親は頑丈な壁でなければならない【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第27話】
Woman.excite / 2017年6月27日 17時0分
最近難しさを感じるのは、どうやら娘は私のことを“エロくてキモい”と思ってそうなことだ。なんでそう思うのよ、と言うと「だってママの原稿をたまに見ると、セックスってやたら出てくるし」と言われて意気消沈。
たしかに私は仕事で夫婦関係、男女関係を書くことがあり、そういう話をしたりもする。原稿には当然「セックス」という単語が出てくることもある。ただ、基本的は別に子どもたちが読んでもかまわないものを書くことにしていて、これまで私の書いたものを割と読んでいる夢見も、その辺はわかってくれている風ではあった。ところが最近、なんとなく反応がいつもと違うのだ。
つい先日、こんなこともあった。友達親子と夕飯を食べていたときのことだ。
「もう◯◯は私より胸が大きいんだよー」。
友達親子のお母さんの方がそう自虐的に言って、娘の◯◯ちゃんの方は、ちょっと自慢げな顔をする。
「えっ、そうなの?!」と私が驚いたその様子に、夢見はどうも不快感を抱いたようなのだ。
「ママ、エロい!◯◯ちゃんの胸をじっと見てたでしょ!」
いきなりそんな風に言われ、えーーっ、と動揺。そんなつもりは全くなかったし、ましてやあったとしても、さっきまさにその話をしてたんだから、無意識に視線を送ってしまったとしてもそれは不可抗力では。
母と娘。同性だし、親子だしと思っても、特に自分の心身が大人のものに成長していく過程では、何となく気持ち悪かったり、自分でも自分をもてあますような気がしたりするものだ。デリケートな話題だからと、必要なことを話すときにも極力さらりと、ドライに伝えるように気をつけてきた。ところが、最近の夢見はどうも、私の中に、男性目線を見出していて、そこにキモさを感じているようなのである。
これに気づいたとき真っ先に連想したのは、思春期の女子が典型的に陥りがちなあれ、つまり「パパくさい」である。うちには普段、お父さんがいない(オッサンのような風貌をした息子はいるが)ので、一般に異性の親に向けられる嫌悪の矛先が、私に向かっているんじゃないかと思ったのだ。
だけど、この話以外にも最近夢見はよく私に苦言を呈す。ちょっとしたリアクション一つ取り上げて、は~っと、わざとらしいため息とともに、マジでこいつはどうしようもないなという顔をされたり、「ママうるさい」「ママキモい」なんて言われたりするともう泣きたくなる。
夢見は学校の勉強が特別できるというタイプではないけれど、物事の分析力は並みの大人顔負けに高い。すくなくとも私の目にはそのように映っているし、彼女のそういった能力には絶大な信頼を置いている。
だからこそ、そんな娘に人間性を全否定されると、結構ストレートに凹む。自分では気付いてない大きな欠陥を、とうとう娘に見つけられてしまったかもしれない……。もしくは親の離婚や何やら、彼女に強いてきたこれまでの体験が、やっぱり彼女の心を傷つけていたのかもしれない……。夢見が私にムカつきたくなる、思いつく限りの可能性を次々と拾い上げては、どっぷり落ち込んでしまうのだ。
ところが、そんな悩みをぽろっと打ち明けた、同じく子を持つ友人からの一言で、私はあっと膝を打った。
「それ反抗期じゃないの?」
そうか……これが反抗期!?
考えてみれば長男にはそいう時期があまりなかったので、すっかりその可能性を度外視していた。だけど、考えてみれば私にだってあった。冷静に考えると親には何の落ち度もないのに、親が急に自分より賢くない存在に思え始めた時期。親の言うことをどうしてか薄っぺらく感じる時期。
親の何気ない一言が無性に気に触る時期。世に言う「反抗期」なるものが。友人はさらにこんなことを言った。
「親っていうのは、壁にならないといけないんだと思う。子どもが反抗できる、わかりやすい対象に。子どもだって自信がないんだから、親がぐにゃぐにゃしてどっちつかずだと、結局子どもが迷う」
……仰るとおりです。
親子とはいえ、一緒に生活を共にする同居人であり、できればいつだってお互い、いい気分でいたい。けれども、子どもというのは日々急速に成長していて、その過程では、ときとして調和より、ヒリヒリとした摩擦を必要とすることだってあるのだろう。そうやって、何かしら打てば響く相手がいることが、後々よく働くことだってあるのだろう。……壁だ。頑丈な壁にならねば。ちょっと打たれてすぐ凹む脆弱な壁だった自分を、悔い改めたのであった。
イラスト:片岡泉
(紫原明子)
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