激しい咳を伴うマイコプラズマ肺炎 気温下がる秋〜冬は感染増の懸念
ウェザーニュース / 2024年10月23日 13時35分
長引く咳(せき)や発熱が特徴のマイコプラズマ肺炎が猛威をふるっており、全国で過去最多の患者数を更新するなど注意が必要です。
マイコプラズマ肺炎は子どもと若者世代の罹患が多い疾病でしたが、この秋から冬にかけては高齢者も含めてさらなる感染増が懸念されており、ひどい咳が長引いたことで肋骨が折れるなどのリスクも指摘されています。
マイコプラズマ肺炎とはどのような疾病で、どんな症状が生じるのか。また、治療法や予防法などについて日本大学医学部附属板橋病院救命救急センター科長の山口順子先生に伺いました。
都内は患者数が過去最多更新
東京都感染症情報センターが10月17日に公表した2024年第41週(10月7日~10月13日)のマイコプラズマ肺炎の患者数は1医療機関あたり2.88人。過去最多を2週連続で更新した第39週の2.96人(計74人)からやや下降傾向にあるものの、依然として高水準が続いています。
また、国立感染症研究所が公表した2024年第40週(9月30日〜10月6日)の速報データによると、全国約500の定点医療機関から報告されたマイコプラズマ肺炎のこの週の患者数は1医療機関あたり前週から約17%増加して1.94人。1999年の統計開始以来の過去最多を更新し、全国で感染拡大が続いている状況です。
マイコプラズマ肺炎、どんな症状?
マイコプラズマ肺炎とはどのような疾病なのでしょうか。
「マイコプラズマ肺炎は『肺炎マイコプラズマ』という細菌に感染することで起こる、呼吸器感染症です。子どもや若い世代の肺炎の原因として比較的多くみられ、2024年第1~35週の患者の約90%は19歳以下となっています。
ただし、60歳以上の患者が2023年は17%、2022年は30%となっていますので、高齢者も注意が必要です。
1年を通じて発症しますが、特に秋から冬にかけて増加する傾向があります」(山口先生)
マイコプラズマ肺炎には、どのような症状がみられるのでしょうか。
「潜伏期間は2~3週間と比較的長く、発症すると痰を伴わない乾いた咳や発熱、全身の倦怠感(だるさ)、頭痛などが現れます。感染した人の多くは気管支炎で済み、軽い症状が続きます。一般的に成人より小児のほうが軽く済むとされています。
一方で熱が下がった後も3~4週間の長期間にわたって咳が続くケースも見られます。当初は乾いた咳でも経過とともに次第に悪化して、痰を伴う激しい咳が続くような場合は注意してください。
また、激しい咳が長く続くと筋肉が疲弊し、首や肩などに痛みが生じることがあります。さらに肋骨(あばら骨)などに繰り返しダメージを与え、ひびが入ったり疲労骨折を生じさせたりするケースも報告されています。
さらに重症化すると、他にも中耳炎、胸膜炎、心筋炎、髄膜炎などの合併症を併発する症例もあり、注意が必要です」(山口先生)
「濃厚接触」による感染がほとんど
マイコプラズマ肺炎は、どうやって感染するのでしょうか。
「患者の咳のしぶきを吸い込む飛沫(ひまつ)感染や、細菌が付いた手で口や鼻を触ることによる接触感染が原因となります。
感染力が比較的弱いとされているので、短時間の接触で拡大する可能性は高くなく、家族や友人間などの『濃厚接触』による感染がほとんどです。
潜伏期間が2~3週間と長く、発症しても軽症の場合もあるため、本人が気がつかないうちに感染を広げてしまわないよう、注意が必要です」(山口先生)
手洗いやうがいなどの感染症予防の見直しを
感染した場合の治療法はどのようなものですか。
「治療には、マクロライド系の抗菌薬(抗生物質)を用います。細菌のたんぱく質合成を妨げ、増殖を抑えることで抗菌作用をあらわす薬です。
ただし、マイコプラズマ肺炎に効果のある抗菌剤は、一部に限られています。近年はマイコプラズマ肺炎に抗菌薬の効かない『耐性菌』が増えているとされ、その場合は他の抗菌薬で治療することになります。
重症化した場合は、入院して専門的な治療を行う必要があります。咳が長引いている場合は、ためらわずに医療機関で受診してください」(山口先生)
感染を予防するにはどうすればいいのでしょうか。
「“こうすれば確実に感染を防げる”といえる予防方法はありません。新型コロナウイルスやインフルエンザと同様、流行期には手洗いやうがいなどの一般的な感染症予防法を励行しましょう。
実際に新型コロナウイルス感染症流行開始の2020年5月以降はマイコプラズマ肺炎の報告数が減少しており、2020~2023年は毎年起こる秋から冬にかけての季節性感染の報告数増加もみられませんでした。
自身に咳の症状がある場合は飛沫感染を予防するため、マスクを着用するなどの咳エチケットを守ってください。家族間ではタオルの共用を避けるなど、濃厚接触にならないよう心がけてください」(山口先生)
気温が下がりはじめる秋から冬にかけてよりいっそう、マイコプラズマ肺炎の流行が懸念されます。住まいの環境や服装を整え、手洗いやうがいを励行し、感染を防ぎましょう。
参考資料
国立感染症研究所「マイコプラズマ肺炎の発生状況について」、東京都健康安全研究センター「マイコプラズマ肺炎ってどんな病気??」、同「マイコプラズマ肺炎とは」、厚生労働省「マイコプラズマ肺炎」
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