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大人と子どもの、一番大きな違い【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第13話】

Woman.excite / 2017年2月14日 17時0分

大人と子どもの、一番大きな違い【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第13話】


娘の夢見は、小学校低学年ごろまで、とてもおとなしい子どもだった。

学校から帰ってくると、いつも絵を描いたり、テレビを見たりして過ごす。こちらが聞いても、学校のことを私に話すことはほとんどなかった。当時私は、専業主婦を卒業し、勤めに出始めたばかりだったので、私が家を空けることが、彼女の心に影を落としているのかも、とそのことで不安になることもよくあった。

そんな彼女に変化の兆しが現れたのは、小学校中学年ごろのことだ。“漫画”と“歴史”という大好きな二つの世界を知った彼女は、その良さを人と分かち合いたくてたまらなくなったようで、毎日少しずつ言葉数が増えていき、いつしかしゃべりだすと止まらない程になった。同時期から、学校での出来事も、聞けば少しずつ教えてくれるようになった。

けれども、そこには一つ問題もあった。夢見は、本人がいないところで誰かの話をすることに、ものすごく罪悪感を抱くようなのだ。「今日、友達がこんなこと言ったんだよ」と、出来事だけは教えてくれるようになったものの、その内容がどんなに悪口でなかったとしても、決してその出来事の発端となった友達の名前を出さない。その秘匿性たるや徹底していて「誰が言ったの?」と聞くと、少し考えて「……A君」とアルファベットを使う程だったのだ。

誰かを決して悪く言わないどころか、誰かの噂話もしない。夢見の公正さはわが子ながら尊敬に価するとすら思ったけれど、一方で、やっぱり少し心配でもあった。彼女がもし誰かの態度に疑問を持ったり、理不尽な目に遭ったりしても、このままでは客観的な判断を仰いだり、正当に怒ったりする前に、ただ飲み込んでしまうんだろうな、と思ったのだ。

だからと言って、「言いなさい」「話しなさい」と強要したところで話すようなタイプならとっくに話しているわけで、夢見にはきっと、自分で繰り返しやってみて、この調子なら大丈夫そうだ、と安心することが何より必要なのだろうと思った。夢見が話の中で友達の名前を出したくないのは、話しを聞いた私が、彼女の友達に勝手なイメージを持つのが嫌だからなのだろう。

夢見は多分、会話の質が自分一人では決まらないものだということを察していて、それは真実だ。一人の人が、どんなに悪口にならないように話しても、それを聞いたもう一人が「ええっ!」などと過剰反応を見せ、会話の対象を非難してしまえば、その時点でその会話は悪口になってしまうし、会話をした二人は、悪口を交わした二人になってしまう。

私にも、小さいころに少しだけ身に覚えがある。友達が悪ふざけの延長で起こした面白い出来事を親に話すと、こちらの想定以上に深刻に受け止められ“そ、そうじゃないんだ!”と面倒になってしまったこと。夢見はきっとそういうのが嫌なのだろうし、こちらとしては、そうならないよ、と彼女が安心できるまで、態度で示し続けるしかないだろうと思った。


「A君って誰よ」とか「どうしてそんなことになったの?」とか根掘り葉掘り聞かない。そういうことを続けて、結局、1、2年かかったけれど、今ではちゃんと名前を出して話してくれるようになった。

生まれてからずっと一緒に住んでいるのだから、夢見はもう少し早い段階で私の思慮深さを信用してくれても良かったのではと思わなくもないけれど、物事を判断する能力というのは部分的に、段階的に育っていくのだろうから、まあ仕方がない。それに、もしかしたら親と子の関係にも、当人たちが気づかないだけで、第一印象を残す契機となるタイミングがあるのかもしれない。夢見が小さいころ、家庭の中は何かと問題が多く、揉めていたので、いつもより感情的になっていた私が、長いこと彼女の中の私のイメージとして残っていたかもしれない。……だとしたら少し申し訳ない。

いずれにしても、子どもの、新しい自分への柔軟性にはかなわないな、と常々思う。大人になってしまうと、経験から多少の学びを得ることがあっても、本質がドラスティックに変わるということはほとんどない。そしてもし仮にあったとしても、そのきっかけに、宗教とか、悪い男とか、怪しいセミナーとか、何か強引な力が働いていたりして、不自然さを伴う場合が多い。

考えてみるとそんなことは当然の話で、長く生きるというのは、長く自分であり続けるということ。自分である時間を積み重ねた分だけ、急激に変わるのは難しいのだ。けれども、子どもというのは本当に柔軟だ。あっという間に学び、どんどん変わる。そのしなやかな感性を羨ましく思うと同時に、彼らの信頼に足る大人でなくてはならないな、と思う。



イラスト:片岡泉
(紫原明子)

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