カタールW杯ラウンド16PK戦での課題/六川亨の日本サッカーの歩み
超ワールドサッカー / 2022年12月8日 21時0分
カタールW杯は大会17日目を終えてベスト8が出揃った。日本に敗れてグループステージで敗退したドイツに続き、ラウンド16では日本に続いてスペインもPK戦で3人連続して止められてモロッコに敗れた。
これでグループEを勝ち抜いた2チームはラウンド16で敗退。ベスト8に進めなかったのは唯一グループEの勝者だけで、さらにグループステージで2勝しながら敗退したのも日本だけだった。
ドイツとスペインに逆転勝ちを収めたことは評価できる。しかし「世紀の大番狂わせ」と自画自賛する前に、JFA(日本サッカー協会)の技術委員会は改めてドイツとスペインの実力を過大評価することなく冷静に分析するべきだろう。
さて日本とスペインは、いずれもPK戦で敗退した。PKは「キッカーが有利」だと言われる。さらにPK戦になると「ロシアンルーレットのようなもの。運次第だ」といった意見もある。いずれも一面を言い当てているに違いない。
しかしスペインのルイス・エンリケ監督はPK戦への備えをしていたにもかかわらず、敗軍の将となった。延長後半13分、エンリケ監督はPKキッカーのパブロ・サラビアを6人目の交代選手としてピッチに送り出した。終了間際にはフリーとなったサラビアのボレーシュートが左ポストをかすめた。決まっていれば、指揮官の采配がズバリ的中したことになる。
ところがである。PK戦に突入すると、スペインの選手からは“闘志"がまったく感じられなかった。延長戦ではモロッコの鋭い攻撃に遭い、決定的な場面を作られたからなのか“怯えている"ようにすら感じられた。そして3人目のキャプテンであるセルヒオ・ブスケッツまで止められ敗退が決まった。
正直に「ワン、ツー、スリー」のタイミングで蹴りに行ったため、GKもセービングのタイミングが合わせやすかったのではないか。そしてそれは、まるで日本対クロアチア戦の再現を見ているかのようだった。
日本はPK戦を迎えて、誰が蹴るのかは選手の自主性に任せたと後から知った。用意周到な森保監督にしては意外だった。なぜならPK戦は想定できただろうから、キッカーの人選と順番、さらには相手GKがどちらに飛ぶのかもリサーチして備えていたと思ったからだ。GK権田修一に対しても、相手キッカーの癖を伝えていると思っていた。
なぜなら過去の代表コーチやGKコーチは、そうした細かな分析とタブレットを使ったレクチャーで事前に選手に伝えることを「日本のストロングポイント」と話していたからだ。ところが残念ながら、今回はそこまでの準備をしていなかったようだ。
過去のW杯やアジアカップで積み上げた経験値は、技術委員長の交代により技術委員会のメンバーも代わるとリセットされて次世代には受け継がれない。紙媒体やデジタル化した資料も残されていないようで、これもまたJFAの悪しき伝統と言える。
そして森保監督には、ウソでもいいからPK戦の人選は「私が決めました」と言って欲しかった。
今回のラウンド16における日本とスペインのPK戦を見て、改めて正確でパワフルなシュートを打つことの重要性が指摘されることだろう。技術の向上はいつの時代も必要だからだ。しかし、PK戦は技術だけの問題ではない。メンタルの強さや相手を欺く狡猾さも必要になる。
10年南アW杯のパラグアイとのPK戦では、3人目のキッカー駒野友一がシュートをバーに当てたシーンが今回も紹介された。覚えているファン・サポーターもいるだろう。しかし、4人目のキッカーのシュートを覚えているだろうか。
当時24歳の本田圭佑は、GKのタイミングをずらした“ころころシュート"を中央に決めた。
こうした駆け引きも含め、重圧のかかる状況でのPKは練習環境がないのが現実でもある。シュート練習を繰り返せば技術の向上と同時に自信にもつながるだろうが、それとプレッシャーとの戦いは別だ。
かつて全国高校選手権で、広島県代表の常連高校がPK戦で何年か連続して敗退した。その高校の監督はPK戦の特別練習をするかと聞かれて、「いっさい練習はしません」とムキになって答えた。それもまた“真実"だろう。練習はしょせん練習に過ぎず、“修羅場"を経験するしかない。ただ、W杯は4年に1回しかなく経験を積めないのが恨めしい。
そういえば、クロアチア戦でPK戦に登場した4人のうち、シュートを決めた浅野拓磨は四中高出身で一発勝負の高校サッカー経験者だ。当然PK戦も経験したかもしれない。そして残りの3人は、小・中学生年代からいずれもJリーグの下部組織出身でリーグ戦での経験が多いのではないだろうか。ここで「負ければ終わり」の高校サッカーの“功罪"を問うつもりはない。今年もまた高校サッカー選手権の季節がやって来た。彼らがカタールW杯をどのように見たのか聞くのも楽しみでならない。
【文・六川亨】
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