どよめくスタンド、選手も拍手…改めて感じさせられたイニエスタの偉大さ、誰もを魅了し続けた“天才”の意思を日本サッカーは継げるか
超ワールドサッカー / 2023年6月7日 21時40分
日本のサッカーファンは、改めてアンドレス・イニエスタの偉大さを感じることができたのではないだろうか。
2023年6月6日、世界のサッカー界に影響を与え、日本のサッカー界にも大きな影響を与えた1人の男が主役となった。国立競技場で行われた試合はヴィッセル神戸vsバルセロナ。イニエスタが所属するクラブと、12歳から所属していたクラブの対戦だ。
イニエスタは神戸の一員として、2度目の古巣対戦。2019年夏にも実現したカードだったが、この試合は特別な位置付けとなった。
5月25日、イニエスタは7月1日をもって神戸からの退団が決定。その先の去就は不透明だが、日本でのプレーはこれで終わりになる可能性が高く、イニエスタを日本で見られる試合も限られてきた。
その中で行われた国立競技場での一戦。チケット料金の問題もあるのか、一部の席は全く人がいないなどしたものの、それでも4万7335人の観客がスタンドに詰めかけた。
バルセロナのユニフォームを着た人、フラッグを振る人も多く見られ、ラ・リーガの最終節から中1日、長距離移動後24時間も経たずに試合を行うバルセロナの選手たちがお目当てだったはず。今シーズン限りで退団するMFセルヒオ・ブスケッツやMFジョルディ・アルバ、MFペドリらは不在だったが、それでもポーランド代表FWロベルト・レヴァンドフスキやスペイン代表MFガビなど多くの一流選手は来日した。
ただ、そんなバルセロナのファンも当然イニエスタはお目当ての1人。試合前のウォーミングアップで登場した際には、大きなどよめきと拍手が送られた。
◆イニエスタの偉大さを示す、異例のマッチメイク
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イニエスタと古巣バルセロナの対戦となれば、多くの人が目にしたいはず。一方で、神戸のファンからすれば、なぜ神戸でやらないのかという疑問も沸いていた。その気持ちは十二分に理解できる。
ただ、そもそもこのマッチメイクが実現したことが異例と言えるだろう。
バルセロナは今シーズンのラ・リーガで優勝。最終節の日程変更を要求していたが、対戦相手のセルタが残留争いをしていたために日程をズラせず。強行日程で来日することになってしまった。元々、そのリスクはあったが、それでもこの試合の実施を許可した。それは、イニエスタのためと言えるだろう。
世界のクラブの中でも、名門中の名門とも言えるバルセロナが、1人の選手のために遠く離れた日本までやってきたこと自体、イニエスタがどれだけ特別な存在なのかということが分かる。
そして、それは選手たちの反応からも見て取れた。
試合前、入場を待機しているところでは、多くの選手がイニエスタのもとへと歩み寄った。そして、バルセロナとスペイン代表で長年チームメイトとして戦い、数多くのタイトルを共に獲得したチャビ・エルナンデス監督も熱い抱擁を見せた。
試合前の挨拶では、何処か選手たちも緊張気味。また、イニエスタとの接点はほとんどない選手たちも、皆スターを見る顔になり、自然と笑みが溢れていた。真のスターであることを改めて感じさせられた場面だ。
◆ピッチで見せたイニエスタらしさ
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試合が始まり、イニエスタは積極的にボールに絡んでいく。攻撃的なポジションで出場も、ゲームメイクをするために下り目のポジションを取ることも多かった。
「まだまだプレーを続け、ピッチに立ち続けたいという思いはある」
退団会見でイニエスタは語ったが、今シーズンはチームのスタイルも変わり、出番が大きく減っていた。ただ、この日のイニエスタは、らしさを出し続けていた。
同じく出番が減少した元バルセロナのMFセルジ・サンペールと近い距離を保ち、ビルドアップに参加。細かくパスを繋ぐ、バルセロナで培ってきたスタイルを見せた。
