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温暖化で食べられなくなる食べ物があるって、本当?

ウェザーニュース / 2024年12月22日 5時10分

ウェザーニュース

猛暑日の増加、頻発する豪雨・洪水、砂漠化の進行、海氷の融解、山火事・干ばつの発生……、地球温暖化は世界のさまざまなところに大きな影響を与えています。

それらの中の一つに、食への影響があります。日本、そして、世界中の食のありように地球温暖化はどんな影響を与えているのでしょうか。気候変動問題の専門家である江守正多さん(東京大学 未来ビジョン研究センター教授)の監修のもと、見ていきましょう。

Q1/「コーヒーの2050年問題」って、なに? 将来、コーヒーが飲めなくなるの?

◆A/今後、コーヒーの品質が低下し、価格が上昇する可能性があります。

「将来、コーヒーが飲めなくなる」というと言い過ぎかもしれませんが、コーヒーの生産量の減少、品質低下、価格の高騰などが考えられます。また、コーヒー生産者の生活が困窮することも懸念されます。

コーヒーは主に、赤道を中心に北緯25°~南緯25°の間に広がる地域で生産されています。これを「コーヒーベルト」といい、ジャマイカ、コロンビア、ブラジル、ベトナム、インドネシア、エチオピア、ケニアなどがこの地帯に入り、これらはコーヒーの生産が盛んな国です。

世界のコーヒーの流通量の約6割を占めるコーヒー豆は、アラビカ種と呼ばれる品種で、ブラジルやベトナムなどが高シェア地域です。

このまま地球温暖化が進めば、このアラビカ種の栽培に適した土地は2050年には半減する可能性が高いといわれています。これが「コーヒーの2050年問題」です。

世界のコーヒー需要が伸び続けている一方、アラビカ種の生産が半減したら、価格が高騰するのは容易に想像できるでしょう。さらに、地球温暖化の影響で品質が低下し、生産者の暮らしが苦境に立たされることも起こりそうです。

こうした状況はチョコレートの原料であるカカオ豆にもいえます。問題が深刻化する時期も2050年ごろで一致しています。

「2050年にガーナとコートジボワールの約9割の場所でカカオの生産適応性が低下する可能性が高い」「2050年には世界からカカオの木が消える可能性がある」といった見解が世界の研究者から出されています。これは「カカオの2050年問題」といわれます。

「2050年にチョコレートが食べられなくなるかはわかりませんが、今よりずっと高価な食べ物になっている可能性はあるでしょう」と江守さんは話します。

気になるのは、その原因です。

「チョコレートの価格が高くなるのは需要の増加の影響もありますが、供給面では、人間活動の影響による気候変動(地球温暖化)が重要な原因と考えられます。

気候変動によって、長期的な傾向として、ガーナやコートジボワールなどの西アフリカでは熱波と干ばつが深刻化することが心配されます。

しかし、その一方で雨が降るときは極端な大雨が増えるでしょう。いずれの変化も、カカオの生産に大きなダメージを与えます」(江守さん)

今のまま地球温暖化が進めば、コーヒーやチョコレートをこれまでのように楽しめなくなる可能性があるといえるでしょう。

「他にも今年、価格高騰や品薄が話題になった輸入食材としては、オリーブオイルやオレンジがあげられます。

いずれも、原産国における干ばつもしくは大雨が影響しており、その背景には地球温暖化による異常気象の激甚化があると考えられます。

日本は食料の6割以上を輸入に頼っています。今のところ地球温暖化の影響が出ているのは、比較的、嗜好品に留まっていますが、この傾向が進めば、私たちの食卓のより大きな部分に影響が及ばないか心配です」(江守さん)

Q2/温暖化の影響で、お米の質が落ちているって、本当?

◆A/白く濁ったお米になって、味が落ちるなどの悪影響が出ています。

気温の高い日が続くと、お米が白く濁ったり、お米にひびが入ったりすることがあります。見た目が悪いため、安く売られることになり、農家にとっては痛手です。

また、これらのお米は、ご飯を炊いたときに崩れやすくなり、味が落ちることもあります。

農林水産省の農産局農業環境対策課が今年=令和6(2024)年4月に発表した「令和5年夏の記録的高温に係る影響と効果のあった温暖化適応策等の状況レポート」の「令和5年夏の記録的高温による水稲への影響」には次のことが記されています。

「多くの県で白未熟粒の発生が広く見られたほか、胴割れ粒の発生、粒の充実不足、虫害の多発(カメムシ類の増加)などが見られ、令和5年産の一等米比率は、東日本を中心に多くの県において平成30年から令和4年平均(5中3)に比べ低下が見られた」

「白未熟粒」は「しろみじゅくりゅう」と読み、デンプンの蓄積が不十分なため、白く濁って見える米粒のことです。また「胴割れ粒」は内部に亀裂を生じたお米のことです。こうしたお米は味が落ちる傾向があります。

