今年はウメ・サクランボが不作 昨年の猛暑・暖冬の影響で出荷量が大幅減
ウェザーニュース / 2024年6月15日 5時10分
猛暑や暖冬、台風や線状降水帯による水害、水不足や干ばつなど、地球温暖化に起因する異常気象や災害は激しさを増しています。
これを日常生活に身近な視点で捉えると、年々深刻になっているのが農作物への影響です。
南北に細長い日本は亜熱帯から寒帯まで気候帯に幅があります。このため適地適作(土地の気候や土壌に合わせた農産物を栽培すること)が行われ、多種多様な農産物が生産されてきました。そのため日本は地域ごとに特産品が育まれてきた食材天国といえます。
しかし、果樹や野菜などは、猛暑や暖冬、水害・雹害といった気象の影響を受けやすく、近年は収穫量の減少や品質低下などに悩まされる農業現場が目立ちます。
ウメの着果は例年の3割、出荷量は4〜5割減
今年、大打撃を受けたのが日本の食卓を支えてきたウメです。ウェザーニュースのユーザーからも「今年は実が少ないです」「今年は庭の梅に実がほとんどついていません 残念ですが梅干し作りは諦めてます」といったコメントが多く寄せられています。
主な産地は和歌山県をはじめ群馬県・三重県・奈良県などですが、全国シェア70%を占める和歌山県では、2024年の着果(花が咲いて実が着くこと)が地域によっては例年平均の3〜4割程度となっていました(JA紀南などが4月に行った調査)。
最終的な出荷量も昨年の6割程度となる見込み(出荷量は1万3千トン余り。出荷は7月上旬まで続く)で、同じ近畿地方の三重県・奈良県やも減産を余儀なくされています。
有数の産地である和歌山県田辺市のJA紀南本所の栗栖昌央指導員は、「2020年のウメ栽培も低調でしたが、今年は過去10年で最も不作の年となりました。一番影響したのが暖冬です。外気温が高く、ウメが早期に開花した結果、実の数が減ってしまいました」と語っています。
「開花が早まると実が減る」これは、花の器官の成長と受粉・受精に関係しているといいます。和歌山県果樹試験場うめ研究所の綱木海成研究員によると、「栽培品種の8割を占める『南高梅』は、他品種の花粉を受粉して実を成します。開花前に気温が高いと、雌しべや花粉が発育不全を起こしたまま開花し、受精能力そのものが低下してしまうのです。
また、受粉の際に重要なのがミツバチなどの昆虫。ミツバチはデリケートな昆虫で、気温や天候によってその活性化が左右されます。ウメの開花が早まると、ミツバチの活動時期とずれが生じてしまい、受粉がうまくいかずに実が減ってしまうことがあるのです」
今年のミツバチの活動は平年並みということですが、不作は着果後の雹害と実の汁を吸うカメムシの大発生にも原因がありました。和歌山県のウメ栽培は、暖冬・雹害・カメムシのトリプルパンチに見舞われてしまったのです。当然、市場価格にも影響を与える見込みで、高値で推移する可能性があります。
今後も地球温暖化による暖冬が予想されるため、「対応策として、(1)暑さに強い台湾の梅との交配種を育成して暖冬に対応する、(2)摘心栽培(てきしんさいばい/新しい梢を早い時期に摘むこと)をして着果量を増やす、(3)肥料を適正に与える、などの工夫が必要」と綱木海成研究員。
同じ和歌山で盛んなミカン栽培にも、ミカンの開花が早まって浮き皮(果肉と果皮が分離した状態)になるなど、暖冬の影響が顕著に出ているといいます。
サクランボ生産に影響する猛暑と暖冬
![](https://smtgvs.cdn.weathernews.jp/s/topics/img/202406/202406110135_box_img1_A.jpg?1718165020)
収穫前の「佐藤錦」。猛暑で2つの実がくっついて生長する異常が多発(画像/hiro.smile.farm)
果物ではサクランボにも猛暑・暖冬の影響が懸念されています。全国のサクランボの75%を生産する“サクランボ王国山形”の生産者たちは、平均気温の上昇に頭を悩ませています。
「猛暑の場合には、翌年の実になるサクランボの花芽が十分に育ちません。猛暑でなかったとしても、暖冬の場合には花が咲きにくくなります(十分な開花には冬の低温が必要)。
今年の作柄(収穫時期は4〜6月)は昨年の猛暑と今年の暖冬で、収穫が1,000t程度落ち込む見込みです(2023年の生産量は13,000t)」と話すのは、山形県さくらんぼ作柄調査委員会事務局の果樹振興担当・伊藤祐幸さん。
猛暑・暖冬の場合、実が成っても双子果(2つの実がくっついて生長)の割合が高くなり、商品にできる歩留まりが低くなるといいます。双子果とは猛暑で花芽の生長に異常が起こり、雌しべが2本になって生じる現象です。
今年は全体の5〜10%に双子果が確認されたそう。毎年のように繰り返される猛暑は、サクランボの大敵なのです。
山形県天童のフルーツ農園、hiro.smile.farmの後藤広美さんも、今年のサクランボの作況について次のように話します。
「去年は遅霜で7割減、今年は霜の害はなく順調に花が咲いてホッとしていました。しかし花を見ると雌しべが2本の異常花が多数あり、心配していましたが、やはり結実してみると双子果が多く確認されました。収穫の7割が双子果という日もあります。
こうした双子果は、正常な1粒の果実の生長を妨げるので見つけたら摘果せざるを得ません。また、成長してもジャムなどの加工品の原料に回される規格外商品で、正規商品とはならないのです」(後藤さん)
暑さに強いビワは大豊作
一方、暖冬でうれしい悲鳴をあげている果樹農家もあります。全国有数のビワ生産地である千葉県南房総市では、ビワが大豊作で果実も大きく成長しました。果肉も甘い一級品です。
ビワは寒さに弱いものの暑さに強い植物で、千葉県は長崎県に次いで全国2位の生産量を誇ります(長崎県と千葉県で全国の40%以上を生産)。ビワの花はマイナス5℃、実はマイナス3℃で死んでしまうため寒さが大敵ですが、黒潮の影響で温暖な南房総市はビワ栽培の北限の一つとなっています。
猛暑・暖冬などの影響を受けやすい果樹栽培は、このまま温暖化が進むと将来的に適地適作地図が塗り替えられる恐れがあるようです。
果樹は季節の変わり目を実感させてくれる日本の風物詩です。長い歴史を積み重ね、独自の食文化を育んできた生産地は変わって欲しくないですね。
ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。
写真:ウェザーリポート(ウェザーニュースアプリからの投稿)
参考資料
長崎県「長崎県の令和6年産びわ生産、生育および販売概況」、農林水産省「令和5年産びわ、おうとう、うめの結果樹面積、収穫量及び出荷量」
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