お父さんのリアルな家庭問題とは? 娘を持つ父親必見『幼な子われらに生まれ』
Woman.excite / 2017年8月24日 22時0分
『幼な子われらに生まれ』8月26日(土)、テアトル新宿・シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
© 2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会
重松清の原作を映画化した『幼な子われらに生まれ』は、DV、離婚同士の再婚、女性のキャリアと出産、育ての親と生みの親といった、日本ではもうめずらしくなくなった社会と家族の問題が絡みあい、もつれあいながら物語が進んでいく。
本作でのキーワード“家族”には、さまざまな社会的テーマが内包されている。そのなかで、自分がもっとも強く感じたポイントをひとつあげるとすれば“父の存在”だ。
■娘のいるお父さんが、深く肩入れする物語
© 2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会
田中麗奈が演じる奈苗は、DV被害に遭い、その夫と離婚後、浅野忠信扮する信と再婚。その奈苗の元夫で暴力を振るった張本人、子どもにも愛情を抱けず家庭に不向きと自分で判断した宮藤官九郎扮する沢田。彼らの実の子で小学6年生という微妙な年ごろを迎えた薫。
この家族をとりまくどの登場人物に肩入れするか、もしくはどの問題に興味を抱くかで、まったく違った風景が見えてくる。なかでも浅野忠信が演じる信の在り様は、子どもを持つ父親、もっといえば娘のいる父親こそ感じる部分が多いといっていいかもしれない。
彼は普通のサラリーマンで、妻と、小学校6年生の薫とその妹の恵理子と暮らしている。ただ二人の娘は、信の実の子ではなく、妻の連れ子だ。
再婚して4年、なんとなく家族関係が築けたころ、奈苗の妊娠が判明。うれしくないことはないが、二人の娘のことを考えると、彼は複雑な気持ちにならざるえない。また、彼には前妻との間にも沙織という娘が。定期的に実の娘と会う機会をもっていることも、連れ子である娘たちへの引け目へとつながっている。
だからといって間違ったことを子どもがすれば、きちんとしかるし、注意もする。良き父でありたいとは思いながらも、必要以上に遠慮すれば溝ができることも、愛情も伝わらないことも承知している。
子どもへの向き合い方は仕事へのスタンスにも表れ、残業して昇格するより、必要以上に残業をしないで、子どもとの時間に当てるのを選ぶタイプ。実際、彼は降格人事ともいえる出向のうわさ話が出てきたとき、“働けて同じような給与をもらえれば仕事はなんでもいい”と打ち明ける。結果、かなり理不尽な職場へ出向となるが、どこか受け入れているふしがある。
良い意味で、自分らしい生き方を模索し、対外的なことや他人の評価といったことはあまり気にしていない。周囲の目はどうでもいい。要は、内情さえよければ問題ないのだ。
■頑固オヤジ→ダメオヤジ→そして現代の父親は?
© 2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会
これまでの日本のドラマや映画において、この信という人物はきわめて異例といっていい。逆を言えば、これまでのドラマや映画において、彼のような人物が主要キャラクターとして登場することはほとんどなかったのではないだろうか? そういう意味で新鮮味のある父親キャラといえる。
ひと昔前、日本の映画やドラマに登場する父親といえば、父の威厳を振りかざす厳格な頑固オヤジが相場だった。しかし時代が平成へと移り始めてからだろうか、その父親像は崩壊し、いわゆるダメオヤジがとってかわった。
家庭から疎まれ、子どもに尊敬もされなければ、妻に敬意を払われることも少ない。ほとんど存在感ゼロ。“父の存在”どころか、“父の不在”で語られる作品もめずらしくなかった。そして、こうしたステレオタイプな父親像がいまだ多く現代の映画やドラマには登場する。
ただ「自分の周囲」に限っていえば、自身が子を持つ父としていろいろな親御さんと出会う中で、こうした映画に多く登場するようなお父さんに出会ったためしがない。はっきり言ってしまえば、映画やドラマに登場する父親は、フィクションということでは片づけられないぐらい、現実からかなりかけ離れている気がしてならない。
対して、この信という人物はどうか? この信という人物を前にしたとき、自分の皮膚感覚で日々体感している“いまどきのお父さん”に彼はかなり近い。自分の周囲にいても不思議ではないと思えるほど、身近な存在に感じられる。そういう意味で、“自分の代弁者がようやく登場した”と共感を覚えるお父さんは、私以外にも多いのではないだろうか?
■ヒーローじゃない。でもいまの父親に求められていること
© 2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会
昔の父親とは違って、いまの父親は子どもにも関心があって、女性が働くことも異論はなく、自分なりのワークスタイルも確立している。そして信と同じように、それでも家庭生活は順風満帆とはいえず、悩みは尽きない。
年ごろを迎えた、奈苗の連れ子、薫にはある日突然、話すことさえ拒まれ、“ほんとうのお父さんに会わせろ”と言い放たれる。“自分はほんとうの父親になれないのか”という事態に直面し、心が揺らぐ。一方で、実の娘である沙織がすでに自分の手から離れている現実を目の当たりにすると、どこか一抹の哀しみを感じる。
そうした事態に直面し、信は子どもとの関係、妻のとの関係、家庭の問題を、やりきれない気持ちを抑えられずに試行錯誤しながら、解決というよりも、いい着地点を見いだしていく。
そんな信の苦悩し、奮闘する姿からは、いまの父親たちに求められていることが浮かび上がっているように思える。たとえば、父親の家庭における役割、親が子どもにしてあげられることなど。ヒーローとは言い難いが、父としてその役割をまっとうしようとする信の姿に、勇気づけられるお父さんはきっと多いに違いない。
裏を返せば、お母さんたちにとっては都合のいい話にもみえるかもしれないが(笑)、いまどきの夫が考えていることがつまっている作品となっている。
きわめて現代の父親像を描き切った1作であり、とりわけいまを生きるパパたちに感じることが多い作品であることを約束したい。
(水上賢治)
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