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今年も頻発 気候学者も驚く“極端な天気”が増えている理由

ウェザーニュース / 2024年10月12日 5時10分

ウェザーニュース

今年は、東北地方日本海側の大雨や台風10号、能登の豪雨などの気象災害が日本列島を襲いました。そのほかにも、「観測史上初」「過去に経験したことがない」天気になることが多く、その要因として「地球温暖化の影響」が挙げられています。

近年の豪雨や強い台風、酷い暑さのような“極端な天気”は、本当に地球温暖化の影響といえるのでしょうか。極端現象(異常気象)の発生確率や気候変動との関連を研究する、東京大学大気海洋研究所気候システム研究系准教授の今田由紀子先生に教えていただきます。

気候学者も驚く“極端な天気”

地球規模の大きな変化「気候変動」の影響が、身近なところにも現れてきていると感じることが増えました。近年世界や日本で起きている極端な気象現象は、気象の専門家にとってもインパクトが強いといいます。

「昨年、日本平均気温や世界平均気温はともに過去の記録を大きく更新して1位の年となり、その異常さに世界の気候学者が驚き、事例分析を開始していました。そんななか、今年に入っても世界平均気温は衰えることなく、平年よりも高温の状態を維持し、結果、日本の夏の気温も昨年に並ぶ極端高温となりました。

過去の統計からかけ離れた極端な値は、地球温暖化のような長期的な気候変動だけでは説明できず、偶発的な気象現象が重ならないと起こり得ません。そのような偶然が重なる状況が昨年と今年で連続して起こっているということにまず驚いています」(今田先生)

パラレルワールドで検証するイベント・アトリビューション

極端な気象現象が起きたとき、よく「地球温暖化の影響がある」と説明されます。しかし、異常気象を科学的に検証するには難しさがあるといいます。

「異常気象は、たまたまその時その場所に発生した『風がいつもと異なる吹き方をした』『湿度が高い』などの大気の“ゆらぎ”が重なって初めて発生します。

しかし、30年に1度程度しか起こらない現象ではデータ量が少ないために、そこに温暖化が影響しているか、偶然のゆらぎなのかといった評価が難しいのです」(今田先生)

そこで、今田先生らの研究チームが検証に使うのが、イベント・アトリビューション(以下EA)という、スーパーコンピュータで気候モデルを使ったシミュレーションです。

いわばコンピュータ上のパラレルワールドに“たくさんの地球”を作り、同じ気候条件で、その気象現象がどのくらいの確率で起きるか実験します。

また、実際の気象現象を再現したシミュレーションと、工業化以降から現在までの気温や海面水温等の変化を除いたシミュレーションを行うことで、“地球温暖化がなかった地球”との比較もします。

EA検証でわかってきた温暖化の影響

EAによる検証によって、多くの極端現象で温暖化がなければ発生する可能性が低かったり、強さが違ったりしている可能性が高いことがわかってきています。

「例えば、温暖化が進んでいるといっても、日本で猛暑になる確率は年によってさまざまです。猛暑になる主要因は、偶発的な自然のゆらぎが重なることによるもので、温暖化はそれを後押しする“脇役”です。しかし、近年では脇役の働きが次第に目立ってきているといえます」(今田先生)

近年、雨がもたらす川の氾濫や土石流、農業被害などが多く発生しています。これも温暖化の影響が強いのでしょうか。

「豪雨については、気温の現象ほど素直に現れません。気温が上がると、大気中に含まれる水蒸気の量が増加する、ここまでは確実に言えることです。

しかし、この水蒸気が雲粒になって雨になって落ちるプロセス(循環)が地球温暖化に影響を受けているかどうかというと、それは場所にもよりますし、どのような時間スケールで解析するかによっても変わります。温暖化によって頻度が減る大雨もあれば、増える大雨もあります。

ただし、これまで複数の大雨のEAを実施してきた経験から、大雨の頻度が影響を受けやすい場所には特徴があることが分かってきています」(今田先生)

どのような場所が、温暖化の影響で大雨になりやすいのでしょうか。

「特に、夏のモンスーンの時期に風上になる急峻な山地の南西側では、通常よりもたくさんの水蒸気が流れ込み、それが持ち上げられて大雨が発生するため、温暖化により大雨が増える傾向がはっきり見てとれます。

一方、台風に起因する大雨は、水蒸気の増減よりも台風自体が増えるか減るかや、経路が重要になってきますが、過去から現在までの地球温暖化のレベルではまだはっきりとした変化は検出されていません」(今田先生)

上のグラフは、今年7月24日から26日に発生した東北地方日本海側の大雨について、EAで検証したものです。

実際の地球の条件で再現した雨量(1)と、温暖化がなかったと仮定した場合の雨量(2)の差(4)から、「温暖化がなかったときより雨量が20%以上増」ということがわかりました。

なお(1)と、実際に降った雨の量である解析雨量(3)を比較することで、シミュレーションの再現性が確かめられます。

能登豪雨のような天気は今後も増える?

今年は、東北地方日本海側の大雨や台風10号、能登豪雨など、大雨による被害が続きました。

「日本の気温が高かったことには、日本周辺の海水温が極端に高いことも効いていると考えられます。このような異常事態がどのような大気と海洋のプロセスでもたらされたのか、今まさに研究者が分析を開始しているところです。

前述のように7月24〜26日の東北地方日本海側の大雨を検証したところ、雨量が20%以上増という結果となりました。台風10号や能登豪雨についてもEAで検証する計画はありますが、結果が出るまでには今しばらく時間がかかる見込みです」(今田先生)

地球温暖化により、日本の天候はさらに変わっていくのでしょうか。

「極端高温は確実に増えていきます。健康被害や暑さによる行動制限が今後より深刻になる可能性が高いです。

大雨の頻度については、前述の通り場所によって傾向は異なります。雨量については確実に増えていくと考えられます」(今田先生)

生活だけでなく社会のありようまで変える可能性がある気象について、これからもしっかり見つめていく必要があります。

ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。


参考資料
「令和6年夏の記録的な高温や大雨に地球温暖化が寄与 -イベント・アトリビューションによる速報-」(文部科学省)、「気候変動と2023年の 異常気象の関係」(今田由紀子、学術の動向29)、「地球温暖化が近年の日本の豪雨に与えた影響を評価」(気象庁気象研究所)、「平成30年7月の記録的な猛暑に地球温暖化が与えた影響と 猛暑発生の将来見通し」(気象庁気象研究所)、「近年の気温上昇が令和元年東日本台風の大雨に与えた影響」(気象庁気象研究所)、「令和 4年 6月下旬から 7月初めの記録的な高温に地球温暖化が与えた影響に関する研究に取り組んでいます。―イベント・アトリビューションによる速報―」(文部科学省)、「令和5年夏の大雨および記録的な高温に地球温暖化が与えた影響に関する研究に取り組んでいます―イベント・アトリビューションによる速報―」(文部科学省)

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