赤ちゃんの可愛がり方がわからない【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第11話】
Woman.excite / 2017年1月31日 17時0分
考えてみると、19歳で人の親になる、という年齢的な未熟さを差し引いても、私はあまり、年下や赤ん坊を可愛がれないタイプだった。だからって、赤ん坊や子どもが嫌いだったわけじゃない。いかんせん自己愛が強すぎたがゆえに、自分より年下で、自分を評価する立場にない人間の存在が、そもそも視界に入っってこなかったのだ。
だから、いざ産んでみて、困った。何しろ可愛がり方がぜんっぜんわからないのだ。赤ん坊は確かに可愛い。手のひらに収まるほどのサイズ感も、初めてこの世界にやってきてキョトンとしてるのも、手のひらをぎゅっと結んでいるのも、眠っているとき、たまにビクッと震えるのだって、とても可愛かった。この子を守っていかなければ、という親としての責任も感じた。けれども、抱く、抱いて揺れる、乳を与える、おむつを替えるといった、必要なケア以外の可愛がり方、必要ではないけどあると良い接し方というものが、全然わからなかったのだ。
そんなんだから、出産後すぐに病院にやってきた実家の母が息子をあやす姿を見て、衝撃を受けた。母は「あら~もう眠いねぇ、眠い眠い~」とか「おなかすいたね~」とか、意思表示などできるはずのない赤ん坊と、しょっぱなから対話しているのだ。
「え、なんで分かるの?」と思わず聞くと、「だって眠そうにしとるやんね~」などと釈然としないことを言う。そうか、経験値の高い人には分かるものなのか、と思わされたが、そうこうしているうちに母、今度は「うぅ」とか「あぅ」とか、赤ん坊があげた声にならない声に対して「へ~そうね~、うん、うん」とあたかも対話が成立している風に、返事を返す。
これを見て、私はようやく理解した。母が、経験によって培った観察眼で、赤ん坊の気持ちを察している部分もそりゃあるにはあるのだろうが、一方で、当然ながら全部わかっちゃいないのだ。
目の前で繰り広げられているのは、私の知っている対話ではなく、ただひたすら受容の表現。「おなかすいた」「眠い」「オムツが不快」。言えないけれど、言いたいこともあるでしょう、わかってあげますよ、受け止めてあげますよ、そんな、受容の表現だったのだ。
今思えば、赤ん坊の気持ちを一方的に言語化し、成立しない対話を続けることにはもう一つ別の意味もあった。新生児というのは、赤黒かったり、黄色がかっていたり、目の焦点も定まらないし、体もしわしわ。赤ちゃん、と聞いて一般的にイメージされる、ちぎりパンみたいな赤ちゃんとはまた全然違って、強いて言えば宇宙人みたいな様相を呈している。そんな、不思議な生命体の声なき声を、一方的に人間語にし続けることで、その小さな体の中にも確実に、人格や人の意思といったもの、その小さな種が存在するのだと、そういう自覚を、親の中に培ってくれるように思う。
……なるほど、こういう風にやるのか、と母の様子を見て学んだものの、その瞬間からすぐに母と同じことができるようには残念ながらならず、この手の声かけはなかなか上達しなかった。
というのも親になるまでの私は、大人から褒められたい、認められたいというモチベーションだけで生きていたのだ。人様からのフィードバッグが全て。私の行いに対して返ってきた年長者からのリアクションを見て、達成感を得たり、次のトライにつなげる糧にしたり。評価を与えられ、受容され続けて生きてきた。ところが、親になるということは、私がそれをやる側になるということ。いきなり天と地がひっくり返ってしまったのだ。
どうしようどうしようと、新しい環境に日々まごついている間に、気がつけば子ども達はすっかり対話が可能な年齢となってしまい、今に至っているように思う。親戚や友人の赤ちゃんを前に「へ~そうなの、うん、うん」といった一方的な声かけをスムーズに繰り出せるようになったのはごく最近のことで、ああ、生まれたばかりのわが子らにもこんな風に接してあげられていたらなあ、と思うこともあるものの、でももしかしたら、当時あんなに風格を見せつけた母だって、私や妹が生まれたばかりのころは、やっぱり私と同じように、まごついていたのかもしれない、とも思う。子が育つのと同じように、親だって親として成長するのだ。
イラスト:片岡泉
(紫原明子)
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