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南極の海氷 2100年には大幅減少か 温室効果ガスを減らせば回復する?

ウェザーニュース / 2025年2月11日 5時10分

ウェザーニュース

地球温暖化や気候変動が世界各地で報告されるなか、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)は2024年12月、「南極の海氷変動による人為起源の温室効果ガスの影響が明らかに」と題する発表を行いました。

南極域の海氷面積の減少は周辺の気候変動ばかりでなく地球全体の海水位の上昇につながり、人類の生活環境などにも大きく関わってくることから、その状況を理解しておくことは重要です。

このまま温室効果ガスの排出が進むと南極の海氷はどうなってしまうのか。さらに排出量を減らせば回復する可能性はあるのかなどについて、JAMSTECの森岡優志主任研究員に解説して頂きました。

南極の海氷、温室効果ガスも影響し減少傾向

JAMSTECの発表に先立つ同年10月、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)と国立極地研究所(NIPR)は「南極海の冬季海氷域面積が衛星観測史上2番目の小ささに」との観測結果を発表しています。

それによると、南極域の年間最大海氷面積は、2023年9月に約1709万100平方kmの観測史上最小値を記録。2024年9月は約1717万2900平方km(史上最少2位)とわずかな増加を示したものの、顕著な海氷の減少傾向はなお続いているようです。

南極域の海氷の減少は、どのような原因によるものなのでしょうか。

「北極域の海氷は温暖化の影響を受けて減少を続けてきたといえますが、これとは異なり、南極域の海氷は1979年から2015年までわずかながらも増加傾向を続けてきました。しかし、2016年に急激な減少となり、その後は記録的に少ない状態が続いています。

2016年の急激な海氷の減少には、前年に発生した過去最大級のエルニーニョ・南方振動(太平洋赤道域東部の海水温上昇)や南半球の環状モード(中高緯度の大気現象)などが関わっているとされています。

JAMSTECなどによる直近(2024年10月発表)の研究で、南極域の海氷面積が80~100年ほどの周期で自然変動していることが判明しました。しかし、近年増加しつつある温室効果ガスの影響により海氷がどのように変動するかは明らかではありませんでした。

そこでJAMSTECではこのほど米国海洋大気庁(NOAA)と協力して、大気の流れと海流の状況などを一体化した『大気海洋結合モデル』というスーパーコンピューターのプログラムを用い、人為起源の温室効果ガスによる放射強制力をさまざまなシナリオに基づいて変化させた実験を行いました。温室効果ガスが南極域の海氷変動に及ぼす影響を調べたのです」(森岡研究員)

放射強制力とはどのようなものなのでしょうか。

「二酸化炭素(CO2)やメタンなどの温室効果ガスによって気候のバランスが変化した時の影響の度合いを示す気象学用語で、1平方mあたりのワット数(W/m2)で示されます。温室効果ガスが増えると、放射強制力はプラスに向かいます」(森岡研究員)

2100年には南極海氷の25%が消滅!?

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2021〜2022年に提示した第6次評価報告書では、温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、2100年には産業革命以前に比べて2℃以上、最大で5.7℃も上昇するシナリオが見込まれています。

このまま地球温暖化が進めば、南極の海氷はどうなってしまうのでしょうか。

「大気海洋結合モデルで、主要な温室効果ガスであるCO2排出量が今世紀半ばまで現状のペースで排出し続けるという中排出シナリオを想定した『SSP245』実験では、2100年にはCO2濃度が現在の約1.5倍に増加。2100年には南極の海氷の約4分の1にあたる約300万平方kmが失われるというシミュレーションがなされました。

さらに、高排出シナリオを想定した『SSP585』実験を見ると、CO2濃度が現在の3倍近くになり、海氷面積は800万平方kmも減少することが分かります」(森岡研究員)

温室効果ガスが減ると南極の海氷は増加・回復する

温室効果ガス排出抑制がなされた場合を想定した実験も実施されたのでしょうか。

「2030年と2040年から30年間かけて、人為起源の温室効果ガスによる放射強制力がゼロとなるまでの緩和策を講じたという設定で、『SSP534OS_10ye』『SSP534OS』という実験を行いました。

その結果、南極域の海氷は緩和策を講じてから10~20年後に減少が止まり、2100年までには増加・回復するとの傾向が明らかになりました。

そのほかさまざまな設定で行ったどの実験からも、主要な温室効果ガスであるCO2の濃度変化と南極域の海氷面積の増減とが、よく対応していることがわかりました」(森岡研究員)

また、温暖化したときは海氷変動の性質にも変化が見られることが分かったと言います。

「温暖化していない時は、海洋深層の影響が強いため、温かい中層の水が湧昇することで海面付近の水温が上昇し、海氷が変動していました。

ところが温暖化した将来の気候では、降水量の増加や氷床の融解によって、海水の密度が下がります。その結果、海洋の表層と深層の密度差(成層)が大きくなり、深さ方向に混ざりにくくなります。

このため、海洋深層からの影響が弱くなり、主に大気の変動によって海氷が変動するようになることが分かったのです。

つまり、温暖化した将来の海氷変動を正しく理解し予測するためには、大気と海洋表層の両方の変動について、観測やシミュレーションで正確に捉える必要があるのです」(森岡研究員)


地球温暖化の影響は私たちの生活や未来にも大きな変化をもたらす可能性があります。

ウェザーニュースは気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、皆さんと一緒に地球の未来を考えていきます。気候変動の急速な進行を食い止めるために、私たちも身の回りのできることから取り組み、一緒に地球の未来のことを考えていきましょう。




参考資料
Morioka, Y., Zhang, L., Cooke, W. et al. Role of anthropogenic forcing in Antarctic sea ice variability simulated in climate models. Nat Commun 15, 10511 (2024)、Morioka, Y., Manabe, S., Zhang, L. et al. Antarctic sea ice multidecadal variability triggered by Southern Annular Mode and deep convection. Commun Earth Environ 5, 633 (2024)

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