シーズン移行の疑問点/六川亨の日本サッカー見聞録
超ワールドサッカー / 2023年4月27日 18時0分
Jリーグは4月25日の理事会後の会見で、現在の春秋制から秋春制へのシーズン移行を検討していることを報告した。シーズンを移行するかどうかの結論は今年中に出し、Jリーグ理事会の多数決で決定するという。
正直なところ、シーズン移行を蒸し返すのは拙速に過ぎるし、「結論ありき」の議論という印象が拭えなかった。
元々は、今年2月に田嶋幸三JFA(日本サッカー協会)会長からシーズン移行の提案があったそうだ。加えてAFC(アジアサッカー連盟)は、これまで春秋制だったACL(アジア・チャンピオンズリーグ)を2023-24大会(今年)から8月開幕の、翌年5月決勝という秋春制にシーズンを移行する。
さらにACLは2024-25大会から新構造にして、新たにクラブ大陸王者大会(仮称)を毎年開催。そして2025年からはクラブW杯が32チーム参加に拡大され、4年に1回の大会にリニューアルされる。
クラブW杯はさておき、AFCとしてはACLの充実と、新たにELのような大会を新設してヨーロッパを模倣しようという意図なのだろう。しかし現実的に、ACLは決勝戦はともかくとして、日本でグループリーグの試合は閑古鳥が鳴いている。出場や勝利ボーナスもCLとは比べようもない。
シーズンを移行しないとACLは選手が入れ替わる可能性が高いとも説明したが、これまで中東は秋春制のリーグだったため、現行のACLではシーズンをまたいでの参戦だった。カタールW杯や来年のアジアカップを例に出すまでもなく、現在アジアの盟主は中東勢と言っても過言ではない。そんな彼らがACLを自分たちの都合のいいようにシーズンを変更しただけにすぎない。
そんなACLに日本から出場できるのは、たったの4チームだけである。来年からJリーグはJ1からJ3まで各20クラブ、計60クラブのリーグにリニューアルされるが、J1のたった4チームのために、残りの56チームが多大な犠牲を強いられるのは不公平以外のなにものでもない。しかもACLに出場する4チームは、グループリーグを本気で戦うかどうかは監督次第というのが現状である。ACLよりも国内リーグを重視しているのは過去の例からも明らかだ。
Jリーグは会見で、シーズンを移行しても1月はウインターブレイク(これまではオフ)で変わらず、2月1週の再開が2月2週の開幕、12月3~4週の中断が12月2週の閉幕と、ほとんどシーズンが変らないことを強調。6~7月のシーズンオフは体力を温存できることと、W杯に充てられる利点を説明した。しかしこれまでもW杯期間中のJ1リーグは中断されていた。それに不都合を感じた声を聞いたことはない。
今後は5月をメドに「シーズン移行によるメリットの明確化」と「シーズン移行の懸念点とその解決方策の明確化」を確認。7月までに「必要な情報の収集・整理」を行い、9月までに「整理した情報を元にした、方向性の議論」をして、23年内に「決議」する予定でいる。
この会見を聞いていて不思議に思ったのは、シーズン移行による一番の問題点、「降雪地域のスタジアムと練習会場をどう確保するのか」が抜け落ちていたことだった。スタジアムや練習会場をドーム型にするには、地元行政と住民の理解が必要だろうし、完成までに時間がかかる。集客や交通機関の確保という問題もある。さらにシーズンを移行すれば、親会社の決算時期や、2種選手(高校生)をトップ登録するために練習参加させる機会をどう捻出するのかなど、これまでシーズン移行を検討する際にネックとなった問題点についての言及が一切なかったことも大いに気になった。
元コンサドーレ札幌の野々村芳和チェアマンは「実行委員なら私見を述べられるが、まっさらに、フラットに意見を聞いていきたい」と明言を避けた。今シーズンのJ1で積雪地帯のクラブは札幌と新潟の2チームだけだ。しかしJ2には山形、秋田、金沢、群馬、いわきの5チーム、J3には盛岡、松本、富山、長野、八戸、福島の6チームがある。これらのクラブがドーム型のスタジアムや練習場を持てる余裕があるとは到底思えない。
にもかかわらず、今年中に「決議」するということは、始めからシーズン移行は「不可能」という結論があっての議論ではないだろうか。不毛な議論ではあるが、Jリーグとしては手順を踏む必要があるのだろうと勘ぐった次第である。
【文・六川亨】
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