DX加速に必要なITSMの高度化 IT運用にも求められる「アジャイル」なアプローチ
週刊BCN+ / 2023年11月9日 9時0分
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ITエンジニア向けのコラボレーションプラットフォームを提供する豪Atlassian(アトラシアン)の日本法人と週刊BCNは10月13日、共催セミナー「ITベンダーが知るべき、価値創造のためのITSM」を開催した。DX推進の機運が一層高まる中、顧客体験や競争力の向上、新規事業創出のためにも情報システムの運用をより効率化・高度化していく必要があると指摘されている。セミナーでは、IT運用のベストプラクティスとして広く用いられている「ITIL」の専門家が、価値提供に向けたIT運用のあり方について解説。アトラシアンは、IT運用をアジャイル化するツール「Jira Service Management」などを紹介した。
(取材・文/日高 彰)
●答えのない問題に取り組める組織へ
基調講演では、ITの運用・管理に関する人材育成や組織開発を支援するITプレナーズジャパン・アジアパシフィックから最上千佳子・取締役が招かれ、ITILの最新版である「ITIL 4」の要点を解説した。
ITILは情報システムへの投資対効果を高めるため、コスト削減や品質向上につながるITサービス管理(ITSM)のベストプラクティス集として英国で1989年に初版が出版されたが、2019年に発行されたITIL 4では、アジャイルの考え方を全面的に取り入れ、情報システムやそれを運用・管理する組織が、迅速に変化しながら価値を生み出し続けるための考え方がまとめられている。市場環境の変化が激しくなったことで、ITSMも過去の成功・失敗事例に依拠するだけでなく、答えがわからない中で試行しながら学習し成長していける人と組織を形成する、という考え方を導入する必要があるからだ。
最上取締役は「従来のITSMはプロセスを標準化して、運用の現場で誰が対応しても毎回同じ結果が得られるようにしようという考え方だった。もちろんこれを否定するわけではなく、止まらないサービスや、問い合わせに素早く対応するといったことを実現するには、きっちりやったほうがいい。しかし、それだけだと生き残れない時代になった」と指摘。IT担当者は新しい技術やニーズに自ら対応し、サービスを進化させていく必要があると説明した。
ただしITIL 4には、どうすればそのような人や組織を育成できるか、その答えは書かれていない。最上取締役は「なぜなら、答えはないからだ。答えがない中で、それを模索していく組織にしていくための指針が書かれている」と述べ、企業はITIL 4に含まれるノウハウの中から、自社に導入しやすい部分から実践していくといいとアドバイスした。
例えば、従来は障害発生時にまずはサービスデスクで問題を「切り分け」し、それでも解決不可能となった場合に二次対応のチームにエスカレーションするといったプロセスが定石だったが、最近では部門を横断して並行して対応に当たる「スウォーミング」と呼ばれる方法論も有効とされる。プロセスの標準化はあくまで手段の一つで、目的は利用者に提供する価値を高めることだからだ。また、ユーザーへ価値を届けるまでの間、どこで時間や工数がかかっているかを可視化するVSM(バリューストリームマップ)などの手法も紹介された。
●自立した部門が共通の目的に向かう
アトラシアン日本法人でソリューションエンジニアを務める皆川宜宏氏は、同社が提供するITサービス管理ツール「Jira Service Management」が、DX時代の企業のITSMをどのように強化できるかを解説した。
アトラシアンは02年に豪シドニーで創業し、アジャイル開発におけるプロジェクト管理ツール群「Jira」で知られる。開発者向けツールとしてグローバルで多くの顧客を獲得しており、現在ではソフトウェア開発向け製品の「Jira Software」、ITSMのJira Service Management、一般ビジネス部門向けの業務管理ツール「Jira Work Management」などを展開している。
皆川氏は、「アジャイル開発とは、短い期間に動くものをつくってリリースし、ユーザーの反応を見て次の工程にフィードバックするサイクルを繰り返すスタイルだが、これはソフトウェア開発に限らず働き方にも適用できる」と述べ、常に変化するビジネス環境に対応するためのIT運用や組織を確立するため、同社のJiraシリーズは有効なソリューションであることを強調した。
アジャイル開発を導入する企業は増えているが、その効果を実感できていないケースも少なくない。その背景として、企業全体での統制が不十分で「開発、運用、サービスデスクが異なるツールを使って異なる働き方をしている」(皆川氏)ことが一因となっている。サービスを開発する部門だけがスピードや即応性を高めても、他部門がそれに連携できなければ顧客に届ける価値を高めることはできないからだ。その一方で、各部門が自立的に高いパフォーマンスを発揮することがアジャイルな組織づくりには不可欠であり、自立と統制をどのように両立するかが大きな課題となる。
同社は、複数の組織とそこで使われるツールを連携させるプラットフォームを提供しており、それぞれのチームが自身の業務に最適なツールを使用して仕事を進めながら、企業全体で課題を共有できるのが特徴といい、皆川氏はこれを「異なる方法をしつつ、同じ目的に向かう」と表現。また、Jira Service Managementにはワークフロー、ナレッジ共有、AIによる自動化などの機能が組み込まれており、低コストでカスタマイズを行える点もメリットとアピールした。
同社の新名浩二・パートナーマネージャーは、アトラシアンの創業以来の推移を振り返り、創業から10年が経過した12年時点で売上高1億米ドル、顧客数2万社だった同社の事業は、22年にはARR(年間経常収益)30億米ドル、顧客数25万社まで拡大し、急速な成長を遂げたことを紹介。また、世界的なDX加速の動きに連動する形で、ITSMの市場は拡大しており、Jira Service Managementの導入企業数は4万5000社を超えたという。国内でもITSM領域での同社製品の採用を加速するため、ユーザー企業の課題に応じた導入支援を行えるパートナー網の拡大を図っていきたいとした。
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