日本サッカー協会の事務局の移り変わり/六川亨の日本サッカーの歩み
超ワールドサッカー / 2023年8月15日 18時0分
JFA(日本サッカー協会)が文京区本郷の持ちビルであるJFAハウスを売却して引っ越したのは6月下旬のことだった。JFAは同じ文京区の飯田橋にあるトヨタ東京ビルに、Jリーグはタイトルパートナーである皇居に近い明治安田生命保険ビルへと引っ越した。
新居へ移ったJFAとJリーグを取材に訪れた率直な感想は、「やはり不便だな」というものだった。自社ビルではないので当然だが、両社ともセキュリティーはかなり厳しい。これまでのJFAハウスのように、受付で簡単な手続きから入館することはできない。日本を代表する企業だけに、“敷居"はかなり高いのも当然だった。
サッカー専門誌に就職した40年ほど前、日本サッカー協会は原宿と渋谷の間にある岸記念体育館というアマチュアスポーツの総本山にあった。体育館と言っても普通の5階建てのビルで、日本サッカー協会は3階の角部屋のかなり広いスペースを借りていた。新人記者が膝に穴の空いたジーンズで記者会見に行っても咎められない雰囲気が当時はあった。
日本代表の選手発表といった記者会見でも、会見場は事務所内に置かれたソファーに三々五々、座るだけ。記者は共同通信と時事通信、朝・毎・読の3大紙、報知新聞、スポニチ、日刊のスポーツ3紙、これにマガジンとイレブンとダイジェストの専門誌くらい。あとは時々サッカー好きの日経とトウチュウの記者が加わる程度だった。
質疑応答は専務理事だった長沼健氏(第8代JFA会長)が務め、懇切丁寧に記者の質問に答えていたが、80年代前半の日本サッカーに明るい未来はあまりなかった。
そんな日本サッカー協会に変革が訪れたのは、やはりJリーグの創設だ。当時は当然のことながら、JSL(日本サッカーリーグ)事務局もサッカー協会内にあった。しかし「アマチュアの総本山でプロ化の話はできない」ということで、先にJSL事務局が岸記念体育館から移転。当時、JSL総務主事だった森健兒氏(故人。元三菱)が神田小川町にある三菱重工が間借りしていたビルに“居候"という形で事務局を開設した。
Jリーグは93年に無事に開幕したが、サッカー協会にも前後して“大事件"があった。02年のワールドカップ招致である。傘下の国内リーグがプロになり、W杯の招致活動は1スポーツ団体で実現できるほど簡単な規模ではない。アマチュアの総本山である岸記念体育を離れるのは当然の流れでもあった。
Jリーグが誕生した翌94年、サッカー協会は渋谷区道玄坂にあった五島育英会ビル2階に移転した。そして96年、2002年のW杯は日韓共催になることが決定。W杯招致委員会は名称を変更して有楽町駅前のビルで6年後の開催に向けて動き出した。その後、99年にサッカー協会は同じ道玄坂にあった渋谷野村ビルへと移転する。Jリーグはといえば、小川町から神田駅前のビルに移転して開幕を迎えると、その後は虎ノ門にあったJOMOビルに長らく事務局を構えていた。
その両者が再び一緒になったのが、日韓W杯後に購入したJFAハウスだった。03年、W杯での収益からサンヨー電気のビルを約65億円で購入。念願の自社ビルには国内のあらゆるカテゴリーの事務局が一堂に会し、地下には一般ファンも楽しめるサッカーミュージアムも作った。
ところがコロナ禍による減収と、これも悲願だったサッカー協会専用の練習場、「夢フィールド」の建設によりJFAの財政は悪化。20年間住み慣れたJFAハウスを手放さなければならなくなった。ただ、正確な売却金額は明かされていないものの100億円以上ということはオープンになっている。
40~50億円の売却益から、東京ドームには新たな「サッカーミュージアム」を建設し、初代館長には田嶋幸三JFA会長が就任することが決まっている。東京ドームには、すでに「野球殿堂博物館」があるため、両者を見比べてみるのも面白いかもしれない。
そして日韓W杯の遺産をJFAは、サッカーミュージアム以外にどう生かすのか、こちらも引き続き注目したいと思っている。
【文・六川亨】
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