内弁慶は治らない…/原ゆみこのマドリッド
超ワールドサッカー / 2024年1月5日 10時0分
「正月早々、リーガが終わるなんて」そんな風に私が嘆いていたのは水曜日、年が明けて運気が変わることを期待していたにも関わらず、アトレティコがアウェイ4連敗となってしまったのを見た時のことでした。いやあ、このところホームゲームが多かったのもあり、メトロポリターノでの連勝は20で止まったとはいえ、昨年の最終戦ではセビージャに勝利。新年のアトレティコの奮起に期待していたファンも結構、いたはずなんですけどね。CLグループリーグ5節のフェイノールト戦で6試合に渡るヨーロッパのアウェイ戦白星なしも解消されていたため、リーガの方でもいい加減、内弁慶を止めてくれるかと思いきや、とんでもない。しかも後半ロスタイムに勝ち越し点を奪われるという、最悪な悲劇に見舞われるとは、それこそ2024年の先行きには不安しか覚えなかったんですが…。
まあ、年初からグチグチ言っていても始まらないので、2023-24シーズンのリーガ前半戦締めくくりとなった19節のマドリッド勢の試合がどうだったか、お伝えしていくことにすると。2日の火曜に先陣を切ったのはヘタフェとラージョのダービーだったんですが、うーん、やっぱりインターナショナルなビッグクラブと地元密着型の弟分たちとの集客力の差って、相当なものなんですね。というのも、この試合、1部再昇格したプレーオフ決勝でのピッチへの観客侵入事件以来、6年以上、ペンディングになっていたコリセウム1試合閉鎖処分を済ませるため、ヘタフェが兄貴分のアトレティコにメトロポリターノを使わせてもらったんですが、観客が座るのはfondo norte/フォンド・ノルテ(北側ゴール裏)とバックスタンドの1階席に限定。
おまけにそれ以外は空いているのだから、ビジターのラージョファンも違う区画の1階席を割り当てられるのか思いきや、アトレティコを真似して、3階席の高みに閉じ込められていたのは気の毒でしたが、それを合わせても総入場者数は1万1000人。年が変わる前の30日にシメオネ監督のチームがメトロポリターノで行った公開練習の1万3000人にも及ばない辺り、クラブの規模の違いがありありと出てしまいましたが、それでもコリセウムなら、満員になる程、多勢が駆けつけたヘタフェファンは大きな声援を巨大なメトロポリターノの場内にこだまさせることに。
更に昨年最後の試合、その時はビジターの立場ながら、後半ロスタイムに2点を入れ、兄貴分のアトレティコと3-3の同点に持ち込んだという、いい思い出もあったボルダラス監督のチームだったんですが、まだスコアが0-0で拮抗していた前半40分、ラタサが2枚目のイエローカードをもらい、先日のサビッチよろしく退場させられてしまったのが、ケチの付き始め。そう、45分のバリウのシュートはGKダビド・ソリアが弾いたものの、そのこぼれ球をカメージョに押し込まれてしまったせいで、ヘタフェは1人少ないだけでなく、1点リードされてハーフタイムに入ったところ…。
まさか後半開始2分にもカメージョに2点目を挙げられてしまうとは!それどころか、5分には、アトレティコ戦で赤丸急上昇したグリーンウッドがラージョの選手に何度もファールをかけられるのに抗議して、いえまあ、後でボルダラス監督も「Greenwood no domina el castellano y sólo ha dicho “no me jodas”/グリーンウッド・ノー・ドミナ・エル・カステジャーノ・イ・ソロ・ア・ディッチョ・”ノー・メ・ホダス”(グリーンウッドはスペイン語が話せなくて、ただ、「お願いだから」)と言っただけだ」と説明していたんですけどね。主審の耳には「Fuck you!」と聞こえてしまったようで、一発レッドで退場させられてしまうとは、この世には神も仏もない?
