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“秋の蝶”ツマグロヒョウモン、分布拡大の要因は“温暖化”と“パンジー”!?

ウェザーニュース / 2024年10月27日 5時0分

ウェザーニュース

今年は9〜10月も高めの気温が続き、秋らしい秋は短く冬を迎えそうです。豪雨など異常気象の発生も多く、人々の生活に大きな影響を及ぼしました。

人だけでなく、農作物を含む植物や、生物への温暖化の影響が明らかになってきています。その1つが秋によく見かけるチョウのツマグロヒョウモンです。

日本を分布の北限としている南方系のチョウで生息域が北上を続けていますが、そこには謎も。気候変動が人や自然に及ぼす影響について研究している法政大学文学部地理学科教授の山口隆子先生に解き明かしていただきます。

温暖化により生息域が北上!?

ツマグロヒョウモンは翅(はね)を開いたときは7cmほど、オレンジ色に黒天紋が特徴的な、タテハチョウ科の仲間です。平地に生息していて、幼虫はスミレ類をエサとしています。秋にみかけることが多く、住宅街を飛んでいることもある身近な蝶です。

「ツマグロヒョウモンは暖帯から亜熱帯・熱帯に生息し、日本が分布北限です。

しかし、1986年に近畿地方、1993年に関東地方、2002年に東北地方と生息域を拡大しています。2019年には、日本海側では秋田県、太平洋側では宮城県でも確認されています。

30年間で近畿地方から東北地方まで北上していて、変化はかなりのスピードといえるでしょう」(山口先生)

生息域北上のポイントは冬季の最低気温

ツマグロヒョウモンの生息域北上の原因として指摘されたのが、温暖化の影響でした。

「最も影響を与えると考えられるのが、冬季の最低気温です。ツマグロヒョウモンは春から秋まで羽化を繰り返し、多くは幼虫で冬を越します。冬の寒さや低温による絶食行動によって死亡することがあります。

上図は2019年のツマグロヒョウモンの北限である秋田と石巻の年平均気温と、1月の日最低気温の経年変化です。130年の間に、秋田の年平均気温は約2℃、1月の日最低気温は約3℃も上昇しています。石巻は、年平均気温は約1℃、1月の日最低気温は約2℃の上昇です」(山口先生)

これらの気温上昇は温暖化の影響だけではなく、ヒートアイランド現象の後押しもあったといいます。

「ヒートアイランド現象は夏季に注目されることが多いのですが、実は冬季の日最低気温の上昇に大きな影響を与えます。秋田や石巻のような地方都市でも、ヒートアイランド現象などによる温度上昇がみられ、それがツマグロヒョウモンにも影響したと考えられます」(山口先生)

気温だけではない? 移動の謎

ただ、気温だけではツマグロヒョウモンの生息域の急速な変化に説明がつかないといいます。

「ツマグロヒョウモンの雌は、毒蝶のカバマダラに擬態して捕食者を避けているとされています。ツマグロヒョウモンとカバマダラの生息域は 密接な関係があるのですが、カバマダラは九州と四国の一部地域から変わっていないのです。

また、ツマグロヒョウモンは、アサギマダラ(※)のように長距離を移動するほどの飛翔力はなく、気温上昇だけでは急速な生息域拡大の説明がつきません」(山口先生)

※南西諸島や台湾から日本本土へなど、長距離を春に北上、秋に南下する

パンジーの果たした役割

ツマグロヒョウモンとカバマダラを分けたと考えられるのが、幼虫のエサの違いだといいます。

「カバマダラの幼虫はガガイモ類をエサとしますが、ガガイモ類は本州に少なく、一方、ツマグロヒョウモンの幼虫はスミレ類をエサとしています。そして、スミレ類にはこの30年ほどの間に大きな変化がありました」(山口先生)

ガーデニングブームにより、パンジーが急激に増えたのです。

「パンジーはスミレ科の園芸植物で、戦後に本格的に栽培されるようになり、特に2000年頃のガーデニングブームで流通量が増えました。

上図のように、1990年頃の産地は関東地方がほとんどで取扱量もごくわずかだったのが、1995年頃には全国から東京へ出荷されるようになり、量も16倍へと増えました。2000年には出荷量が頂点に達し、1990年から比べて40倍となっています。

ツマグロヒョウモンは、植物防疫法の指定有害動植物ではありません。生産者は薬剤散布を行いますが効果は弱く、葉の裏に卵や若い幼虫がついたまま流通する可能性があるとされています。

つまり、ツマグロヒョウモンが定着している西日本で生産されたパンジーの苗が、東京に出荷・流通し、ツマグロヒョウモンの生息域拡大に影響したと考えられるのです。

品種改良により四季咲きパンジーが開発され、秋や冬にも公園や庭先などに植えられたことも、ツマグロヒョウモンに好都合な状況といえるでしょう」(山口先生)

自然の姿を変えるもの

「ツマグロヒョウモンは、地球温暖化やヒートアイランド現象による気温の上昇に加えて、エサとなるパンジーが、ツマグロヒョウモンの卵や幼虫をつけたまま持ち込まれ、生息域を急速に拡大したと考えられます。

気温の上昇は生物の生育に重要な条件ですが、ほかにもさまざまな要因が絡んでいることがあります。気温上昇=地球温暖化だけではなく、ヒートアイランド現象のような都市化による気温上昇もあります。

今後も、気候変化と生物の生育状況について注視していく必要があります」(山口先生)

人の生活は多様な生物との関係から成り立っていますが、人間活動が生物に与える影響についても、考えていきたいですね。

ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。



参考資料
「ツマグロヒョウモンの分布拡大とその要因」(山口隆子、昆虫と自然56巻12号)、「ツマグロヒョウモンの北上に関する生気候的研究」(望月宏美、山口隆子、日本生気象学会雑誌57巻4号)

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