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正月料理の定番「お煮しめ」と「筑前煮」の違いは?

ウェザーニュース / 2024年12月28日 14時0分

ウェザーニュース

正月のおせち料理の“定番”として、ニンジンやレンコンなどの野菜類とシイタケなどを煮込んだ、「筑前煮」や「お煮しめ」と呼ばれる煮物が挙げられます。

普段の食卓や料理店などでもよく供される煮物類の具材に大きな違いはあまり見られませんが、おせち料理の代表的な一品といえる筑前煮とお煮しめには、何か違いがあるのでしょうか。

九州北部では「筑前煮」の呼び名が多数派

ウェザーニュースでは、「お正月によく食べる煮物料理は?」というアンケート調査を実施しました。

その結果、全国的には「お煮しめ」の回答が40%と主流でした。

一方で、福岡県や佐賀県などの九州北部では、福岡県西部の旧国名・筑前にちなむ「筑前煮(がめ煮)」と呼ぶ割合が7割に上りました。

筑前煮やお煮しめ以外にも、地域によって違った呼び方もあるようです。

それぞれの名前の由来や歴史、調理法などに違いがあるのかなどについて、歳時記×食文化研究所代表の北野智子さんに詳しく教えていただきました。

「お煮しめ」と「筑前煮」の違いは?

お煮しめと筑前煮の見た目はよく似ていますが、“別の料理”なのでしょうか。

「お煮しめは野菜・乾物を形を崩さずに時間をかけて煮たもの、筑前煮は魚や鶏肉と野菜類を炒めてから煮込むものという、調理法に大きな違いがあります。

筑前煮は、筑前炊きとも『がめ煮(亀煮)』とも呼ばれ、博多(福岡市)の名物料理です。禅宗料理の影響を受けた煮物ともいわれ、お祝いの席や祭礼の時によく作られています。

がめ煮という風変わりな名前の由来は1592(文禄元)年、豊臣秀吉配下の軍勢が朝鮮半島に出兵した時、博多で作られた野戦食に野生のスッポンと野菜を煮込んだものがあり、それを『亀煮』と呼んだためといわれています。

また、江戸時代に筑前国を治めた福岡藩黒田氏の戦陣料理に『ごった煮』があり、具材を『がめりこむ(寄せ集める)』から、『がめ煮』と呼ばれるようになったという説もあるそうです。

のちにスッポンは鶏肉に代わります。筑前煮、がめ煮はお煮しめや『うま煮(甘煮)』に似ていますが、先のとおり材料を事前に油炒めしている点が異なっています。

筑前煮の材料は鶏肉と、ニンジン、ゴボウ、ダイコン、レンコン、タケノコ、サトイモほか野菜類にキノコ、コンニャクなどを入れて、醤油、みりん、砂糖で甘く調味します。

鶏肉の代わりに魚を使う場合は、クロマグロ、ホウボウ、スズキ、鯉、ナマズが使われるようです」(北野さん)

「お煮しめ」は室町時代の精進料理だった

一方の「お煮しめ」は南北朝から室町時代にかけて、精進料理として食されていたようです。

「醤油が登場すると、材料を醤油で煮詰めた食べ物が『煮染(煮しめ)』と呼ばれるようになったといいます。

1536(天文5)年頃に著された『庭訓往来(ていきんおうらい)』という書物に、『煮染牛蒡(ごぼう)』の記載があり、魚貝類を具材とした煮染もあったそうです。

お煮しめとは、惣菜料理の煮物で、『煮染魚』を略した呼び方でもあり、野菜や乾物を形を崩さずに、時間をかけて煮たものです。

材料に、出汁・醤油・砂糖・みりん・塩・酒を加えて煮詰め、からりと色よく仕上げたものが『うま煮』、十分に汁を含ませたものが『ふくめ煮』です。

汁気が残って照りのつかないものがお煮しめ(煮染)で、うま煮とふくめ煮の中間にあたります」(北野さん)

「お煮しめ」「筑前煮」が正月料理に欠かせない理由

なぜ筑前煮やお煮しめが、おせち料理として供されるようになったのでしょうか。

「本来、正月の重箱に詰めるお煮しめは、『おせち』といわれていました。おせち料理の原点となる料理で、代表格とされてきたからです。

明治時代の『東京風俗志』(1901/明治34年)によると、元日には『御節(おせち)』と呼ばれた野菜やこんにゃくなどの煮物を食べ、塩引きの鮭(サケ)を食膳に出すのが通例でした。

そのほか『食積(くいつみ)』といって鰊の子(カズノコ)、煮豆、昆布巻、ごまめ、たたきごぼうなどを重箱に詰めておき、食膳の物として食べたり年賀の客にすすめたとされています」(北野さん)

おせち料理には縁起物として“おめでたい具材”が用いられていて、お煮しめはそれに適していたのでしょうか。

「お煮しめの材料名には、『ん』がつくものが多く、『運がつく』として縁起が良いとされています。

他にも、ニンジンの赤は縁起の良い色、レンコンは先がよく見通せるように、ゴボウは地中深く根を伸ばすことから一家安泰、サトイモは頭いも(八つ頭)から小いも・孫いもが数を増やしていくことから子孫繁栄、タケノコは成長が速く、真っ直ぐに伸びることから子どもが健やかに育つことを願う、といった縁起物であることが知られています。

福岡などの筑前煮(がめ煮)に慣れ親しんできた地方では、材料が似ているお煮しめに替わっておせち料理の重箱に詰めたのだと思われます」(北野さん)

近年のおせち料理は肉や魚介類がメインとなっていますが、実はお煮しめや筑前煮が“原点”でした。このお正月は縁起物を、じっくり味わってみてはいかがでしょうか。

参考資料
『たべもの起源事典(岡田哲編/東京堂出版)、『日本の味探求事典』(岡田哲編/東京堂出版)、『飲食事典』(本山荻舟/平凡社)、『祝いの食文化』(松下幸子/東京美術)、『野﨑洋光の縁起食』(野﨑洋光/中日映画社)、『ニッポンの縁起食 なぜ「赤飯」を炊くのか』(柳原一成・柳原紀子/NHK出版)

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