え、でも25分にアルデレテと交代した後、ベンチに戻る途中、審判に「La concha de tu madre!/ラ・コンチャ・デ・トゥ・マドレ(中南米系の人が使う悪口)」と吐き捨てて、ダミアンがレッドカードをもらっていたのは自業自得だろうって?まあ、それはそうなんですが、この時はピッチの人数には影響がなかったのが救い。といっても、いくらヘタフェはアトレティコが1人少なくなってから、3点を取ったのを目の当たりにしているとはいえ、さすがに9人で2点を返すのはほぼ不可能ですからねえ。試合もそのまま、0-2でラージョが勝ったんですが、イーブンな勝負ではなかったとはいえ、ようやく今季初ゴールを挙げられたカメージョはとても嬉しかったよう。
ええ、彼は元々、アトレティコのカンテラーノ(下部組織出身の選手)で、3年前からレンタル移籍の修行の旅に出ていたんですが、今季はラージョに完全移籍。同じ年から、レンタルに出ていたリケルメが昨季、ジローナの一員としてメトロポリターノでゴールを決めたおかげもあったか、一足早く、シメオネ監督に認められ、古巣復帰が叶ったのを横目で見ているせいか、「Da gusto empezar así, ganando en el Metropolitano con el Rayo/ダ・グストー・エンペサール・アシー、ガナンドー・エン・エル・メトロポリターノ・コン・エル・ラージョ(こんな風に始まるのはいいね。メトロポリターノでラージョとして勝つなんて)」と喜んでいましたが、それは昨年を8試合白星なしで終えたフランシスコ監督も同じだったかと。
「Estoy muy contento por los goles de Sergio y que los delanteros rompan su sequía/エストイ・ムイ・コンテントー・ポル・ロス・ゴーレス・デ・セルヒオ・イ・ケ・ロス・デランテーロス・ロンパン・ス・セキア(セルヒオのゴールに満足しているし、FWたちがゴール日照りを終わらせてくれるのもね)。皆、昨季はゴールを入れていたんだから」(フランシスコ監督)と言っていましたが、これでラージョもシーズン半分で勝ち点23に到達。とりあえず、同じペースで後半が進んでも何とか、1部残留達成できそうなのは気が楽ですが、あいにく彼らとヘタフェはスペイン・スーパーカップ決勝のある来週末の20節が1月末まで順延に。
丁度、その節はラージョがアトレティコ、ヘタフェがレアル・マドリーとの兄弟分ダービーのカードとなり、どちらの兄貴分もサウジアラビアでの大会に遠征するからですが、そのせいで弟分たちはこの土曜にそれぞれ2部のエスパニョール、ウエスカとのコパ・デル・レイ32強対決をこなした後、しばらくの間はヒマに。そのコパで勝ち上がれば、再来週のミッドウィークに16強対決が入るとはいえ、リーガは20、21日の21節までお預けですからね。おかげでヘタフェ戦に出られなかったアルバロ・ガルシアとトレホがラス・パルマス戦で復帰できそうなラージョに対して、ヘタフェはいくら間が空いてもラタサ、グリーンウッド、ダミアン、更に累積警告にイエローカード枚数が達したマタは出場停止でオサスナ戦に出られないというのは、とうとうエネス・ウナルがヒザの靭帯断裂を完治させて復帰を遂げていたとて、辛いかもしれません。
そして翌水曜に番が回ってきたのが兄貴分たちで、まずはマドリーがサンティアゴ・ベルナベウにマジョルカを迎えたんですが、アンチェロッティ監督は負傷から回復したばかりのビニシウスを早速、スタメンで起用。それでロドリゴが左サイドを譲らないといけなくなったからか、好調だったブライムがベンチに戻ってしまったせいだったんでしょうか。アギーレ監督の敷く鉄壁の5人DF制をなかなか破ることができず、いえ、当人はシュートをGKライコビッチに止められるなど、張り切ってはいたんですけどね。前半の終わりと後半の始まりにアントニオ・サンチェスやサム・コスタの一撃が枠を直撃したマジョルカも得点できなかったため、ビニシウスがアンチェロッティ監督と取り決めたその日のプレー時間限界60分が来た時にもスコアは0-0で動いておらず。
でもマドリーが首位なのにはちゃんと理由があって、プレーに冴えが見られない時でも彼らには必殺技があるんです。そう、後でアンチェロッティ監督も「ウチは今季前半、セットプレーで多くのゴールを入れた。El cuerpo técnico lo trabaja muy bien, tenemos buenos lanzadores, tenemos cabeceadores formidables/エル・クエルポ・テクニコ・ロ・トラバハ・ムイ・ビエン、テネモス・ブエノス・ランサドーレス、テネモス・カベセアドーレス・フォルミダブレス(コーチングスタッフがいい仕事をして、いいキッカーもいるし、しっかりヘッドを撃てる選手もいる)」と自慢していたんですが、まさにそれが起きたのが後半27分。モドリッチの蹴ったCKをリュディガーが頭で沈め、虎の子の1点にしてくれるんですから、スタジアムを訪れたファンもお正月気分に水を差されなくてどんなに助かったことか。
ちなみに殊勲のリュディガーに言わせると、このゴールは「Importantísimo el bloqueo de Carvajal/インポルタンティシモ・エル・ブロケオ・デ・カルバハル(カルバハルが敵をブロックしてくれたのがとても大きかった)」そうで、ええ、昨年最後のアラベス戦ではやはり、CKからヘッドでルーカス・バスケスが決勝点を挙げていましたしね。今季はセットプレーの時、それまではエリア外でクリアボールを待っていた右SBを中に入れるという、指揮官の決断はまったくもって、正しかったことが再び、証明された形ですが、1-0でマジョルカを下した後にはちょっと気になる発言も。
