家事はがんばらなくていい。 NHK『あさイチ』で「スーパー主婦」シリーズを制作した伊豫部ディレクターが語る「人生を変えるヒミツ」
Woman.excite / 2017年6月18日 21時0分
NHKの人気番組『あさイチ』で、2010年から不定期で放送されていた「スーパー主婦」というコーナーをご存じでしょうか? 生活術の達人であるスーパー主婦の知恵と力を借りて、暮らしの困り事を解決するという内容で、多くの視聴者の支持を集めました。
「スーパー主婦」なんて聞くと「私にはムリ」「真似できない」と構えてしまうかもしれませんが、番組で紹介されたのは、誰でもできる驚きの家事ワザばかり。しかも、単なるノウハウだけでなく、その裏には目からウロコの「暮らしや人生を変えるヒミツ」が潜んでいました!
今回は、同シリーズの担当ディレクターであり、『NHK「あさイチ」スーパー主婦のスゴ家事術』も出版した伊豫部紀子(いよべのりこ)さんにインタビュー。取材でわかった、スゴ家事術がもたらす本当の「変化」について聞きました。
■家事を変えるだけで、仕事や人づきあいもうまくいく
「スーパー主婦」とは、NHKのテレビ番組「あさイチ」が発掘した家事の達人の主婦たちのこと。全国2万人の主婦が85年以上にわたり家事の探求と実践を続けている「友の会」 の会員が中心です。
数多くのスーパー主婦を取材してきた『あさイチ』ディレクター伊豫部(いよべ)さんも、かつては仕事に精一杯で、家事にはまったく興味がなかったそう。ところが番組制作のなかで、多くのスーパー主婦に出会い、考え方が変わったといいます。
「スーパー主婦の家事ワザのひとつに牛乳パックの仕切りがあるのですが、以前はどこか貧乏くさい感じもするし、再利用してちょっと得をしたからといって何が嬉しいんだろうくらいに思っていました(苦笑)。
でも、スーパー主婦の家事ワザは単に節約のためのものじゃなかったんですよね。牛乳パックは薄くて自分の好きな形にカスタマイズできるから本当に取り出しやすいし、サイズ調整もカンタン。裏返せば牛乳パックとはわからないし、掃除もラク。やっぱり長年、家事のプロである主婦たちがやってきたことは、合理的なんです」
© naka - Fotolia.com
スーパー主婦たちは、「家事をがんばりましょう」という考え方ではなく、「やりたいことをやるために家事をなるべく合理的にすませましょう」というスタンスなのだそうです。
「家事をがんばると、そのぶん仕事ができないと思っていましたが、実際は逆。スーパー主婦の家事ワザを活用して、どこかがきれいになると、気分もよくなり、だんだん家のなかも片づいて、仕事にも集中できる。むしろ、仕事が大変で家事を後回しにすると家がグチャグチャで、仕事から帰ってもリラックスできなかったり、時間のメリハリがつかなかったりするんです。
家事は、朝起きて顔を洗って歯を磨いて…いったことと同じで、誰もがやる生活の基本。そういう日常はすごく現実的で夢もロマンもないですが、そこがすっきりすると、それを土台にして、その先の仕事や人づきあいもうまくやっていけるんだということを、最近実感しています」
家事は何かの妨げになるどころか、むしろほかでも好循環が生まれてくるのですね。
■「あさイチ」で大反響だったスゴ家事術 3選
書籍で紹介されているスゴ家事術のうち、とくに反響が大きかったものや、「家事が苦手だった」という伊豫部さん自身も実践しているものをご紹介しましょう。
▼【掃除編】売り切れ続出!「セスキ炭酸ソーダ」
伊豫部さんが「とにかく反響が大きかった」というのが、掃除に使う「セスキ炭酸ソーダ」です。重曹の10倍のアルカリパワーがあるというセスキ炭酸ソーダは、油汚れや手アカ・皮脂汚れの掃除に最適。水に溶けやすいのでスプレーに入れて常備しておくと便利です。また、頑固な油汚れはセスキ水で煮たり、セスキを溶かしたお湯にしばらくつけておいたりするのも効果的だそうです。
「ロケでは廃品のようなやかんをセスキ水で煮たら、ずるりと焦げが取れました。現場でもみんなびっくりしましたね。放送時の反響もすごくて、ネットや薬局でセスキ炭酸ソーダが売り切れたほどです」
さっそく筆者も試してみましたが、いつも掃除に苦労しているレンジフードの上や冷蔵庫の上の油汚れが軽くひと拭きしただけでとれて驚きました。
※写真はイメージです ©akoji - Fotolia.com
これに加えて、水アカや尿汚れを酸の力で落とすクエン酸水。そして、界面活性作用で落とす「プリン状せっけん」の3種類があれば、ほとんどの汚れを落とせるそう。本にはそのほかに、ヨーロッパの「スーパー主婦」が紹介した「イヴォンヌ・ブレンド」も紹介されています。
▼【片づけ編】平成の大発明!? 「紙袋仕切り」
片づけ家事術のなかで、伊豫部さんが「平成の大発明」と絶賛し、自身も実践しているのが、あまっている紙袋を活用する「紙袋仕切り」です。高さも形も自由に変えられるので、引き出しでも棚でも仕切りとして便利に使えます。
「番組では、活用した人の喜び度合いが大きかったですね。本当に便利で、私も使っています。オシャレなカゴをそろえてもいいですが、引き出しや戸棚の中なら外から見えないし、気軽にやってみるには紙袋でも十分ですよ」
収まっているときは周りのモノとぴったりして空間のムダがなく、出し入れするときは仕切り部分をぐいっと広げられるので、とても使いやすいそうです。
▼【料理編】もう悩まない!献立の黄金比率
「具体的なレシピではないんですが、私の気をラクにしてくれるんです」
そう伊豫部さんがいうのが、「食器でわかる献立の黄金比率」。茶椀はごはん、汁椀はみそ汁やスープなどの汁物、大皿には主菜、小皿には副菜のイメージです。
「目から入る図形としてパターンを組み込んでおくと、献立がぐっと立てやすくなります。主菜はたんぱく質の存在感があることだけを考えればよく、肉を焼くだけでもいい。副菜は野菜をなにか添えておけばいいと、気軽に考えればいいんです。無駄に多く作ることがなくなるんです。中学校の家庭科の教科書に載っていそうな基本的なことですが、実際に意識するかどうかで大きくちがいます」
このほか、筆者が目からウロコだったのは、冷蔵庫の目の上の高さの棚に「スタンバイコーナー」をつくるという家事ワザ。
© kazoka303030 - Fotolia.com
夕食のメイン食材を決めたら、前日の夜、もしくは朝に、冷凍庫やチルド室から、スタンバイコーナーに移しておく…と、たったこれだけなのですが、やってみると本当に気持ちがラクになりました。
ほんの小さな行動ですが、夕食準備の手間をひとつこなしたことで、「追われる」気持ちが軽減したのです!
