映画『82年生まれ、キム・ジヨン』、小説とは違ったアプローチで女性差別に満ちた社会の歪みを描く

wezzy / 2020年10月1日 8時0分

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 韓国で2016年秋に刊行以来、130万部を超えるベストセラーとなった小説『82年生まれ、キム・ジヨン』。男性優位社会において、女性が日常的に経験する性差別を克明に描き出すこの物語は、韓国内で社会現象を巻き起こすまでに至った。

 またその影響は海外にもおよび、特に韓国と同じく家父長制の風潮が未だ根強いここ日本では、アジア文学のみならず海外文学として異例の販売総数を記録した。“キム・ジヨン”という1982年生まれの韓国女性に最も多く付けられた名前を持つ、ごく一般的な女性主人公の姿が、多くの読者にとって身近に感じられるものとして「キム・ジヨンは私そのものだ」という共感を呼んだことが大きな反響に繋がったという見解もある。

 『新感染 ファイナル・エクスプレス』でも共演したトップスター、チョン・ユミとコン・ユが出演する本書を原作とした映画が10月9日より日本でも公開される。かねてより期待を集めるこの映画版は、「主人公キム・ジヨンが、ある日を境に自分の母親や友人の人格が憑依したように振る舞いはじめる」というあらすじは概ねそのままである一方、“キム・ジヨン”という一人の女性の描かれ方がオリジナルと異なっている点が興味深い。

原作小説が採用した“ストーリーの語り方”に込められた著者の想い

 まず原作小説における特徴のひとつとして挙げられるのは、ストーリーテラーを担うのがキム・ジヨンの担当医、つまり第三者であるところだ。作中では、キム・ジヨンがこれまでに経験してきた性差別やその時に抱いた心情などが、彼女のカウンセリングにあたった精神科医によるカルテを通じて明らかになっていく。

 この不思議な構造を用いた理由について、著者のチョ・ナムジュは“作中に引用されるニュースや統計データといった客観的な情報を物語内に違和感なく組み込むため”と解説しているとともに、本書を執筆するにあたりネット上で女性の書き込みやルポ、インタビューからエピソードを収集したことも明かしている。(参照:http://www.webchikuma.jp/articles/-/1680)

 日常のいたるところで性差別を経験してきたキム・ジヨンの半生が、他者の語りによって再構成されていくという体裁が、読者の共感を呼ぶ要素の一つに結びついているのである。

 また男性である担当医が語り手であることは物語の締め括りに重要な影響を及ぼしており、その終幕には「あまりにも大きな衝撃的な読後感」という声が多く寄せられたという。これに対し、チョ・ナムジュは「より広い範囲で、共にこの問題を考え、共に悩みながら、どうしたら制度や慣習を変えていけるかということを提案したくて、このような終わり方にしました」と、一朝一夕には激変できない社会に対し広くメッセージを投げかける意図があったことを明かしていた。



 一方、映画版『82年生まれ、キム・ジヨン』において、キム・ジヨンが異変を自覚しカウンセリングを受けるのは、物語終盤だ。作中には抑えられた演出と劇伴、また自然光が意識される照明によりドキュメンタリックな視点で、主人公キム・ジヨンと周囲の人々の送る日常風景が実直に描かれる。そしてそこに映し出されるのは、日韓が共通して抱えるありのままの社会の歪みだ。

 原作小説では男性医師が担っていたストーリーテラーが映画版において不在となっている代わりに、観客自身が彼女の半生の目撃者となる。映像表現ならではのアプローチと言えるだろう。

 また映画版では原作には描かれていなかった、内省的なキム・ジヨンが遂に感情を爆発させるクライマックスシーンがある。

 物語終盤に描かれるこの場面では、原作小説の持つ読後感とはまた異なったインパクトが生み出されるとともに、それまでにキム・ジヨンの置かれていた理不尽な立場を目撃し追体験した観客が、スクリーンの中の彼女と心情を分かち合うような瞬間がもたらされるのだ。

 そしてその特別な瞬間は、キム・ジヨンと同じ境遇を辿ってこなかった者にも訪れる、普遍的なものであるように感じた。本作で長編デビューを飾ったキム・ドヨン監督は「女性だけでなく男性の目も開いて、このようなことがあったんだと感じていただける映画であれば嬉しいです」とコメントしているが、この想いは著者チョ・ナムジュが投げかけていたメッセージと通じているように思う。

 原作小説とはまた違ったアプローチから描かれる映画版のキム・ジヨンの半生を、ここ日本でもより多くの人々に目撃してほしい。

キム・ドヨン監督コメント参照:
https://news.livedoor.com/article/detail/17403824/

映画『82年生まれ、キム・ジヨン』
10月9日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:クロックワークス
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