また、農林水産省の一等比率の経年変化の資料をみても、2010年や2023年など記録的な猛暑をもたらした年は一等米比率が著しく低下していることが分かります。

お米以外では、たとえば、みかんにも地球温暖化の影響が出ています。

みかんを収穫する前に、気温が高くなったり、雨が多く降ったりすると、皮とみかんの中身が離れて、実がブカブカになる「浮皮(うきかわ)」という現象が起こりがちです。みかんの味は悪く、腐りやすくなるという悪影響が出ます。

「日本の農家でも、お米の品種を高温耐性の高いものに変更したり、栽培適地の変化に合わせて作付けを変更したりといった、気候変動適応策をかなり進めていると思います。

それでも、記録的な異常天候の年には、農家は大きな被害を受けてしまいます。夏が暑ければ農作業も厳しくなります。農業従事者の減少や高齢化が進み、乗り越えるべき課題の多い日本の農業に、地球温暖化が追い打ちをかけてしまっているのは辛いことです」(江守さん)

Q3/温暖化の影響で、サンマが小さくなっているって、本当?

◆A/サンマやサバなどが小型化していることが確認されています。

地球温暖化は陸上だけでなく、海でも起こっています。

気象庁によると、日本近海の海面水温は、100年あたり平均で1.28℃のペースで上昇しています。

海水温が上昇することで、その海に棲(す)む魚介類にも変化が見られます。

たとえば、低い水温を好むサケは、海水温が上がると、とれるサケの数は減少する傾向があります。国内のサンマの不漁の原因にも、海水温の上昇が関係していると考えられています。

地域によっては、漁獲量が増えている魚もあります。その一つは北海道のフグです。

フグというと、下関など西日本をイメージする人が多いと思いますが、近年は北海道で水揚げされる量が増えています。原因の一つに温暖化の影響が考えられます。

サンマは小型化も指摘されていて、温暖化がこのまま進むと、今世紀末に、サンマの体長は1990年代までの平均値に比べ、2.5cm小さくなるという研究もあります。

また、日本近海でとれるイワシやサバも、地球温暖化による餌であるプランクトンが減少し、小型化していることが、東京大学大気海洋研究所によって明らかになりました。

サンマの旬が秋から冬にずれ込む可能性もあり、漢字では「秋刀魚」と書くサンマが未来には「冬刀魚」になってしまうかもしれません。

「温暖化の他に心配されていることとして、海洋酸性化があります。大気中の二酸化炭素の一部は海水に吸収されます。大気中の二酸化炭素が増え、海水に吸収される二酸化炭素も増えて、海の酸性化が進むと、海の生き物が生きにくくなってしまいます。

海水温の上昇によって、海の生き物が棲む地域が変わってきており、そこに酸性化の影響も加わります。今後、お寿司のネタが大きく変わることもありうるでしょう。今のままでは、2050年ごろには、国産のイクラ、ホタテ、ウニ、アワビなどは獲れなくなる可能性もあります」(江守さん)

Q4/温暖化対策をしつつ、「豊かな食」を保ち続けるには、どうしたらいいの?

◆A/地産地消を心がけ、食品ロスや肉食を減らすことなどが効果的です。

地球温暖化の主な原因は、人間の活動によって排出される二酸化炭素などの温室効果ガスです。

この温室効果ガスの排出を削減するには、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料を太陽光、水力、風力、地熱などの再生可能エネルギーに変えていくことなどが重要です。

それらに加えて、食のあり方との関連では、どんなことを考え、実践していくことが大切でしょうか。

「まず地産地消と旬の食べ物を食べることを心がけたいですね。海外産より国産、さらにできれば地元産の食材を食べることを意識するとよいと思います。輸送で発生する温室効果ガスを減らせるし、旬の食材であれば、ビニールハウスなどに費やすエネルギーを使わずにすみます。

食品ロスを減らすことも大切です。余った食品を輸送したり焼却したりする過程でもエネルギーが使われ、温室効果ガスが発生していますが、それを減らすことができます。

牛肉や豚肉、羊肉などの生産過程では、米や小麦、野菜など、ほかの食品の生産過程に比べて、多くの温室効果ガスが発生しています。

私たちが肉を食べるまでには、飼料の生産や輸送、糞尿の処理などにも大きなエネルギーを要しています。また、牛や羊は温室効果ガスであるメタンのケップをします。肉食の割合を減らすことも、温室効果ガスの削減につながります。

私たち一人ひとりの食を変えていくことの効果は小さいかもしれませんが、それが大きなトレンドになることによって、最終的には食料の生産や流通のパターンも変わっていくことが望まれます」(江守さん)


地球温暖化は私たちの食のあり方にも影響を与え、変えていくことがわかりました。温暖化の進行を抑えるため、まずは食品ロスを減らすなど、身近なところから始めたいですね。

ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、皆さんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。


監修/江守正多 東京大学 未来ビジョン研究センター 教授(@seitaemori)

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