というのも、アンチェロッティ監督が「Después, el problema que tuvimos con el Atleti lo hemos arreglado/デスプエス、エル・プロブレマ・ケ・トゥビモス・コン・エル・アトレティ・ロ・エモス・アレグラードー(アトレティコ戦での問題は解決できた)」と言っていたからで、いやあ、今じゃ思い出す人もほとんどいなさそうですが、今季前半のマドリーダービーでアトレティコはクロスから頭でボールをネットに叩き込んでお隣りさんを3-1で粉砕。それで目を覚ました彼らは両CBをもっとエリア内中央に寄せ、SBや中盤の選手のヘルプを密にするという方法で弱点を克服したそうですが、いやあ。
どうにも来週水曜に迫ったスペイン・スーパーカップ準決勝に向けての脅しに聞こえて仕方ないんですが、とりあえず、この勝利で今節も首位をキープすることが決まったマドリーの次の試合は土曜午後9時30分(日本時間翌午前5時30分)からのコパ、アランディーナ(RFEF2部/実質4部)戦。その時にはもう、カマビンガやメンディも復帰するそうで、ええ、ギュレルもマジョルカ戦の展開次第ではデビューする予定でしたからね。その試合やスペイン・スーパーカップには出場停止だったナチョも戻ってきますし、とりわけコパではカンテラーノ(RMカスティージャの選手)の投入も見込まれるんですが…アンチェロッティ監督がミリトンとアラバの長期離脱で2人だけになってしまったCBを冬の移籍市場で補強する予定はないと言い切ったのは、本当に信じていいんでしょうかね。
一方、続く時間帯でスタートしたアトレティコはというと、ホントもう、彼らにはどんなにシメオネ監督が口を酸っぱくして言っても、目をパッチリ開けて、アウェイでキックオフするのはムリだったよう。ええ、モンテビリのピッチでも開始たった30秒でドブビクからシュート浴び、それが外れてくれたため、ホッとしていたのも束の間でした。2分にはバレリの一発が決まって、ほとんど1-0でジローナ戦を始めているって、一体、どういう神経をしているんだか。
ただこの日、年が変わって運気が変わった選手もいなかった訳ではなく、14分にはデ・パウルが入れたクロスをグリーズマンが頭で流し、モラタがオフサイドにも引っかからず、同点ゴールを挙げてくれたんですが、いやあ、それだけ試合がバタバタ動いても目が覚めない選手っているんですね。それがキャプテンのコケとなると、泣くにも泣けないというか、せっかく追いつきながら、26分には自陣エリア付近でイバン・マルティンにボールを奪われ、そのシュートはGKオブラクが弾いてくれたものの、こぼれ球をサビーニョに決められて、再びジローナにリードを許してしまうとは。それだけでなく、39分、アレイチェ・ガルシアが蹴ったCKをドブビクが繋ぎ、ブラインドがファーサイドからネットに入れた時、コケの足が出ていたため、オフサイドにならないとはもしや新年早々、呪われている?
それでも44分にはデ・パウルが出したスルーパスをモラタが2点目にしてくれたんですが、この好調コンビはアトレティコが猛攻をかけていた後半9分にもゴールをリピート。とうとうモラタのハットトリックで3-3となり、これならあと1点取って、マドリーとの差を勝ち点7のままに保てるという希望も出て来たんですが、うーん、終盤にはコレアやメンフィス・デパイも入り、一時、ピッチにFWが4人もいたアトレティコだったんですけどね。残り1分にグリーズマンとモラタをサウールとアスピリクエタに代えた後、ロスタイム1分には4、5人がかりでもイバン・マルティンのシュートを止められず、最後は4-3で負けてしまうとは、これ如何に。
いえ、実際、褒めるべきはシーズン前半戦、マドリーにこそ負けたものの、バルサにもアトレティコにも勝って、首位と同じ勝ち点の2位をキープしているミチェル監督のチームなんですけどね。マッチMVPに選ばれたモラタなども「まだリーガも他の大会も残っているんだから、hay que levantarse como siempre, seguir, seguir y seguir/アイ・ケ・レバンタールセ・コモ・シエンプレ、セギール、セギール、セギール(立ち上がって常に続ける、続ける、続けるってやらないといけない)」と言っていたものの、正直、こうもアウェイ戦で弱いところばかり見せられては本当にどうしたものか。
相変わらず、シメオネ監督は「Hoy vi un esfuerzo enorme/オイ・ビ・ウン・エスフエルソ・エノルメ(今日は物凄く努力するところを見ることができた)」と前向きだったものの、これでいよいよ、首位陣2チームとの差も勝ち点10に拡大しましたからね。果たして追いつけるのか、大いに疑問。とはいえ、今はそんなことを考えていても仕方がないため、せめて土曜午後4時(日本時間翌午前0時)からのコパ、ルーゴ(RFEF1部/実質3部)戦で勝って、少しでも士気を上げてから、スペイン・スーパーカップに乗り込んでもらいたいものですが…アトレティコは元々、負傷者がレマルとバリオスしかいないため、お隣さんのように戦力底上げのマージンがないのは困りますよね。
【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。
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