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カンヌ映画祭グランプリ受賞作 「夏をゆく人々」 が描く、家族の物語とは?

Woman.excite / 2015年8月31日 12時0分

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映画監督 アリーチェ・ロルヴァケル

カンヌ映画祭グランプリ受賞作「夏をゆく人々」がいよいよ日本でも公開となりました。監督は、1981年イタリア生まれの女性監督、アリーチェ・ロルヴァケル。

映画監督 アリーチェ・ロルヴァケル


「夏をゆく人々」は、心の奥底に分け入る繊細なみずみずしさと、ダイナミックに場面を切り取る斬新なセンスで、私たちをまったく違ったイメージのイタリア体験に連れ出してくれる話題作です。


© 2014 tempesta srl / AMKA Films Pro ductions / Pola Pandora GmbH / ZDF/ RSI Radiotelevisione svizzera SRG SSR idee Suiss


イタリア映画なのですが、ミラノのお洒落なモンテナポレアーネ通りも、ローマの美味しいピッツェリアも、フィレンツェの有名美術館も登場しません。トスカーナの田舎の村に暮らす、昔ながらの製法で蜂蜜を作る養蜂一家の物語。

ひと夏の日常が描かれただけなのに、どこかノスタルジックで人間味あふれる展開にグイグイ惹きこまれていきます。

「自然養蜂」にこだわる頑固な父、ひと夏の家族の物語
寝る時はどんなに寒くても裸で寝る、という主義らしく、パンツ一丁で寝る父ウルフガング(サム・ルーウィック)は、自然農法ならぬ自然養蜂にこだわるドイツ人。


© 2014 tempesta srl / AMKA Films Pro ductions / Pola Pandora GmbH / ZDF/ RSI Radiotelevisione svizzera SRG SSR idee Suiss


なかなかの頑固親父で、優しいイタリア人のお母さん・アンジェリカ(アルバ・ロルヴァケル)は、たまに腹に据えかねて言い争うことも。4人姉妹と居候の女性ココを含む一家で、光と緑あふれる大地のもと、蜂蜜作りを営む日々。長女ジェルソミーナ(マリア・アレクサンドラ・ルング)は13歳にしてその製法に精通し、父親の片腕的存在です。


© 2014 tempesta srl / AMKA Films Pro ductions / Pola Pandora GmbH / ZDF/ RSI Radiotelevisione svizzera SRG SSR idee Suiss


映画の中で登場する、養蜂のプロセスに思わず目がクギ付けに。リアルなミツバチの大群の映像を、最初は「ひえ~っ」と思いながら観ていたのですが、ジェルソミーナの慣れた反応、家族のように接する愛情深い姿勢に、だんだん愛らしく大事な存在に思えてきたから、あら、不思議! 

監督自身、ジェルソミーナと同様に、同郷で養蜂家の家に育ち、父親はドイツ人で母親はイタリア人、幼少時からミツバチが最も慣れ親しんだ生きものだったとか。

「ジェルソミーナ役のマリア・アレクサンドラ・ルングには、ハチに慣れてもらうため、多くの時間を費やしたわ。役柄になりきってもらうために、養蜂の仕事をマスターしてほしかった。何度かハチに刺されても、マリアはくじけずにがんばってくれたの」と監督。


© 2014 tempesta srl / AMKA Films Pro ductions / Pola Pandora GmbH / ZDF/ RSI Radiotelevisione svizzera SRG SSR idee Suiss


ハチを手づかみはおろか、口の中から出して顔面を歩かせたりするシーンが! 撮影当時は11歳で、それまでは演じた経験が全くなかったという、彼女のプロ根性に脱帽です。 



テレビ番組出演と非行少年の同居が、家族の変化の始まり
ある日、この村に、お国自慢を紹介するテレビ番組「ふしぎの国」の撮影隊が訪れます。司会を務めるミリー(モニカ・ベルッチ)は妖精のように美しい女性。彼女に憧れたジェルソミーナは、番組に出演したくてたまりません。でも、仕事熱心だけれど頭の固い父親は猛反対。考えあぐねた末、彼女はこっそり応募してしまいます。


