子どものやる気スイッチはそう都合よく見つからない【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第14話】
Woman.excite / 2017年2月28日 17時0分
先日、息子モーの高校受験がなんとか終わった。
思い返せば、中高一貫私立校出身の私は、“女子校”とか“カトリックの学校”への漠然とした憧れがあって、そこで繰り広げられるであろう少女漫画的な生活に夢を見て、小学4年のときに、受験をしたいと自分から親に申し出た。だから、息子の場合もそんな風に、時期が来れば、そのときの自分にとって自然な形の、憧れの進学先が見えてくるのだろうとばかり思っていたのだ。
ところが、中学3年の夏休みが終わるまで待っても、志望校はまるで決まらなかった。私は当然焦る。本人も焦っているのかもしれないが、なかなかのポーカーフェイスなので全然焦っていないようにも見える。そんな態度に、こちらが余計に焦る。
先生や先輩ママ友達に相談すると「男の子はそんなもんよ、だから親が動かないと」と皆口々に言う。「でも、自分で決めないと結局はやる気スイッチが入らないんじゃ?」と尋ねると、衝撃の答えが返ってきた。
「最近はね、入らないまま大人になる子も多いよ」
そ、そうなのか……! これはまずい、ということで結局は私が先導して、いくつか学校を見に行くことになった。行く先々で「おお、いいね、ここに行きたい」とそれなりに意欲を見せるモー。けれども、「絶対にここに行きたい!」という偏愛ではなく、むしろ博愛。どこも可もなく不可もないといった様子なのである。みんな違って、みんないい、なんて言ってる場合か。
「学校説明会に行って、先生や生徒のカラーを見れば自ずと、合いそう、合わなそうが見えてきます」とも言われていたが、たとえばダンスミュージックもボカロもJpopも全部いける口、純文学もラノベも人文書も漫画もアニメも、全部いける口であるモー。「俺、どこに行ってもそれなりに馴染むと思うんだよね」と言い、その点、確かに私も納得せざるを得なかった。彼は確かに、あらゆる個性に偏見がない、寛容な人間なのだ。
とはいえいつまでも決められない訳にもいかない。都内には公立、私立と無数の高校があり、最後には、その中からたった一つの進学先を選ばなくてはならない。話し合いの末、最終的には、学校説明会に参加した数校の中で、最も部活の種類が多く、生徒数が多い学校を第一志望とした。一番の理由は、これから先、彼が何らかの偏愛を見せたときにも受け皿がありそうだったから。二番目の理由は、校舎がかっこよかったからだ。
受験直前ともなると、私のような手抜き親でも、受験した学校全て不合格になって途方にくれる夢、学校説明会で私が派手な失態をやらかして絶望する夢など、不穏な夢を見たりして、それなりに不安になったりもした。
モーは相変わらずひょうひょうとしているように見えたが、受験が近づくにつれ“第二志望の学校に行ってもこういう楽しみがある……”などと精神的なセーフティネットを用意し始めたので、発破をかけたり、なだめたり、ほったらかしたりした。受験前日、さすがに顔が緊張していたモーに「君ならできる。そしてできなくても君だ」というと「それ全部のパターン言っただけじゃん」と的確に返してきたので、よし、まだ余裕があるな、と確認。
そんなこんなで迎えた試験当日。最近の学校はハイテクで、試験を受けたその日にネットで合否が発表されることになっていた。仕事から早々に帰って、モーとパソコンの前でそのときを待つ。定刻。リロードとともに現れたリンクをクリックすると、画面には「合格おめでとうございます」の赤い文字。
「……おおおっ!!!」と同時に声をあげた。
そもそも学力相応と思われる学校を選んでいたので合格してもらわなければ困るところだったのだが、それでもやっぱり、手を取り合って喜び合った。長きに渡る戦い(と言えるほど奮闘したかと言われると微妙なところだけれども)が、ひとまず、幕を閉じた。
受験のタイミングに合わせて、なりたい自分、進みたい未来が見え、自動的にやる気スイッチが押されるというスムーズな展開が望ましいけれど、現実にはそうそう都合よくいくとも限らない。実際、中学受験は自分で決めた私も、大学受験については最後の最後で、進学したその先にある自分の姿が描けず、受験を辞めているのである。
モーは、小さな田舎町で育った私とは違い、東京の真ん中で、小さいときからたくさんの大人に触れて育ってきた。早くに生き方の多様性を知っているからこそ、ギリギリまで一つを選べなかったのかもしれないとも思う。でも、だからってそれが、必ずしも悪いこととは思わない。
こうしたい!これをやりたい!と、早くに一つを選び、やる気スイッチでブーストをかけ成果を上げるやり方もあれば、のらりくらり長い時間をかけた結果、気づけばこれだけは飽きずに続けている、ということが、掘り出されるように見えてきたりもする。そうやって出てきたものを、大切に育てていくやり方だってあるのだ。そしてその場合に、元となるものが大きければ大きいほど、骨太なものが掘り出されるんじゃないかとも思う。
いずれにしても、これからモーは色々な局面で「どう生きたいのか?」という難問と向き合っていくことになるんだろう。悩まなくていい、とは言わない。「自分はダメだ……いや、天才かも」の行き来を何度となく繰り返し、大いに悩んで欲しいものである。
(紫原明子)
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