この20年で自然災害による影響はどう変化? 気候変動リスクで考えるべき「未来」
ウェザーニュース / 2024年11月10日 5時11分
今年は記録的な高温に豪雨、強い台風などが次々と発生し、気候変動との関連にも注目が集まっています。世界を見ても異常気象や自然災害のニュースが増えていますが、この20年で明らかに増えた自然災害があるといいます。
しかも、「今後20年で気候変動リスクはかなり増大する」と、東京大学大学院工学系研究科教授・沖大幹先生は説明します。私たちを取り巻く環境に何が起きていて、それに対して私たちは何ができるのでしょうか。
次々と極端な気象現象が
猛暑、豪雨、台風など、全国各地で極端な気象現象が相次いでいます。
「気温が高くなると、空気中に今までよりも多くの水蒸気(飽和水蒸気圧)が含まれるようになります。常にというわけではありませんが、大気中の水蒸気の量が増えると、それに応じて雨量の最大量が増えているということになります。
加えて海水面の温度も上がっているため、台風などが日本近海に来ても衰えず、むしろ発達するような状況になっています。それが半日〜1日続く豪雨の1つの原因になっていると思われます。
地球温暖化によって、1時間に 80mm以上の豪雨の確率が、1%から2%、3%になっているのです」(沖先生)
洪水は2.34倍、熱波が3.32倍に!?
地球温暖化による影響は、自然災害の数にも現れています。
「国連防災機関(UNDRR)の報告書(2020)から計算すると、1980年からの20年間に比べて、2000年からの20年間で洪水は約2.3倍、極端な高温である熱波は約3.3倍に増えました。
火山噴火や地震など、地球温暖化とは関連のない災害も増えていますが、これはデータの精度が上がったことによるものと考えられます。また、全体としての災害件数は約1.7倍増のところ、風水害や熱波は顕著に増えており、気候変動の影響が明らかに見てとれます」(沖先生)
自然災害の人への影響にも変化があるといいます。
「災害の報告数が約1.7倍へと増え、人口も約1.4倍に増えているのにもかかわらず、死者数は約1.03倍でした。死者数がほぼ増えていないのは、社会が防災への取り組みを継続して行ってきた成果といえます。防波堤や防潮堤のような防災インフラを整えたり、予測情報から避難行動するようになったことなどです。
ただ、自然災害による影響人数は約1.2倍であり、特に経済被害は約1.8倍となっています。自然災害による死者の数は減っても、経済問題への影響は大きくなっているのです」(沖先生)
日本でも、かつては自然災害で多くの人が亡くなっていました。
「戦後でも1つの台風で1000人もの方が犠牲になる災害が毎年のようにありました。1959年の伊勢湾台風では、約5000人もの死者・行方不明者が出ました。
しかし、防災対策の結果、20世紀になってからは200人被害の出た災害が2度となっています。ただ日本でも経済被害は死者・行方不明者数のように減ってはいません。そして、近年は増える傾向にあります」(沖先生)
気候変動社会で考えるべき未来とは
気候変動による変化に、私たちの社会は耐えていけるのでしょうか。
「日本は自然災害からまだ守られている状態ですが、人口が減っていくなか、これまでと同じインフラを維持するのが難しくなってくるでしょう。
例えば、水インフラ。多くの人が、日本は水の豊かな恵まれた国だと考えています。しかし、単に雨が多いからではなく、ダムや水道のような水を安定して使えるようにする水インフラに、これまでコストをかけてきたことで、水に困らず生活し、経済活動が行えているのです。農業でも、日本の雨や雪の降り方に合わせて、田畑が作られ作物が育てられてきました。
気候変動により気温が上昇すれば、雨の降り方は激しくなります。洪水や土砂災害などのリスクだけでなく、ダムの管理が難しくなります。水インフラが損なわれれば、その地域の水の供給が止まって生活、経済活動に問題が生じます。
しかし、絶対的な安全を求める防災対策は莫大なコストを要するため、現実的には無理があります。未来のためには、これからどこにどれだけのコストをかけるかを考えていかなければなりません。持続可能な社会をつくる『持続可能な開発』を行っていく必要があるのです」(沖先生)
異常気象をただ恐れるのではなく、持続可能な社会のために私たちもどう変われるのかを考えていく必要に迫られているといってもいいでしょう。
ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。
参考資料
「気候変動と社会―基礎から学ぶ地球温暖化問題」(東京大学 気候と社会連携研究機構、東京大学出版会)
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