餅が詰まった時の応急処置法 窒息事故を予防するポイント
ウェザーニュース / 2025年1月2日 5時10分
お正月料理の定番といえばおせちや雑煮ですが、年末年始には毎年のように餅をのどに詰まらせて窒息を起こし、死に至る事故が報道されています。
餅をのどに詰まらせないための予防法と、餅が詰まった時の応急処置法について、日本大学医学部附属板橋病院救命救急センター科長の山口順子先生に解説して頂きました。
1月に突出して多い餅などによる窒息事故
餅をのどに詰まらせて窒息を起こしたというニュースは、年末年始のいわば“定番”のようにも感じます。
東京消防庁の調べによると、2019年から2023年までの5年間で餅や団子などをのどに詰まらせた窒息事故による救急搬送は12月の43人、1月で142人、2月の29人でした。ほかの月はすべて10~25人であり、餅などによる窒息事故は冬場に集中しているといえます。
過去5年間に餅などをのどに詰まらせて救急搬送された人の総数は368人でしたが、そのうち7割が入院加療を要するような中等症以上と診断されています。死亡に至った人も9.5%の35人いますので、餅などをのどに詰まらせることは重大な事故です。
餅などをのどに詰まらせる窒息事故による救急搬送の約9割は65歳以上の高齢者です。年齢別にみなすと、65歳以上で次第に増し、80歳代でピークを迎えます。
餅が詰まった時の応急処置法は?
人が餅などをのどに詰まらせてしまったら、どのように対処すればいいのでしょうか。
「まず、患者さんが窒息状態にあることに早く気がつく必要があります。窒息に陥った人は親指と人差し指でのどをつかむしぐさを見せることが多く、これは『チョークサイン(窒息のサイン)』と呼ばれています。
人がこのしぐさを見せたら、すぐに応急手当が必要になります。具体的な方法を教えてもらいました。
「患者さんに呼び掛けた際に反応がある場合とない場合で、対処法は異なります。
呼び掛けて反応があり、患者さんが咳をすることが可能でしたら、できる限り咳をさせてください。
咳をしても異物が排出されなかったり、患者さんが自分で咳をできなかったりなど、窒息と判断した場合は、直ちに誰かに依頼して119番通報をしてください。
その後、救助者による異物除去が必要になります」(山口先生)
異物除去にはどのような方法がありますか。
「背部叩打法(はいぶこうだほう)と腹部突き上げ法の2つがあります。異物除去はまず、背部叩打法を優先して行ってください」(山口先生)
「患者さんの後ろに回って利き手でないほうの手(左手とする)であごを支え、右手の手のひらの付け根部分で患者さんの肩甲骨の中間あたりを力強く、何度もたたいて詰まったものを取り除いてください。
乳児への背部叩打法は、救助者の利き手でない方の腕に乳児をうつぶせに乗せて、手のひらで乳児のあごを支えつつ、頭を体よりも低く保ちます。そして、もう一方の手のひらの付け根で背中の真ん中を数回強く叩きます」(山口先生)
背部叩打法を試しても効果が見られない場合は、腹部突き上げ法を試して、異物の除去ができるか、患者さんの反応がなくなるまで続ける必要があると言います。
腹部突き上げ法のやり方も教えてもらいました。
「患者さんの後ろに回って腹部に手を回し、一方の手(左手とする)でへその位置を確認し、もう一方の手(右手)で握りこぶしを作って親指側を患者さんのへその上方、みぞおちより下方に当てます。
続いて左手で右手の握りこぶしを握り、素早く手前上方に向かって腹を圧迫するように突き上げます。
腹部突き上げ法を行った場合は内臓を痛める可能性があるので、救急隊が到着したらその旨を伝えるか、医師の診察を受けさせるようにしてください。
また、妊婦や乳児には腹部突き上げ法は行えないので、背部叩打法をのみ行ってください」(山口先生)
患者さんがぐったりして反応がなくなっている場合は、心停止に対する心肺蘇生が必要となります。
「救助者が一人か二人以上か、また患者さんが成人か小児か乳児かによって、処置法が変わります。119番通報をすると通信指令員から適切な指示があるので、その指示に従ってください。
一次救命処置の具体的な方法については、総務省消防庁の公式HPなどで確認しておくと良いでしょう。また、消防署や日本赤十字社などが開催する講習会もあるので、身近に高齢者がいる人などは事前に受けておくと安心です。胸骨圧迫(心臓マッサージ)の方法や蘇生効果が高い人工呼吸法、AEDの使い方も学べます」(山口先生)
ひとり暮らしの場合は?
ひとり暮らしの人が餅などをのどに詰まらせてしまった場合の対処法は。
「まず、異物を咳ではき出そうと試みてください。それでも取り除けず空気を吸うことが難しい場合は、自分で腹部を突き上げる方法を行います。まず利き手(右手)で握りこぶしを作り、へそと肋骨の下の間、異物があると思われる位置に置きます。
右手の握りこぶしを左手の真ん中でつかむと、強く押せるようになります。握りこぶしを腹に押し込んで上に引き上げる動きを何度も繰り返します。椅子やテーブルの天板など、固定された物に覆いかぶさって力を加えるのも効果的です。同時に咳を続けることも意識してください。
異物が除去できない時は、119番通報をためらわないでください。しゃべれない場合でも声が出せる可能性はありますので、ご自身の異常を訴える努力をしてください。通信指令員が緊急事態を察知して、うまく対処してくれるでしょう。
また、どうしても119番通報でができない場合は、ファクスを活用することもできます」(山口先生)
餅による窒息事故を予防するには?
こうした応急処置法を知っておくことも大切ですが、何よりも餅が詰まらないように注意することが重要です。そのためにも、次に紹介する窒息事故を予防するポイントを忘れないように心がけましょう。
「まず、餅を食べる前に、お茶や汁物を飲んでのどを潤しておきましょう。また、餅は食べやすい大きさに小さく切っておきます。食べる時は急いで飲み込まず、ゆっくりと噛んでから飲み込んでください。
餅の硬さと付着しやすさは温度による影響も受けます。温度が高いほど軟らかくなる傾向がみられ、器から口に入った直後の50〜60℃では軟らかく、伸びやすい(付着性が小さい)のですが、餅の温度が外気温や体温などで40℃程度に低下すると硬くなり、付着性も増加します。
この状態が喉に張り付きやすい状態といえ、窒息の大きな要因になるのです(平成19年度 厚生労働科学研究 食品による窒息の現状把握と原因分析研究)。
また加齢に伴い、嚥下(えんげ)機能や食べ物への集中力の低下に影響を与えることもあります。さらに服用している薬が嚥下機能や注意力の低下に影響を与えることもあります。
小児、乳幼児の場合は、餅だけでなく、ピーナッツやこんにゃくゼリーといった食べ物のほか、おもちゃなどの詰まらせにも気をつけましょう。高齢者では、薬の包み紙、義歯の詰まらせにも注意してください。
高齢者や乳幼児と一緒に食事を摂る時は、食事の様子を見守るなど、周囲も注意を払うようにしましょう」(山口先生)
“万が一”の場合にも備えて、楽しいお正月を過ごすようにしましょう。
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