■家事にあらわれる「自分の生きている目的」
家事の目的は、表面的には家をきれいにして気持ちよく過ごす、ということですが、それだけではないことが伊豫部さんは取材をしながらわかってきたそうです。
「小さな家事ワザも、ひとつずつやっていくことで、少しずつ自信がついていくんですよね。暮らしはいつでもグチャグチャになるし、それをリセットしながら生きていかないといけない。
そんななかでも、やるべきことをひとつでもやっているという自信があると、主婦として、または生活者としての最低限の誇りのようなものが持てて、気持ちもラクになるんじゃないかなと思います。
それからやっぱり、“誰かのために何かができる”というのが、家事のいいところだと思います。スーパー主婦たちは、最終的には人のために、ということを見すえて家事をしています。
家事を合理的にやって、労力やお金、時間を浮かせて、それをちょっとだけ公共のためにまわす。毎月、友の会として公共費を積み立てていて、東日本大震災のときはそのお金を使っていち早く支援活動をしていました」
伊豫部さんも毎月一定額を家計の「公共費」として、動物愛護の団体に寄付しているそうです。そうすることで社会とつながっていると感じることができるといいます。
「もちろん、お子さんのため、家族のためということでも同じだと思うんです。家族も社会の一員として働いていたり、がんばっていたりするので、結果的に社会に還元して、社会とつながっていくことになると思います。
そういうふうに “誰かのために” と思って家事をやるのと、単に “10円得するために” やるのでは、生活者としての誇りがちがってくるはず。自分がなんのために毎日がんばって生きているのかということも、なんとなく見えてくると思うんですよね」
■家事を考えれば「自分の人生をどうしたいか」が見えてくる
番組や書籍で紹介されている家事ワザはどれもすぐに実践できることばかりですが、慌ただしい日々のなかで継続するコツはあるのでしょうか?
「最近は、別に続かなくてもいいのかな、と思うようになってきました。私も一時期、スーパー主婦のように、完ぺきな状況を理想にして、できていないとかなり落ち込みましたが、いまはできるときに自分にあった家事ワザを実践していけばいいんだと思っています」
伊豫部さんは、書籍の前書きで「生き方が変わって大きく幸せになりました」と書いていますが、スゴ家事術を実践するようになって、「自分がどう生きたいのか」という本音の部分がわかってきた気がするそうです。
© naka - Fotolia.com
「番組を制作していても、自分でできる家事ワザもあれば、できないものもある。すべて完ぺきにやろうと思わないほうが、自分が見えてくると思います。どれくらいきれい好きなのか、どれくらい料理を自分でしたいのか、どれくらいおいしさにこだわるのか…そんなこともわかってきました。
人生は何かを選択することの繰り返し。すべてをやることは難しいので、優先順位が常に大事になってきます。優先順位を決めるには、自分がどう暮らしたいかが見えていないと選べません。自分を見直すときに自己啓発本を読むのもひとつの方法ですが、家事をやるということも意外といいきっかけになります」
一番身近な家事をどうしていきたいかを考えることが、自分の暮らしや人生をどうしたいか決めることにもつながっていきます。自分がどうしたいかわかれば、がんばりどころや手の抜きどころもわかってくるでしょう。
書籍には、このほかにもさまざまな家事ワザがイラスト付きでたくさん紹介されています。さらに、家事がもたらす変化についても詳しく書かれていて、「家事が苦手」という人も読んでいるうちに道がひらけてくるはず。
子育てママはなにかと悩みの連続の日々だと思いますが、まずは一番身近な家事を変えることで、自分も家族ももっと気持ちよくなる暮らしをはじめてみませんか。
伊豫部 紀子/主婦と生活社(1,200円+税)
伊豫部紀子(いよべのりこ)
埼玉県生まれ。立教大学文学部卒業後、ナレーターを目指すが成り行きで番組制作会社に入社。ドキュメンタリーや科学番組・情報番組・報道番組を手がけ、1996年よりフリーディレクターに。2000年よりNHK「生活ほっとモーニング」の生活情報紹介や著名人のインタビューに取り組んだ。番組が「あさイチ」に変わるのにともない「スーパー主婦直伝」を企画して立ち上げ、人気シリーズとなる。
(古屋江美子)
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