元日の代表戦はファンへのお年玉として定着させて欲しい/六川亨の日本サッカーの歩み
超ワールドサッカー / 2023年12月11日 21時0分
第103回天皇杯決勝は川崎Fが3大会ぶり2度目の優勝を果たした。試合は延長戦でも0-0のまま、決着はPK戦に委ねられ、10人目までもつれ込むという史上稀に見る大接戦。最後は柏GK松本健太のシュートを川崎FのGKチョン・ソンリョンがストップして死闘に終止符を打った。
120分間の試合では、柏の2トップ細谷真大と山田康太が効果的なプレッシングで川崎Fのビルドアップを寸断。ただ、細谷は2度ほどGKチョン・ソンリョンと1対1になる機会があったものの、最初はボールタッチが大きくて、2度目は上手くシュートコースを消されてチャンスを生かせなかった。経験豊富なGKチョン・ソンリョンの技術が光った好セーブと言える。
そんな天皇杯決勝には過去最多となる6万2837人もの大観衆が詰めかけた。川崎Fと柏という首都圏のチームが決勝戦に進出したせいもあるだろう。もちろん国立競技場という交通の便がいいスタジアムであり、“聖地"(芝生に関しては疑問の余地があるが)だからサポーターも集結したのかもしれない。
この国立競技場で次に楽しみなのが来年元旦に開催される日本対タイ戦である。久々の元日決戦に何万人の観衆が詰めかけるのか、いまからワクワクしている。
かつて元日決戦と言えば天皇杯の決勝戦だった。
それまで1月中旬に駒沢競技場などで開催されていた天皇杯(社会人と大学など本大会には8チームが参加)を、1968年の第48回大会より決勝の舞台を国立競技場へと移し、元旦に開催した。決勝は、同年のメキシコ五輪で得点王を獲得したFW釜本邦茂率いるヤンマー(現C大阪)と、メキシコ五輪3位決定戦のメキシコ戦では釜本の2ゴールをアシストした左ウイング杉山隆一の三菱(現浦和)という“黄金カード"。詰めかけた観衆は3万5千人だった。
試合はエース釜本の一撃でヤンマーが1-0の勝利を収め、天皇杯初優勝を果たした。それまで関西の弱小チームと言われていたヤンマーだったが、釜本の加入と日系ブラジル人のネルソン吉村(後に日本国籍を取得して日本代表に選出)の獲得により急成長を遂げたのだった。
以来、天皇杯の決勝は元旦の風物詩となり、近隣にある明治神宮で初詣帰りの和服姿のファンや、破魔矢や熊手を持ったファンの姿も定着していった。「一年の計は元旦にあり」と諺にもあるように、日本人は元旦を一年のスタートにする習わしがある。天皇杯決勝はファン同士、友人同士、さらには我々メディアも新年の挨拶を交わす場でもあった。
しかし2014年の第94回大会決勝は、国立競技場が19年のラグビーW杯と20年東京五輪のために建て替え工事になること、さらに15年1月はオーストラリアでアジアカップが開催されることから、12月13日に日産スタジアムで開催された。翌年から元日決戦に戻ったものの(第98回大会をのぞく)、味の素スタジアムや吹田スタジアム、埼玉スタジアムなど決戦の場は変わり、19年の第99回大会でようやく国立競技場へと戻った。
前述した第98回大会は翌年1月にUAEでアジアカップがあること、そして21年の第101回大会は選手のコンディションを考慮して、さらに22年の102回大会はカタールW杯が11月から12月にかけて開催されるため、決勝戦は10~12月に開催された。そして今回の103回大会も、来年1月にカタールでアジアカップがあるため12月9日の決勝戦となった。
来年以降の天皇杯の日程はわからないが、もしもJリーグのシーズンが移行すれば、当然のことながら天皇杯の決勝も元日決戦とはならない可能性が高い。日本のサッカーカレンダーから“冬の風物詩"が消えてしまうかもしれないのだ。
寂しいものの、それはそれで時代の流れとして仕方のないことなのかもしれない。だからこそ、来年元旦に行われる日本対タイ戦に期待している。
「元旦には日本代表の試合がある」というのが定着したら、それはそれでファン・サポーターにとって素晴らしい新春の贈り物になるのではないだろうか。海外組の選手には移動の負担を強いることになるが、“クリスマスプレゼント"と“お年玉"と思ってガマンしてもらえないだろうか。
【文・六川亨】
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