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愛されるために笑顔を作る子どもたち【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第33話】

Woman.excite / 2017年8月22日 17時0分

愛されるために笑顔を作る子どもたち【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第33話】


先日、思うところあって映画『嫌われ松子の一生』を数年ぶりに観た。

この映画、鮮やかな色味のミュージカル調に仕立ててあるが、内容は相当重い。重いどころか、不調のときに観るとある種の呪いにかかる。

確か私は離婚前に1度、さらに離婚してからもう1度観ていて、今回が3度目。離婚後に観たときには、これは他人事ではないかもしれない、私も「嫌われ明子」として一生を寂しく終えるのかもしれないと恐々とした。

離婚して、仕事がそれなりにうまくいったり、いくつかの恋愛を経ていく中で、今は少し遠くなったけれど、きっとこれから先も、思ってもみないことでつまづいたとき、「嫌われ松子」の影はきっとすぐにまた寄ってくる。

観たことのない人のために簡単にあらすじを説明すると、この物語はタイトル通り、川尻松子という女性の一生を描いたフィクション。それも、もともとは中学教師だった松子が、坂道を転がり下りるように転落していく様を描いたものだ。

松子の嫌われ人生を決定付ける行動は、要所要所で描かれていて「えー!なんでそうやっちゃうの?」と理解できないものもある一方、本人の選択や行動が及ばないところで迎えてしまう、不可抗力な不幸展開もある。

ちょっとした選択ミスとそして運命。この二本が、運悪く延々と絡まり続けて「嫌われ者」として一生を終えることが自分には絶対にない、なんて言えない。だから怖い。

映画の中の松子は最初から最後まで一貫して、ただ男に愛されるためだけに生きている。ところが、その全てがうまくいかない。ひとつ不幸を迎えるたびに「なんで?」と自問自答する。

「なんで?」の回答としてひとつ、劇中で明確に描かれているのは父親との関係だ(このシーンは序盤で描かれるということで、ここまでのネタバレはどうかひとつご容赦ください)。幼少期の松子は、色々あって自分に注意を向けてくれない父親が、コメディアンのまねをした変顔を作ったときにだけ、笑ってくれることを発見。以降、父親の笑顔が欲しい一身で、変顔を向け続ける。


心理学用語に「モンロー・スマイル」という言葉があるそうだ。

魅力的な笑顔で周囲の人間を魅了したマリリン・モンロー。しかしその笑顔は、不遇な幼少期、多くの家庭を転々とすることを余儀なくされた彼女が、周囲の大人に愛され、関心を向けさせるため、生きていくために身に着けたものだった。彼女のように、親の愛情に恵まれていない子どもが、周囲の大人の気を引くために魅力的な笑顔を振りまくことは少なくないといい、これを「モンロー・スマイル」と言うらしい。

劇中の松子の変顔も、ただ自然体に、当たり前にしていては愛されないと悟った子どもが、大人に愛されるために意識的に取る行動としてこの「モンロー・スマイル」と軌を一にしたものだろう。

愛し愛されるという行為は、できるときには何も考えなくてもできるのに、うまくいかなくなった瞬間、それはもうとんでもなく複雑な、哲学級の難題になる。

「なぜあの人は自分を愛してくれないのか」
「なぜ世の中の多くの人は当たり前に愛されているのに自分だけは愛されないのか」

夫婦関係の破綻で私は一時その迷路に迷い込んだけれど、幼少期にもっとも身近な大人である、養育者からの愛情を安心して受けられない子どもというのは、子どもの体で、そんな無理難題と向き合わざるを得ないのであって、それはきっと、いい大人が好きな人に愛されるために努力するのとはまるでわけが違うことだろう。

子どもはただ生きてくれている、ただ存在してくれているから感謝され、愛される。そうあるべきだし、そもそも大人の都合で勝手にこの世に産み落とされたのだから、そうあるのが筋ってものだと思う。

いい子だから。可愛いから。迷惑をかけないから。面白いから。役に立つから。子どもが愛されるのに、理由はひとつも必要ない。ところが、色々な事情でそんな当たり前のことがうまくいかないということは、物語の中に限らず、現実にたくさんある。

愛されるために必要とされた条件は、本来ならばまっすぐで平坦な道に、大人によって乱暴に置かれた大きな石、もしくは壁のようなもので、子どもの前途を阻む。

そして、ときには子どもに限らず、大人になってからも足枷となり続ける場合だってある。子ども時代に追い込まれた迷路から抜け出せずに、いつまでも苦しみを抱え続ける大人がたくさんいる。

愛し、愛されることがうまくいかない問題は、病院でも学校でもそう簡単に解決してくれない。にも関わらず、大人は庇護される対象ではないから、全て自分でなんとかしなくてはならないのだ。

そういう人達が迷路から抜け出すための出口は一体どこにあるのか、周りの人間には何ができるのか、ということを、最近は延々と考えている。



イラスト:片岡泉
(紫原明子)

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