時には長い距離のスルーパスを背後に出すこともみせ、ゴール前に顔を出すシーンも何度かあった。ゴールチャンスもあったが、相手のGKイニャキ・ペーニャがしっかりと仕事をし、期待された結果は得られなかったが、久しぶりにイニエスタらしいプレーを見たような気がする。
ファンもそれを感じたのか、イニエスタがボールを持てばスタンドはどよめき、パス、トラップ、相手をかわす動きにも声が上がった。神戸でのデビュー戦で多くの人が見た驚きは、終わりが近づいた今でも、改めて多くの人に伝わったのだろう。それに応えようとしたのか、イニエスタもらしさを見せ続けた。
そして、それはバルセロナの選手にとっても同じだったのだろう。前半が終了した際には、ダニ・ロドリゲスがピッチから下がる際にイニエスタと話し込んでいた。何を話したかは不明だが、偉大なるラ・マシアの先輩を前に、話したいことがあったのだろう。
さらに、81分にイニエスタがピッチを後にする際にも、多くの選手がイニエスタと握手。そして、スタンドから拍手が送られるだけでなく、バルセロナの選手たちも惜しみない拍手をイニエスタに送った。それだけ、バルセロナにとって大きな存在であるということだ。
最大の見せ場となったのは、ピッチを出たところでチャビ監督が待っていたこと。2人が抱擁し、イニエスタとバルセロナの戦いは終わった。
試合後には、バルセロナから選手たちのサインと名前、背番号「8」が入った、今シーズンのバルセロナのユニフォームが送られた。イニエスタのために、バルセロナもしっかりと準備をしてきた中、特別な一戦はバルセロナの勝利で幕を閉じた。
◆志半ばで終わった「バルサ化」は受け継がれる
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イニエスタを獲得した際、よく耳にするようになった言葉が「バルサ化」だ。
これは「パスを繋ぎ、ボールポゼッションを高め、攻撃的に試合の主導権を握る」というバルセロナのスタイルだ。そして、神戸はイニエスタを中心に据えてそれを目指した。
元スペイン代表FWダビド・ビジャ、元ドイツ代表FWルーカス・ポドルスキらも要し、後方からビルドアップしてパスを繋いでいくサッカーを目指して戦い続けた。
クラブ初となるメジャータイトルの天皇杯を優勝し、リーグ戦でも上位に入ることもあったが、その歩みが順調だったかと言えば、そうとは言えない。
逆に、イニエスタの退団にもつながった、脱「バルサ化」により、今シーズンは首位を走る。ハイプレスを軸に、強度高く、素早くゴールを目指すスタイルは、日本代表はヨーロッパでのプレー経験を持つ選手たちを輝かせている。
「バルサ化」という単語に捉われすぎた部分もあったのかもしれない。ポゼッションすること、ボールを繋ぐことに意識が向きすぎたかもしれない。確かに、バルセロナらしさとはショートパスを繋ぎ、相手とのギャップを生み出して隙を突いていくというものだが、その目的は「ゴール」だった。ゴールに繋がるプレー、より攻撃で優位に立つことが「バルサ」らしさであり、イニエスタはそれを最後まで見せ続けてくれた。
偉大なるレジェンドとの別れ。「少なくとも自分が残そうと思ってきたものは、ピッチ内外でのサッカーに対する情熱やリスペクトの気持ちに従って、全てを出し尽くそうと心がけてきた」と自身が日本サッカーに残したものを問われて答えたイニエスタだが、そのプレーや振る舞いから多くのものを学んだ選手がピッチで輝き、彼のプレーを間近で見ることができたファン・サポーターは、そのレベルを選手に求め続けて良いはずだ。
「バルサ化」という言葉に踊らされる必要もないだろう。ただ、バルセロナが魅力として持つ「攻撃的に主導権を握る」というのは、今後の日本サッカーが目指していく方向性の1つ。日本サッカーの更なる発展、Jリーグがより魅力あるリーグになることが、イニエスタへの恩返しとなるだろう。
《超ワールドサッカー編集部・菅野剛史》
【動画】イニエスタがバルサと再会!盟友・チャビ監督とも熱い抱擁
【写真】イニエスタの子どもたちや妻もメモリアルマッチに参加
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