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温暖化で東京湾が南国の海に? サンゴ、漁業…、東京湾に起こる異変とは

ウェザーニュース / 2024年9月23日 5時10分

ウェザーニュース

今夏は耐えがたい暑さの日が続き、豪雨や雷雨なども多発しました。極端な天気に地球温暖化の影響も指摘されていますが、海のなかにもその影響が及んでいるようです。

江戸前という言葉で知られるように、東京湾は古くから魚介類や海苔(のり)などの獲れる豊かな漁場でもありました。ところが東京湾でサンゴが増え海苔の不作が続くなど、海が変わってきているといいます。

東京湾にサンゴ?

東京湾は、房総半島西側の洲埼(すのさき・千葉県館山市)と三浦半島の剱埼(つるぎざき・神奈川県三浦市)を結ぶ線より北の水域で、湾奥に東京があります。

「東京湾のサンゴは昨年と比べても確実に増えている」というのは、東京湾に50年以上潜り続けているという、かっちゃまダイビングサービス(千葉県安房郡鋸南町)・ガイドインストラクターの魚地司郎さんです。

「東京湾でサンゴを見かけるようになったのは、30年ぐらい前からです。10年ぐらい前からどんどん拡がり、ここ5年は変化が急激です。半年ごとに増えていると感じるほどです」

魚地さんが東京湾でサンゴが増えている理由と考えているのが、温暖化の影響、特に冬期の海水温の変化です。暖かい海を生息域とするサンゴの卵などが海流にのって東京湾まで運ばれてくることがあっても、かつては冬を越せなかったといいます。

「冬に海水が冷たくなるので、生き延びられなかったのです。10年ぐらい前から低くても12〜13℃、5年ぐらい前からは13〜14℃というように、下がらなくなってしまったのです。

30年前に温帯性サンゴが見つかっていましたが、この5年ぐらいはエンタクミドリイシのような南方系サンゴが増えています。今では23種類ものサンゴが観察されるようになりました」(魚地さん)

南方系サンゴのエンタクミドリイシ。近年、東京湾でも増えている

海の景色を変えているのはサンゴだけではありません。

「海流や台風で運ばれてくる季節来遊魚、つまり熱帯性の魚も越冬できるようになってしまっています。逆に東京湾に多かったメバルがここ5年ほど激減しました。海藻のカジメがなくなってしまったので、サザエやアワビが減り、イセエビが増えています」(魚地さん)

温暖化で水質・漁業にも影響が!?

千葉県水産総合研究センター(以降、研究センター)では、1947年から東京湾の水質調査を行っていますが、水温は40年前より約1℃上がっているといいます。

海水温は季節により変化しますが、東京湾では2月が最低水温期で3月に上昇して夏に高めになり、秋から冬にかけて下がっていきます。

「2010年代と、40年前の1970年代の月別水温を比較すると、9月から翌年3月までの秋冬季の水温が高く、特に10~12月は2~3℃上昇しています。

季節ごとの経年変動をみると、秋〜冬季の水温が上昇しており、それよって年間平均値が上がっています」と、研究センターは説明します。

また研究センターは東京湾の水温など水質の長期変動が、水産生物に影響を与えることを指摘しました(※1)。例えば江戸前でしられる海苔は、秋冬季の水温の変化の影響を受けていると考えられます。

東京湾における海苔の養殖では、秋季に水温23℃以下で網を張って育苗を始め、18℃以下で生産を開始します。水温15℃以下が、海苔の品質低下の原因となる赤腐れ病などの発生が抑えられ、安定して生産できる目安とされています。

ところが、18℃を下回る時期が1960年代の10月末から、1990年代には11月10日頃に変わりました。15℃以下になる時期も同じように10日ほど遅れています。そのため海苔の生産開始時期が遅れ、収穫時期が短くなります。

さらに、海苔をエサとするクロダイにも変化が生じているといいます。

東京湾で海苔を食べるクロダイ(千葉県水産総合研究センター提供)

「東京湾の冬季の水温は、北部(内湾)で低く、南部(湾口)で高くなります。1990年代は冬季に北部で水温が10℃を下回っていたため、低い水温(10℃程度)が苦手なクロダイは、北部に分布できませんでした。

ところが、近年は冬季の北部の水温が下がらなくなってきたため、クロダイは冬季でも北部に分布するようになり、底びき網漁業での漁獲が増えています」(研究センター)

クロダイの冬季の分布域が北上していることからも、海苔の収量への影響が懸念されています。さらに、海苔やクロダイと同じように、アマモなどの海藻類も水温の影響を受けており、藻場で育まれる生き物も活動や分布が変わっている可能性があるといいます。

加えて、秋に海水温がなかなか下がらないために、貧酸素水塊の解消が遅れることも指摘されています。

東京湾では、春から夏に酸素の少ない水の層である貧酸素水塊が発生しますが、解消時期のずれは二枚貝やゴカイなどの生育に悪影響があり、それをエサとするカレイ類、シャコ、アナゴ類の減少につながる可能性があります(※1)。

日本の海が変化している

温暖化の影響は東京湾だけではありません。日本近海の海水温は、2023年までの100年間において1.28℃上昇しました(年平均海面水温)。世界平均の上昇率(+0.61℃/100年)よりも大きく、日本の気温の上昇率(+1.35℃/100年)に匹敵する値です。

海域により上昇率は異なりますが、サンゴ礁の白化が進んだり、水揚げされる魚の種類や量が大きく変化するなどしています。

「水温上昇により全国で魚介類の分布が大きく変化しています。

東京湾でも、海苔生産期間の短縮、クロダイ、アイゴ、ブダイなどの植食性魚介類の増加による磯焼け、海苔の食害などが顕在化し、今後も続くと考えられます」(研究センター)

東京湾では昔からさまざまな漁業が行われてきましたが、地球温暖化はその環境を大きく変えてしまうかもしれません。

ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。



参考資料
※1「東京湾における水質の長期変動と水産生物への影響」(石井光廣、海洋と生物41)、「千葉県データセットから見た東京湾における水質の長期変動」(石井光廣、長谷川健一、柿野純、水産海洋研究72)
文部科学省及び気象庁「日本の気候変動2020―大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書—」

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