母たちのアンテナを張り巡らせるのにはもう限界がある【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第23話】
Woman.excite / 2017年5月23日 17時0分
ある日息子が「ジェネギャ」と言った。
それは一体なんだ。バンギャの亜種か何かかと思いきや、ジェネレーションギャップの略らしい。今のティーンの言語センスに、母はうなった。
実際このところ、子ども達との“ジェネギャ”を、ひしひしと感じさせられる。何しろ子ども達は、私が知らない歌を、どこからともなく覚えてきては、当然のように口ずさむのだ。世の中の一部の世代が当たり前のように歌う歌を、自分がまるで知らない。そんなことが自分の身に起こるようになろうとは、10代のころは思ってもみなかった。
高校生のころは、特にファンというわけでなくても、モーニング娘。のメンバーの名前を全員言えた。辻ちゃん加護ちゃんの区別もついたし、次々と誕生する小室哲哉プロデュースのグループ名も全部覚えられた。と同時に、私が生まれる前にピンクレディというアイドルがいたことも、山口百恵が引退コンサートでどのようにマイクを置いたのかも知っていた。私が知ったときにはすでに亡き人になっていた尾崎豊にも、高校生のとき一時ハマった。
自分との世代と、それより上の世代のエンタメの知識は10代のころには当たり前に持っていたし、一般教養だろうと思っていたから、言えない大人は一体どこにどんなアンテナ張って生きてるんだ、怠慢が過ぎるんじゃないか、とさえ思っていた。
ところが30歳を過ぎ、ふと気がつけば私も立派に“知らない大人”になってしまっていたのである。自分がそうなってみてようやく、10代のころの疑問に答えが出た。
大人は決してアンテナを張るのを怠っているわけではない。ただ、長年大事に使い続けてきた持ち前のアンテナそのものが時間とともに自然と型遅れになり、世界には、このアンテナで拾えない電波が飛び始めるのだ。
過去に流行ったものについては古い電波で飛んでいるから受信可能なのだ。だからこそ私は懐メロを知っていたし、娘の夢見は今、ボカロ曲とともに、ジュディマリや広末涼子や川本真琴などを好んで聴いている。けれども、新しく誕生するものをキャッチするには、受信するアンテナそのものを刷新していく必要があって、これがなかなか難しいのだ。
ついでに言えば、カルチャーそのもののあり方も、私たちの世代と子どもたちの世代では、どうやら大きく変わっているらしい。昔は、流行りの歌は全員が知っていて当然だった。浜崎あゆみ好き、宇多田ヒカル好きなど好みが別れても、だいたいみんな、売れてる歌は知っていた。けれど今、子どもたちの様子を見ていると、どうもそんな風にはなっていないようだ。
GReeeeNとかゆずとか、一部の歌手の一部のエモい歌は、運動会や文化祭でクラスの一体感を彩る応援歌として共有されているものの、日常的にはJ-pop好き、韓流アイドル好き、洋楽好き、ボカロ好きといった具合に好みが細分化されていて、うちの子どもたちが当たり前に口ずさむボカロ曲を知らない同世代の子どもも当然のようにいるらしい。
これがメインカルチャーだから抑えていて当然、というような圧力は、今はどうやらなさそう。この違いは何かと言うと、やっぱりテレビ。テレビがすべての情報の発信源になっていないことに起因していると思う。私のまったく知らない歌を覚えてくる子どもに、「どこでその歌を知ったの?」と尋ねると、決まってYouTubeやニコ動のMAD動画だと答える。好きなアニメや好きな音楽、好きな動画配信者などをきっかけに、機械が自動的にサジェストしてくれるオススメ動画のリンクを次々と辿ることで、彼らは自分の世界を深めているようなのだ。
先日、娘が突如「俺ら東京さ行くだ」を口ずさみだしたのでギョッとした。なぜ吉幾三を知っているのかと尋ねると、やはりそれもMAD動画で知ったのだという。
子どもが今どんなことに関心があるのか、何を面白いと感じて、何に心を動かされているのか。親としてはなんとなくでも把握しておきたいと思ったりするものだが、彼らの情報源がパソコンやスマホなど、プライベートな空間の中にあるものとなった今、その足がかりをつかむことがかなり難しくなっている。
大人の監視や助言が必ずしも望めるとは限らない中で、子ども達が情報の取捨選択をそんなに大きく外さないために、何を教えていくべきなのか。悩ましいところである。
イラスト:片岡泉
(紫原明子)
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