早すぎる英語教育は子どもの知能を遅らせる(「幸せ力」の育て方 Vol.4)
Woman.excite / 2015年11月30日 4時15分
小さな頃から英語を覚えることにはデメリットしかない!?
子どもを英語の得意な子にしたいと考えるママが増えています。
赤ちゃんのころから英語の教材や絵本に触れさせたり、英語で保育を行う幼稚園やインターナショナルスクールに通わせたりといった早期英語教育は本当に必要なのでしょうか。
子どもの言語習得や発達心理について研究を行っている内田伸子先生にお話を伺いました。
© Oksana Kuzmina - Fotolia.com
幼児期に覚える単語と、大人が使う単語は違う
「幼児期の英語教育には反対です。母国語の土台ができていないところで、第二言語を習得しても意味がありません」と内田先生はきっぱり言います。
内田先生は、米国スタンフォード大学の心理学部と言語学部の客員研究員として、第二言語としての英語習得の過程について研究されました。
そのとき、幼児期にニューヨークに住んでいた子どもたちに、英語でお話をつくってもらう実験を行ったそうです。
「小学生なのに『doggy(ドギー)』などといった赤ちゃん言葉を使う子どもたちがいました」
doggy(ドギー)は、日本語でいうと「ワンワン」に当たります。
「幼児期に覚えた単語をそのまま使い続けているのですね。そうした子たちは、ネイティブの子どもたちに笑われ、逆に自信を失うことになっていました」
早くから覚えた英語が、英語への苦手意識を植え付ける原因になってしまっては、子どもがかわいそうですね。
日本語の土台がない状態で英語を覚えると、偏差値が低くなる
トロント大学の言語心理学者カミンズと日本語教育教授の中島和子さんは、日本からカナダに移住した子どもたちの英語習得過程についてさまざまな角度から検討しました。カナダ移住年齢が何歳でも英語の発音や聞き取り能力は1年半で現地並みになります。しかし、あまり注目されていない学習言語である「英語読解能力」については年齢との関連が出てきました。
●3~6歳に移住した子ども
最初の立ち上がりはいいけれど、その後の伸びが悪くなります。
現地の子ども並みの英語読解能力を手に入れるまで、約8~11年半の月日がかかります。
●7~9歳に移住した子ども
約2年半で現地の子ども並みのレベルになります。
●10~12歳に移住した子ども
7~9歳で移住した子どもたちよりは1年ほど余分にかかりますが、「英語読解能力」の達成度は最も高かったのです。
それだけではありません。小学生の時期に、日本の小学校のテキストでしっかり勉強した子どものほうが、すべての教科の成績がよかったのです。
調査の結果、日本語の読み書きの基本をしっかり身につけ、さらに学校で各教科を学習してから移住した子どものほうが、早く英語読解力や英語の教科学習への適応がスムーズであるということがわかりました。
また、3~6歳で移住した子どもは、英語の発音は1年半で現地の子ども並みになったものの、学校の学習に不可欠な英語読解能力は育っていませんでした。どの子も例外なく、算数以外の教科はすべてダメ。授業についていけないという状況になっていました。
英語の発音が良くなるかわりに、大切な能力が失われてしまうのでは、子どもの人生にとって大きな損失ではないでしょうか。
小学生から英語の勉強をしていた子どもに、英語嫌いが多い
内田先生は、お茶の水女子大学付属中学校で、英語力にかかわる調査を10年以上にわたって行いました。
「小学生時代に英語を勉強した子どもと、まったくしていない子どもを比較したところ、英語の成績に差はありませんでした。
それどころか、小学生時代に英会話教室や英語塾に通っていた子どもは英語が嫌いという傾向が見られました」
早期英語教育が子どもの人生にとってプラスに働くことは少ないようです。
ほかの子が想像力をふくらませたり、思考力を深めたりする時期に、英単語を暗記することに時間を費やすのはもったいないですよね。
しかも、使わないでいると、その英単語は忘れられてしまいます。
では、ほかの能力を衰えさせずに英語を身に付けるためには、どうすればよいのでしょうか。
次回の記事でお伝えします。
(佐々木月子)
今回取材に協力してくださったのは
内田 伸子先生
十文字学園女子大学特任教授・お茶の水女子大学名誉教授・学術博士。
専門は発達心理学、認知心理学、保育学。国立教育政策研究所「幼児の論理的思考の発達調査プロジェクト会議」(主査)、最高裁「裁判員制度の有識者会議」(委員)、文化庁国語審議会委員なども務めるほか、NHK Eテレの「おかあさんといっしょ」の番組開発やコメンテーター、ベネッセの子どもチャレンジの監修、しまじろうパペットの開発、創造力知育玩具「エポンテ」(シャチハタ)の開発なども担当。著書は、『発達心理学―ことばの獲得と教育』(岩波書店)、『よくわかる乳幼児心理学』(ミネルヴァ書房)、『子育てに「もう遅い」はありません』(冨山房インターナショナル)など多数。
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