児童養護施設で暮らす子どもたちの夢【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第30話】
Woman.excite / 2017年7月19日 18時0分
![児童養護施設で暮らす子どもたちの夢【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第30話】](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/womanexcite/womanexcite_E1500427789167_0-small.jpg)
先日、児童養護施設で育つ子どもたちの為の奨学金プログラム「カナエール」の「夢スピーチコンテスト2017」を拝聴してきた。
この大会の趣旨については、公式サイトで以下のように説明されている。
なんらかの事情で親と生活できず、児童養護施設で生活した子どもたちの大学等の進学率は26.5%。また、進学できても学業とアルバイトの両立は厳しく、経済的理由等により中退してしまう割合は26.5%と、全国平均の3倍近くにもなります ※1。
※1 NPO法人ブリッジフォースマイル2016年調べ
カナエールは夢や進学への思いを語るスピーチコンテストの出場を条件に、返済不要の奨学金を、プロジェクトへの寄附とコンテストのチケット販売を原資に給付します。120日間、スピーチコンテストに向けて3人の社会人ボランティアとのチームで取り組むことで、進学してからの「意欲」と「資金」の両面をサポートすることを目的としています。2017年も東京・横浜・福岡の3会場にてスピーチコンテストが開催されます。
大会実行委員長の植村百合香さんは、スピーチの中で「社会的養護を必要とする子どもたちの顔が見えない問題がある」とお話された。社会的養護、というあまり聞き慣れない言葉。どういう意味かというと、保護者による養育が難しい子どもや、それが適切でない子どもを、公的責任の元に保護、養育の支援を行うことだそうだ。
たしかに、家庭の中で起きていることは外からは見えにくい。だからこそ、立場の弱い子どもが、ともすれば命を落としかねない事態が起きてしまうこともある。今回、10人の子ども達のスピーチの中でも、彼らが施設に辿り着くまでに経てきた壮絶な体験が語られた。
エスカレートする実の親からの虐待の中で、ある夜ついに首に手をかけられ、自ら決意して家を飛び出し、警察に飛び込んだ女の子。
ひとり親だった母親が彼氏と暮らすために家を出てしまい、小学生のころから幼い妹の世話を家ですべて担っていた高校生の男の子(警察が家にやってきて保護されることになったのだという)。
自分以外の家族が皆精神的な病を抱えており、家で生活ができないという女の子。
本人の聡明さや、周りの大人たちのさまざまな努力で、彼らは今無事に施設と繋がり、安心できる環境下で生活できているということに、大きな救いを感じた。もちろん、児童養護施設の中のことだって、家庭の中と同じように見えにくい。
「社会的養護を必要とする子どもの顔は見えにくい」という問題は、一方では子ども達のプライバシーを守るために必要なバリアでもあって、必要な「見えにくさ」でもある。けれど、このスピーチコンテストで子ども達から語られた夢の中に、将来は児童養護施設の職員になりたいと語った子が複数いたことからも、少なくとも目の前の彼らはきっと、こうなりたいと自分の未来を重ねることのできる、信頼できる大人に出会えたのだろうと思えた。
施設に移って以来、2年間も会っていないという母親に「産んでくれてありがとう」と壇上から告げる子。自分を虐待していた母親も、そうでないときは優しく、大好きだったと語る子。親を亡くし、後ろ盾もないが、夢があって大学に進学したい、経済的な不安があるが頑張っていくと強い口調で決意を示す子。
彼らが家庭で負った傷を少しずつ癒やしながら将来を見据えている姿は本当に立派で、素晴らしかったけれど、同時に、ここまでの寛容さ、強さを子どもに強いてしまう私たち大人の不甲斐なさを思うととにかく申し訳なく、頑張ってね、とエールを送るのだって無責任なような気がして、後ろめたさが拭えなかった。
こういう複雑な思いはつい、産みの親を単純に悪者にし、同時に自分を善人にすることで消化しようとしてしまいそうになるけれど、じゃあそれで子どもが救われるのかというと当然ながらそんなことはなくて。大人にだって、家庭の外にはさまざまな生きづらさがあって、ふとしたきっかけで、そのしわ寄せが非力で無抵抗な子ども達に降りていく。だから、子ども達が家庭の中で抱える問題の多くは、社会にいる大人達の問題でもある。
子ども達が、産まれてから最初に身を置く、「家庭」という小さな世界の中で、まずは肉体的、精神的に傷つかないこと。そして、残念ながらそういうことが起きてしまったとしても、いち早く外からそれに気づけること。安心して暮らせる別の場所があること。その先に“それでも”産んでくれてよかった、生きていてよかった、と言ってもらえるような、可能性を感じられる社会があること。そういった環境を用意するのはやっぱり私達大人の責任で、同時にそうやって用意された環境というのは大人にとっても生きやすいものになるのだろうと思う。
* * *
ところで、過去7年間に渡って続いてきた「カナエール」は、今年をもって奨学生募集を終了するとのこと。理由は、この数年で返済不要の奨学金が自治体を中心に増え、今年度より文部科学省が給付型奨学金を設置するなど、大学進学への道は、子ども達にとって以前よりも選びやすいものになってきているからだそうだ。
とはいえ、運営母体であるNPO法人ブリッジフォースマイルは引き続き活動を継続されているので、もっと良く知りたいと思った方はNPO法人ブリッジフォースマイルにアクセスしてみてください。
困難な状況に最初の一石を投じ、継続的な活動で状況を大きく改善させてこられた「カナエール」運営の皆さん、本当にお疲れ様でした。
![](https://s.eximg.jp/expub/feed/Woman_woman/2017/E1500427789167/1500433562_1.jpg)
イラスト:片岡泉
(紫原明子)
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