Jリーグ30周年の開幕と木之本会/六川亨の日本サッカー見聞録
超ワールドサッカー / 2023年2月18日 21時45分
30周年を迎えるJリーグが17日に開幕した。“金J”ということで1試合限定の開幕戦、さらに横浜FM対川崎Fという昨シーズンの1位と2位による神奈川ダービーとあって、2万人を超えるファン・サポーターが詰めかけた。
試合はというと、いつものようにボールを保持して攻めたい川崎Fに対し、横浜FMは試合開始から強烈なプレスで圧力をかけて川崎Fのビルドアップを寸断。4分にはGKチョン・ソンリョンのミスキックを誘発して先制するなど、昨シーズン王者の貫禄を見せた。
後半は早めの選手交代で攻勢に出た川崎Fに対し、ケヴィン・マスカット監督は「準備段階では予測の部分でボールを握ることを目指していた」と言いつつも、「1、2点入り、相手はホームだし、どんどん前に来た」ことで守勢に回らざるを得なかったことを認めた。
とはいえ、思い起こせば横浜FMは歴史的にカウンターでタイトルを取って来たチームでもある。94年の初戴冠の際はヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)のポゼッションサッカーに対抗するために、井原正巳ら強固な守備陣をベースにカウンターからタイトルを奪取した。
03年と04年の連覇では、岡田武史監督は無理をしてボールポゼッションを高めることはせずにロングボールも多用して、リスクヘッジのサッカーで結果を残した。そんな横浜FMが攻撃的なスタイルでタイトルを獲得したのは19年のアンジェ・ポステゴグルー監督時代くらいだろう。
しかしマスカット監督になってからは、チームの完成度は高いし、選手層も厚いものの、「スペクタクルか」と問われれば首を捻らざるを得ない。
今シーズンのJ1リーグはこの横浜FMと川崎F、そして主力選手のほとんどが残留して継続性のある広島の3チームが優勝争いを演じそうだが、川崎Fがポゼッションスタイルを確立するには時間がかかりそうだ。そうなると、「見ていて楽しいサッカー」をどのチームが披露してくれるのか。
浦和は、ビッグクラブと言われるほどには選手のグレードがイマイチだ。神戸のようにもっと選手獲得に投資して欲しい。首都クラブのFC東京も、ブラジル人トリオがいる限り、アルベル監督が理想とするボールポゼッションよりもカウンタースタイルを踏襲せざるを得ないだろう。
30周年ということで、Jリーグは様々なイベントを企画しているが、チームそのものに魅力がないと集客も難しい。チームとして勝利を目指すのは当然として、試合内容にも注目したい30年目のJリーグである。
余談であるが、今週、Jリーグの創設に尽力して、17年に亡くなられた元Jリーグ理事の木之本興三氏を偲ぶ“木之本会”に出席した。日本代表の強化のためにJリーグ創設を決意した結果、五輪は96年のアトランタ五輪以来7大会連続、W杯も98年フランス大会以来、こちらも7大会連続して出場を続けている。
もはや五輪もW杯も、「出場して当たり前」の時代になった。
そんな木之本さんが生前に言っていて印象深いのが、「(86年)メキシコW杯か(88年)ソウル五輪に出場していたら、Jリーグは誕生していなかった」という言葉だ。いずれも最終予選まで日本は勝ち上がったが、W杯予選は韓国に、五輪予選は中国に敗れて国際舞台への道を閉ざされた。
どちらかに出場していたら、「プロリーグを作らなくても出られた」と却下されただろうということだ。いま思い返しても「禍福はあざなえる縄のごとし」といったところだ。
木之本さんは、晩年にはバージャー病という奇病に冒され、両足を膝下から切断した。そんな木之本さんを見舞いに訪れたセルジオ越後さんは、「これでチェアマンになったね」と激励したことを“木之本会”で披露した。木之本さんには川淵さんらJリーグとJFA(日本サッカー協会)の有志がお金を出し合って、ヤマハ製のクルマ椅子を贈呈した。そんなエピソードを、セルジオさんらしいユーモアで紹介したというわけだ。
昨年は来日50周年の記念パーティーも開催されたセルジオさん。サッカーダイジェストの連載も創刊号以来1200回を超えている。これも何気に凄いことだろう。
【文・六川亨】
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