陽花に変化が生じているといいます。

「近年、紫陽花の開花日が早期化しているのです」と、気候変動が人や自然に及ぼす影響について研究している法政大学文学部地理学科教授の山口隆子先生は指摘します。

一般的に紫陽花の開花は5月の終わりから6月はじめに九州地方南部で始まり、徐々に北上しながら7月には東北から北海道に到達、8月中旬に北海道北部で開花を迎えます。

開花日の早期化の原因と考えられるのが、気温の上昇だといいます。

「近年は各地のさまざまな植物で、発芽、開花、落葉などに変化が見られ、時には人の生活にも影響を与えています。注目されやすい桜も、温暖化の進行によりソメイヨシノの生長が早まり、将来の開花日が早くなることが予測されるという研究などがあります。

季節による植物や動物の変化は、『かっこうが鳴いたら種まき』というように、古くから季節の進行を予測するしるしとして利用されてきました。気象庁でも1953年から様々な植物や動物の季節に関わる現象を『生物季節観測』として発表されていました。紫陽花についても、1964年から調査対象とされてきたので、私たちもこのデータから紫陽花の変化について調べてみたのです。

1987年から2016年の30年間の全国54地点のデータを解析したところ、紫陽花の開花日の全国平均は30年間で約3.78日早くなっており、早期化の傾向が示されました」(山口先生)

開花日を決めるのは気温? 湿度? 雨?

地球温暖化による気温上昇が紫陽花の開花日に影響したということでしょうか。

「全国平均では早期化の傾向が見られましたが、開花日変化率の分布を見ると、地域差があります。

例えば稚内(-0.42日/年)、網走(-0.47日/年)、長野(-0.55日/年)などの北日本で早期化の傾向が強くあらわれましたが、逆に、鹿児島(0.40日/年)、宮崎(0.47日/年)といった南九州の一部の地域などでは少し開花日が遅くなる傾向がみられたのです」 (山口先生)

以下は稚内と宮崎の開花日の経年変化を示したグラフです。このままの条件が続けば、今世紀末には宮崎と稚内で同時に紫陽花が開花することになると考えられます。

このような紫陽花の開花前線の変化は何が影響しているのでしょうか?

「降水量や湿度などの開花に影響する気候要素を検証したところ、もっとも影響していたのは気温、それも春の気温だったのです」(山口先生)

直前3ヵ月の気温が影響?

「実はこれまでは、開花が遅れる原因として指摘されてきたのは“暖冬”でしたが、今回調査したところ、11月〜2月の『日最低気温の月平均値』と開花日には、はっきりとした関係はありませんでした。紫陽花の晩期化に暖冬の影響がみられなかったのです」(山口先生)

逆にはっきり影響がみられたのが、春の気温です。

「3月〜5月の3ヵ月間の平均気温(※1)の変化に、最も強い関係がみられました。紫陽花の花芽がつくられるのは 11月くらいからですが、咲く直前の気温の影響ということです。

例えば、北海道では3ヵ月平均気温の変化率が-0.54で、開花日の変化率が-0.30でしたが、九州では3ヵ月平均気温の変化率が0.29に対して、開花日の変化率は-0.07でした。

30年の経年変化や緯度帯による違いなども検証した結果、春の早期化と高温化が開花の早期化を招き、晩期化は春の気温の低下の影響と考えられるのです」(山口先生)

開花前線の速度も加速

山口先生は他にも気になることがあるといいます。

「紫陽花の開花日の経年変化とともに、開花前線の速度が加速しているのです。

今回の研究では、紫陽花の開花前線は、緯度が1°北上すると約5.0日遅くなっていました。1999年に報告(※2)された約5.4日と比べて、0.4日早まっているのです。近年の温暖化による影響だと考えられます」(山口先生)

将来、紫陽花の開花日はどうなるのでしょうか。

「紫陽花の開花日については、寒い地域と暖かい地域では植物の気温に対する感度が異なること、湿度や降水量だけでなく土中の水分量の影響など、さらなる研究の必要があります。

植物は、気候環境の変化に敏感に反応するものです。

気温の長期的変化によって、開花時期が変化すれば、花粉を媒介する動物の活動にも変化が生じるでしょう。温暖化とその影響について正しく知るためにも、自然を観測し丁寧に読み解いていく必要があるのではないでしょうか」(山口先生)

温暖化の影響は私たちの生活にも大きな変化をもたらす可能性があるものです。ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。



(※1)北海道は開花日が遅いことから4月〜6月の平均気温を使用
(※2)「生物季節による温暖化の影響と検出」(増田啓子,吉野正敏,朴恵淑,1999)

参考資料
「日本におけるアジサイの開花日に関する気候学的研究」(華表正明,山口隆子)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください