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地球温暖化のウソ? ホント?(12)「ティッピング・ポイント」を超えると、地球温暖化は止まらなくなる?

ウェザーニュース / 2024年10月22日 5時10分

ウェザーニュース

「ティッピング・ポイント」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「転換点」や「臨界点」などと訳されます。

このティッピング・ポイントは、気候変動(地球温暖化)問題でも重要な意味を持つといわれています。

気候変動問題におけるティッピング・ポイントとは何なのか、気候変動問題の専門家である江守正多さん(東京大学 未来ビジョン研究センター教授)の解説を交えて見ていきます。

Q1/気候変動問題の「ティッピング・ポイント」って、なに?

◆A/急激に大きく変わる転換点で、その温度のことです。

ティッピング・ポイント(tipping point)の「tip」は英語の動詞で、「ひっくり返る」などの意味があります。ひっくり返るpoint(ポイント、点)なので、ティッピング・ポイントは「転換点」「転機」「臨界点」などと訳されています。それまで少しずつ変化していた物事が急に大きく変化するポイント(点)です。

気候変動問題においても、ティッピング・ポイントはあると考えられていて、ティッピング・ポイントを超えると、北アメリカ大陸の北東にあるグリーンランドの氷床(ひょうしょう)が崩壊したり、低緯度にあるサンゴ礁が死滅したりする可能性が指摘されています。

「気候変動問題におけるティッピング・ポイントは気温や海水温といった温度で表されることが多く、それはティッピング・エレメント(tipping element)ごとに存在していると考えられます。

この『エレメント』はここでは『要素』の意味で、具体的にはグリーンランド氷床、低緯度のサンゴ礁など、地球の気候を構成する個々の要素を指します。

地球全体のティッピング・ポイントとなる温度が一つあるのではなくて、グリーンランド氷床が崩壊するティッピング・ポイント、低緯度のサンゴ礁が死滅するティッピング・ポイントなどがそれぞれ別々にあるということです。

これが気候変動問題におけるティッピング・ポイントの考え方です。しかし、それぞれのティッピング・ポイントが何℃であるかは正確にはわかっていません」(江守さん)

Q2/グリーンランドの氷が一気に融(と)けるようなことも起こるの?

◆A/ティッピング・ポイントを超えると、グリーンランド氷床の減少が加速する可能性があります。

グリーンランドは世界最大の島です。デンマーク領で、北アメリカ大陸北東の大西洋と北極海の間にあります。

グリーンランドの約80%は氷床で覆われていて(グリーンランド氷床)、その面積は日本の国土の約4.5倍に達します。氷の厚さは平均1,700mです。

このグリーンランド氷床は、地球温暖化のために融け続けていて、世界的な海面上昇の原因の一部になっています。

「グリーンランド氷床は降雪よりも融解(ゆうかい)が上回ることによって、現在も減少していますが、気温の上昇が止まれば、氷床の減少は止まるはずです。しかし、ティッピング・ポイントを超えると、氷床の減少が加速するとともに、気温上昇が止まったとしても、氷床の減少が続く状態に入ると考えられます」(江守さん)

融解が進むグリーンランドの氷床

江守さんはさらに、ティッピング・ポイントを超えることによってドミノ倒しのような「連鎖反応」が起こることも危惧(きぐ)しています。

「たとえば、グリーンランド氷床がティッピングを起こして、融解が加速すると、氷の解け水が大量に海に流れ込んで、海水が軽くなります。すると、北部北大西洋の海水の沈み込みが停止するというティッピングが起こり、大西洋の海水の南北循環が弱まる可能性があります。

すると、南半球から北半球への海流による熱輸送が弱まるため、南半球の温暖化が強まり、西南極氷床(にしなんきょくひょうしょう/南極氷床の一部で、西南極を覆う氷床)がティッピングを起こすことなどが考えられます。

このような連鎖がどんどん続くと、人間活動による排出量をどんなに減らしても、気温上昇そのものが止められなくなる可能性もあるといわれます。

現在の科学では、そのような連鎖が本当に起こるのかはわかりませんが、起こらないとも言い切れません」(江守さん)

Q3/ティッピング・ポイントを超えると、アマゾンの熱帯雨林にも影響が出るの?

◆A/アマゾンの木々が枯れ果ててしまうことも考えられます。

世界の森林面積は全陸地面積の約30%を占めていますが、その面積は減少の一途をたどっています。

植物は人間などと同じように呼吸をしていて、酸素を吸収し、二酸化炭素を放出しています。その一方、光合成もおこなっていて、放出する量を上回る二酸化炭素を吸収しています。そのため、森林面積が減少すると、二酸化炭素の吸収源も減少することになります。

南アメリカ大陸にあるアマゾン熱帯雨林は世界最大の熱帯林ですが、その森林面積は減少し続けています。

「アマゾンの熱帯雨林は、気候変動による干ばつの増加と森林伐採の二つの理由で減少しています。

この二つを合わせた効果が、ある限度を超えてしまうのがアマゾンのティッピング・ポイントです。

ティッピング・ポイントを超えてしまうと、アマゾンの降水量が熱帯雨林を維持できるレベルを下回り、樹木の枯死(こし/枯れ果てること)が止まらなくなると考えられます」(江守さん)

深刻な干ばつにより多くの住民が水不足の被害に(2023年10月撮影、写真/時事)

森林が減少すると、樹木内や土壌にため込まれていた炭素が二酸化炭素として放出されます。これは大気の温室効果を強め、地球の気温を上昇させるさらなる原因にもなります。

Q4/去年や今年の日本での猛暑や豪雨も、ティッピング・ポイントと関係があるの?

◆A/長期的な気温上昇と自然変動によるものと考えられます。

「去年と今年は日本でも世界全体でも記録的な高温を経験し、記録的な大雨も多かったのですが、これらは長期的な気温上昇傾向と自然変動によっておおむね説明できる範囲の出来事と考えられます。

気候システムが何らかのティッピング・ポイントを超えたという証拠は今のところありません」(江守さん)

ひとまず、ほんの少しだけ安心できそうです。しかし、本当にほんの少しだけです。

Q5/気候変動問題への対策がもし進まなければ、ティッピング・ポイントはいつ超えてしまうの?

◆A/現在のペースでは、2030年代前半に4つのティッピング・ポイントを超える可能性があります。

「世界の平均気温の上昇が1.5℃を超えると、グリーンランド氷床の崩壊、西南極氷床の崩壊、低緯度サンゴ礁の死滅、永久凍土の広範で急激な融解という4つのティッピング・ポイントを超えてしまう可能性が高くなるという論文が出ています。

現在のペースでは、2030年代前半には世界の平均気温は1.5℃を超えて上昇すると考えられています」(江守さん)

やはり、心から安心できる状況とはいえません。

Q6/ティッピング・ポイントを超えないため、地球温暖化を止めるため、私たちは何をしたらよいの?

◆A/二酸化炭素を出さないエネルギーシステムに変えることなどが重要です。

「最も重要なことは、火力発電所やガソリンエンジン車などの化石燃料に依存したエネルギーシステムを、再生可能エネルギーや電気自動車などの二酸化炭素を出さないエネルギーシステムに入れ替えていくことです。

私たちは、その変化の必要性を理解し、その変化に賛同し、できれば何らかの形で変化を後押しするのがよいでしょう。

ティッピング・ポイントを超えないようにすることは、産業革命前からの世界平均気温の上昇を『1.5℃』までに止めるという目標の重要な動機の一つですが、唯一の動機ではありません。ティッピング・ポイントを超えなかったとしても、温暖化に責任のない脆弱(ぜいじゃく)な人々への深刻な被害を少しでも減らすために『1.5℃』以下を目指す必要があると思います」(江守さん)

地球温暖化に起因する被害を受けているのは、当然、日本人だけではありません。むしろ発展途上国と呼ばれる国や地域に住んでいる人たちに、より多大な被害をもたらします。

その彼らは、二酸化炭素などの温室効果ガスを先進国に住む人たちのように大量に排出しているわけではありません。そうしたことも、私たちは考える必要があるでしょう。

ティッピング・ポイントを超えなくても、地球温暖化は進んでいます。去年と今年の猛暑をはじめとした異常気象で、そのことを多くの人が実感しているでしょう。

地球温暖化問題に関心を持って、家族や友人、職場の同僚などと話題にすることも、第一歩としては大切です。

————————
ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、皆さんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。




監修/江守正多
東京大学 未来ビジョン研究センター 教授(@seitaemori)

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