© 2014 tempesta srl / AMKA Films Pro ductions / Pola Pandora GmbH / ZDF/ RSI Radiotelevisione svizzera SRG SSR idee Suiss


この一家にもうひとつ、14歳の非行少年・マルティンを、少年更生プランのプログラムで預かる、という事件が起こります。身体に触れられることを極端に恐れ、言葉を話さず、言葉の代わりに巧みな口笛を吹く彼は、カラヴァッジオ描く天使のようなお顔立ち。「ふしぎの国」に出演中、マルティンの美しい口笛に合わせて、ジェルソミーナが顔の上でミツバチを操る芸を見せるシーンが、とても印象的でした。


© 2014 tempesta srl / AMKA Films Pro ductions / Pola Pandora GmbH / ZDF/ RSI Radiotelevisione svizzera SRG SSR idee Suiss


淡い胸騒ぎも、父親との軋轢も、ジェルソミーナのひと夏の体験として鮮烈に過ぎ去っていきます。家族の生活臭いっぱいにあふれた家も、家族の在りようも、ずっと同じでは決してない。そんなせつなさが胸を締めつけるラストシーンが見事です。


心に鮮やかな刻印を残す。夏の思い出に、この映画を
シャイで不器用でカッコ悪い、大人が勝手に思うほどにはキラキラしていない微妙な思春期を、ユニークな関係でありながらも、二人が絶妙なぎこちなさで演じ、胸が熱くなりました。下の双子の妹二人が、実際の姉妹というキャスティングだったり、母親のアンジェリカは、監督の実姉であったりと、要所要所が家族の実感を伴わせるリアリティで下支えされ、この映画の等身大な魅力に結実させています。


© 2014 tempesta srl / AMKA Films Pro ductions / Pola Pandora GmbH / ZDF/ RSI Radiotelevisione svizzera SRG SSR idee Suiss


2014年のカンヌ映画祭審査員には、ソフィア・コッポラとジェーン・カンピオンという、それぞれ強烈な個性を持つ二人の女性監督が参加。異なるジャンルの作品を手がける二人ともがこの作品を評価したのは、「“人間であること”に対する関心が共通していたからではないでしょうか」と、ロルヴァケル監督は語ります。



一人の少女の成長記であり、一つの家族の物語でもある「夏をゆく人々」。ジェルソミーナという名前がフェリーニの名画「道」のヒロインを思い出させたり、ミツバチの飼育、父と娘の葛藤というモチーフがビクトル・エリゼの傑作「ミツバチのささやき」を思い起こさせたりするものの、若い監督のアグレッシブなバワーに満ちたこの作品は、新たな名画の扉を開きました。

夏の思い出になるであろう名作、ぜひご覧になってみませんか?


『夏をゆく人々』
2015年8月22日(土)から岩波ホール等 全国ロードショー
監督・脚本:アリーチェ・ロルヴァケル
出演:マリア・アレクサンドラ・ルング、モニカ・ベルッチ 他
http://www.natsu-yuku.jp/

アリーチェ・ロルヴァケル
1981年12月29日 イタリア・フィレンツェ生まれ。ドイツ人の父とイタリア人の母を持つ。母親役として本作に出演のアルバ・ロルヴァケルは実姉。ドキュメンタリー作品等から映画製作をスタートし、2011年『天空のからだ』(イタリア映画祭 上映題)で長編映画デビュー。長編2作めの『夏をゆく人々』で2014年カンヌ国際映画祭グランプリを受賞という快挙を成し遂げた。


映画写真 © 2014 tempesta srl / AMKA Films Pro ductions / Pola Pandora GmbH / ZDF/ RSI Radiotelevisione svizzera SRG SSR idee Suiss
(稲木紫織)

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