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ヒートアイランド現象に、街の緑化はどれくらい効果がある?

ウェザーニュース / 2024年7月20日 5時10分

ウェザーニュース

各地で厳しい暑さが続いています。木陰があると安らぎや涼しさを感じるものですが、こうした樹木が自然環境へ与える影響はどうなんでしょうか。

特に注目したいのが、日中の酷暑や夜間の寝苦しさなどの一因とされているヒートアイランド現象への影響です。

東京都職員として緑行政・ヒートアイランド対策に携わり、現在は気候変動が人や自然に及ぼす影響について研究している法政大学文学部地理学科教授の山口隆子先生に教えていただきます。

クールアイランド効果とにじみ出し?

「ヒートアイランド現象とは、都心部の気温が郊外と比べて島状に高くなる現象です。地球温暖化の影響とヒートアイランド現象により、東京ではこの100年で年平均気温が約3℃も上昇しています。

熱中症などの深刻な健康被害の懸念もあり、国や自治体で対策が進められており、緑化もその1つです」(山口先生)

森や草原のような“大きな緑”ではなくても、緑化に意味はあるのでしょうか。以下は、気象庁の「東京」の新旧観測地点である北の丸公園露場(ろじょう)と大手町露場の気温差です。

北の丸公園露場は皇居外苑の公園内にあり、大手町露場は皇居北側で周囲はビルや首都高に囲まれています。最低気温が全期間を通じて北の丸公園露場が1.0℃以上低く、平均気温も低めでした。

広い範囲での影響はどうでしょうか。次のグラフは東京都の2つの地点で観測した気温と半径0.5kmの緑被率(りょくひりつ/樹林・草地、農地、園地などの緑で占められる土地の面積割合で自然度を表す指標)の相関です。

「日最低気温と日平均気温は全期間を通して負の相関(一方のデータが増えると、もう一方のデータは減る関係)があり、緑被率が高いところほど気温が低くなっています。

1日の最高気温と最低気温の差である気温日較差も、2003年7・8月を除いて正の関係があり、緑被率の高いところほど大きかったのです。しかし、日最高気温は全期間を通して緑被率との関係が確認できませんでした」(山口先生)

最高気温に大きく影響しないとは意外です。

「緑地の効果は日中と夜間で異なります。暑いときにコンクリートの建物やアスファルトに囲まれた場所から木陰や緑地に移動すると涼しさを感じますが、それは気温差ではなく植物からの蒸散や日射を遮る効果などによるものです。日中の気温を下げることは難しいのです。

しかし、夜間は状況が異なります。コンクリートやアスファルトなどは日中に蓄熱しやすく、夜間もなかなか冷えません。それに対して緑地では、蓄熱の小ささと放射冷却により表面温度が低くなります。

エアコンなどの人工排熱がないこともあり、周囲と比べて冷たい空気=クールアイランドが生じます。そのため最低気温と平均気温が低くなったのです」(山口先生)

クールアイランドからは、周辺へ冷気がにじみ出ていきます。

「緑化によるヒートアイランド対策には、緑地内でのクールアイランド効果と緑地から周辺への冷気のにじみ出しの2つの効果があるとされていますが、これらの観測からも確認できました」(山口先生)

屋上からの熱で大気が暖まる?

身近なところでの緑の効果についてみてみましょう。

「都市部での緑化の方法に『屋上緑化』があります。東京都では市街地などの緑の創出とヒー トアイランド現象などの緩和のために2001年から一定基準の建物の屋上緑化を義務化し、他の自治体でも助成制度などを進めています」(山口先生)

次のグラフは屋上に緑化区と無処理区を作り、表面温度や階下の天井の表面温度を観測したものです。

「9月12日12時の測定では、無処理区で約55℃対して緑化区の表面温度が約30℃と、約25℃の差がありました。建物は断熱処理がされていましたが、階下の天井温度で1〜3℃程度、室内温度で0.5〜1℃の低減効果がありました」(山口先生)

屋上緑化で減らせるのが、屋上から大気に放出される熱量です。

「屋上の熱の出入りは表面の状態によって、日射を反射する量、表面から内部へ伝わる熱量、表面から大気に放出される熱量に違いがあります。表面の温度は直接大気に放出されるヒートアイランドの元凶ともいえるものです。

パレットの緑化は薄くて軽いものでしたが、日中の表面温度には大きな差が生じ、階下の温度低減効果もありました。屋上緑化には、屋上から大気に放出される熱を減らす効果があります。また、植物が断熱材の役割をして、夏期のエアコン使用による人工排熱を減らせます。

なお、植物の種類、水やりの頻度を変えた比較観測では、コンクリートの対照区が約60℃になっていたときにも、緑化区は総じて30〜37℃程度、水やりを減らした緑化区でも35〜45℃程度でした。屋上緑化は顕熱(けんねつ/大気に放出される熱)を低減しますが、植物の種類や水やりの頻度によって効果に幅があります」(山口先生)

壁面緑化で蓄熱・放熱を低減

一般家庭でも応用しやすい壁面緑化についてはどうでしょうか。

「表面温度は、コンクリートの対象区が日夜を通じて高く、すべての緑化区が低めでした。15時過ぎに差が最大となり、約10℃の温度低減がありました。

壁面外部と内部での熱の移動を示す『貫流熱量』も観測しました。対象区では日中に熱をよく吸収して夜間に熱を放射しますが、緑化区では熱の吸収も放射も少ないという結果でした。

壁面緑化は日中の壁面温度の上昇、夜間の壁面から周囲への熱の放射を低減し、ヒートアイランド緩和効果があるということです」(山口先生)

オフィスや家庭でも”緑”の力を

気候変動への取り組みには、緩和と適応の2つのアプローチがあります。「省エネ家電を使うことで温室効果ガスの排出を減らす」といった原因を抑えていく緩和策に対して、適応策は「気温の上昇に耐えられるよう作物を品種改良する」というよう考えられます。

「街の緑化は気候変動への適応策の1つといえます。土地の限られる都市部では公園や街路樹だけでは限界があり、屋上緑化なども重要になってきます。オフィスや家庭で取り組めるのも利点です。

庭やベランダ緑化(プランターやグリーンカーテンなど)、駐車場のすきま緑化などです。また、観葉植物を夏期は窓際に移動させるのも、室内への直射日光を防いで有効です。

自然と共存しながら快適に暮らすには、一人一人が意識することが大切なのではないでしょうか」(山口先生)

身の回りのできることから実践することが、将来の地球を守ることにもつながるのですね。

ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。



参考資料
「気象ブックス029 ヒートアイランドと都市緑化」(山口隆子、成山堂書店) 、「地上気象観測地点『東京』の露場移転について」(観測部,東京管区気象台,測候時報,第83巻,2016)

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