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浦和サポの乱入は防げなかったのか/六川亨の日本サッカーの歩み

超ワールドサッカー / 2023年8月7日 19時30分

写真:©︎CWS Brains, LTD.

先週末のJリーグは、まずJ3で首位の愛媛(0-0岐阜)と2位の富山(2-2今治)が揃って引き分け、3位の鹿児島が宮崎に2-3で敗れる波乱があった。上位3チームが小休止といったところ。そして3週間ぶりに再開されたJ1でも、湘南が広島を1-0で下して16試合ぶりの勝利をあげて最下位を脱出した。

ところが翌日、柏が京都に1-0の勝利を収め、井原正巳監督が5月に就任してからリーグ戦9試合目で初勝利。さらに横浜FCも首位の神戸に2-0と快勝した。この結果、湘南は再び最下位に転落し、下位3チームによる残留争いは相変わらず三つ巴の戦いになっている。

中断期間中にはカテゴリーや順位に関係なく積極的な補強に動いたチームも多い。彼ら新戦力がどれだけ早くチームにフィットするか、後半戦の見どころの1つと言っていいだろう。

そうした状況に“水を差した"のが天皇杯4回戦の名古屋対浦和での、浦和サポーターによるトラブルである。0-3の敗戦後、名古屋サポーターのヤジに激高して暴徒化。緩衝帯を突破してピッチに乱入したり、名古屋の横断幕を剥がしたり、制止に入った警備員を突き倒したりした。

この件に関して浦和は翌3日に処分を発表。立ち入り禁止エリアへの侵入を主導した31名には9試合、統括するリーダー1人には16試合、そして侵入した45名には厳重注意の処分が下された。さらに5日の14時からはオンラインによる会見を実施し、田口誠代表取締役社長、須藤伸樹マーケティング本部長が出席し、事実経過の説明と謝罪、再発防止について釈明した。

詳細はすでに当サイトで紹介されているので省略するが、田口社長の「今回の事案は先人が紡いできた、日本サッカーの歴史に泥を塗る愚行であり、また夏休み中ということもあり、多くのお子様がスタンドに足を運んでいたなか、絶対に見せてはいけない姿、絶対に感じさせてはいけない恐怖や不安を与えてしまったことは痛恨の極みでございます。名古屋グランパスのサポーターの皆様をはじめとして、当日のご来場者様、ご迷惑をお掛けした関係各所の皆様、そしてサッカー、スポーツを愛する皆様に心より謝罪を申し上げます。誠に申し訳ございませんでした」というのは偽らざる本心だろう。

田口社長は早大から三菱重工入りしたDFで、JSL(日本サッカーリーグ)1部と2部で計60試合に出場している。現役引退後は社業に専念していたのだろうが、今回の事件に対し真摯に向き合おうとしている姿勢を画面越しからも感じた。

一方、須藤本部長が「暴力行為は確認されていない」と発言したのには驚かされた。拡散された動画にも、警備員を押し倒すシーンが映し出されていたし、横断幕を勝手に引き剥がす行為は「暴力行為」と言えないだろうか。

浦和は07年にもアウェーの清水戦で、浦和サポーターが勝手に清水の横断幕を外してピッチに落とし、自分たちの横断幕を掲出するトラブルを起こした。このときも浦和は自主的にペナルティーを科し、役員(藤口代表)の報酬自主返納1ヶ月やセキュリティー担当と運営担当への厳重注意と始末書の提出、当該サポーター7名には4試合の入場禁止という処分を下している。

それから比べると、今回の決定には“身内への甘さ"が感じられてならない。天皇杯はJFAとJリーグの主催となっているものの、実際はJFAの管轄で、なおかつ敗退しているため、無観客試合といったペナルティーも、リーグ戦の勝点剥奪もないと高を括っているのではないかと疑いたくなる。今後、JFAの規律委員会がどのような判断を下すのか注目である。

今回の一件で、乱入した浦和のサポーターに非があることは疑いようがない。試合に負けてストレスが溜まり、なおかつ名古屋サポーターに挑発されたからといって、それが乱入の言い訳にならないのは当然だ。

ただ、浦和のサポーターだけに非があるのだろうか。

今回の試合を主管したのは愛知県サッカー協会である。そして試合会場はCSアセット港サッカー場である。かつては名古屋市港サッカー場と言われたが、Jリーグの試合はスタジアムが完成した93年に瑞穂公園ラグビー場が改修で使えなかったために1試合、94年に広島戦が行われて以降、Jリーグでは使用されていない。

それもそうだろう。2万人収容とはいえ、座席があるのはメインの6700席だけ。サイド(5800人)とバックスタンド(7500人)は芝生席である。そして映像を見る限り、「緩衝地」とは名ばかりの柵が芝生の上に置いてあるだけ。一発勝負の天皇杯で、相手は浦和である。当然、多くのサポーターが訪れることは予想できたはず。さらに両チームは4月にも揉めていた。

試合会場を変更するなり、両クラブのスタッフと警備会社、さらには警察による厳重な警戒態勢を取ることはできなかったのか。「見通しが甘かった」とのそしりは免れないのではないか。

もう1点、浦和の見通しが甘いのはサポーター心理を理解していない点である。アウェーに乗り込むサポーターは、程度の差こそあれ「決死の覚悟」で行く。ホームでチームが情けない試合を繰り返せばスタジアムに居座ったり、チームバスを囲んだりすることもある。しかしピッチへの乱入までには至らないだろう。なぜならそこは“ホーム"だからだ。

自分自身、かつて日本代表の試合を取材に韓国のソウルやイランのテヘランに行くときは、選手とともに「戦いに行く」心境だった。敵地に乗り込むと、自然と胸を張るようになった。そしてそれは、サポーターも同じ心境ではないだろうか。

そうした“熱い"サポーター心理を浦和の現スタッフはどこまで理解しているのか。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」では困りものである。


【文・六川亨】

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