スキー場利用者数が1/4に 温暖化でスノーレジャーはどうなる?
ウェザーニュース / 2024年12月19日 5時0分
冬には各地でスキーやスノーボード、雪まつりのようなイベントが開かれていますが、そこにも気候変動の影響が現れてきています。近年の冬は、極端な大雪が頻発する一方で雪不足も起きています。背景には気候変動による雪の降り方に変化があると指摘されています。
冬季の気温の上昇により雪の降り方が変わり、スキー場の経営や人気イベントのコストが増えるとの予測もあります。日本の降雪状況の変化で今何が起きていて、将来はどうなっていくのでしょうか。
雪イベント、スキー場で雪不足!?
2023〜24年は記録的な暖冬となり、「さっぽろ雪まつり」や秋田県横手市「横手のかまくら」は、雪像やかまくらを作る雪の確保に苦労し、青森県青森市では「青森冬まつり」が雪不足により中止となるなど、各地のスキー場や雪イベントに影響がありました。
こういった雪不足の問題は、昨冬に限ったことではありません。国立環境研究所気候変動適応センター高度技能専門員の根本緑さんは次のように話します。
「日本は、冬には大陸からの北西の風が日本海を渡ってくることで雪雲が発生し、たくさんの雪が降ります。そのため日本は世界有数の豪雪国として、その雪質の良さから海外でも“JAPOW(Japan Pouder)”として知られており、美しい雪景色とともにインバウンドに対しても大きな観光資源となっています。
ところが気候変動による冬季の気温の上昇により、積雪量の減少や雪質の変化が起きており、各地に影響をもたらしています」(根本さん)
100年当たり1.35℃の変化で積雪が減少
日本の年平均気温は、変動を繰り返しながらも上昇しています。その上昇率は100年あたり1.35℃で、世界の0.76℃と比べて大きな数値となっているのです。
1日に20cm以上の降雪が観測される日数は、特に東日本や西日本において1990年以降は大きく減少しています。一冬で最も多く雪が積もった量である年最深積雪にも減少傾向がみられます。
この傾向は今後も続くとされ、最悪のシナリオで2076〜2095年には降雪量、最深積雪量とも、北海道内陸の一部の地域を除いては減少することが予測されています。特に本州日本海側で大きな減少が予測されます。
スキー場利用者数がピーク時の1/4に
降雪量が豊富なはずの豪雪地帯でも変化は起きています。
長野県は白馬八方尾根、斑尾高原、志賀高原など有名スキーエリアを含め、78カ所ものスキー場が営業しています(2023シーズン)。しかし、県内のスキー場利用者数は1992年度の約2119万人のピークから2023年度の約583万4000人へと、大きく減少しています。
国内のスキー・スノーボード人口の変化など他の要因もありますが、無視できないのが温暖化の影響です。長野市の年平均気温は100年当たり約1.3℃上昇しています。
「シーズンにもよりますが、スキー場を営業するために十分な積雪量に達するまでの期間が長くなることや、スキー場営業期間中に雨が降り、せっかくの雪が溶けてしまうこともあります」(長野県観光スポーツ部山岳高原観光課・水越大樹さん)
気温上昇の影響もあり、長野県のシーズン中のスキー場平均営業日数は、年ごとの変動はあるものの減少傾向です。
「スキー場は、宿泊・飲食・用具レンタル・交通など関連事業が多岐にわたり、スキー場の従業員だけでなく冬季の地域経済を支えてきました。営業日数の減少は収入機会の逸失となります。
県内のスキー場では、降雪機の整備や稼働などにより、営業日数を確保させるために取り組んでいるほか、環境保全活動への取組や啓発も進めています」(水越さん)
採雪コスト2.2倍に! パウダースノーも失われる!?
このまま温暖化が進めば、これまでのように雪を楽しむことが難しくなってくるかもしれません。
「気象的・社会的要因などからスキー場来客数の変動を分析する研究成果では、暖冬による積雪深の減少が起きた場合、来客数が減少することが示唆されています。これは多くのスキー場や関連事業にとって営業利益の減少につながり、事業存続にも関わる切実な問題です」(根本さん)
「スキー場だけではありません。2024年1月、平年の半分にも満たない降雪量のために遠く離れた山間部から雪を調達したという『横手かまくら』のように、従来の伝統行事の開催がより厳しい状況にさらされているのです。
『さっぽろ雪まつり』は降雪量の減少により、21世紀末に現在と同等規模の雪像制作を行うには、遠方で採雪を行う必要があり、それにより採雪コストが2.2倍程度増大するという予測もあります」(根本さん)
将来、パウダースノーと呼ばれる北海道の特長的な雪質が変わってしまう可能性も指摘されています。
北海道気候変動適応センターによると、道内で春先に見られるような「ざらめ雪」が降る地域が増えると予測しています。パウダースノーのように軽い雪と比べて、スキー場ではあまり好まれない雪です。
雪不足に悩むドイツの適応戦略
雪の降り方が変わるなか、各スキー場は雪の確保に努めています。
「降雪量の補填に、マイナス気温下に水を噴霧する人工降雪機や、氷を粉砕して噴射する人工造雪機の利用があります。2015年で、3割強のスキー場で人工降雪機が導入されているという報告があります。
なかには再生可能エネルギーを積極的に導入し、降雪機やリフト稼働のための電力を再エネでまかなうなど、サステナブルな事業展開を推進する地域もみられます。
また、冬期の営業に限らず、夏山登山などグリーンシーズンの新たな事業展開も含め、年間雇用の創出や多様なレジャーへの取り組みが広がっています」(根本さん)
新たな楽しみ方を創り出すことにも力を入れているといいます。
「長野県内では、野外ミュージックフェスや、ペットと雪原を駆け回ることができるエリアの設置などノンスキーヤー向けのコンテンツの充実も図っています。
夏場の観光・展望リフト、キャンプ場やトレイルランニング、マウンテンバイクなどのアクティビティのフィールドとしてゲレンデを活用しています」(水越さん)
雪不足は日本だけではありません。
「ドイツ西部のシュベサートでは、21世紀末に(2071〜2100年)までに降雪日が20~40%減少するという予測もあり、既存スキー施設の維持が懸念されています。
そこで、ドイツのヘッセン州の適応戦略において通年型の観光地への転換や、文化的・健康的なサービスを提供する取り組みとして、特にハイキングやサイクリングに焦点に置いた活動が実施されました。
ドイツの事例のように、計画段階から協力団体や市民等が連携し、気候変動適応を考慮した地域の観光活動の発展を検討していくことが今後も各地で求められています」(根本さん)
気候変動の影響は身近なところまで迫っています。世界からも注目される日本の美しい「冬」や「雪」を未来に引き継いでいくためにも、地球温暖化の進行を抑えなければなりません。
ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。
参考資料
文部科学省及び気象庁「日本の気候変動 2020 —大気と陸・海洋に関する観測・予測 評価報告書—」、長野県観光部2024「長野県のスキー場の将来を考える懇談会を踏まえた今後のスキー場振興に関する方針」、環境省2020「気候変動影響評価報告書 詳細」、環境省2020「地域適応コンソーシアム事業成果集」、佐藤陽祐ら2024「雲粒捕捉成長と昇華成長が北海道の降雪に与える影響の将来変化、気象庁「地球温暖化予測情報第9巻『データセット解説書』」(令和3年)、山と渓谷社「ADAPTATION アダプテーション[適応]気候危機をサバイバルするための100の戦略」(肱岡靖明、根本緑)
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