ヒトの親は「子育てするようにできていない」? ママの青春「ジャニーズ返り」が子育てにも有効【イクメン脳研究者が教える“脳から考える子育て” 第2回】
Woman.excite / 2018年4月4日 21時0分
子どもが身の回りのことをできるようになってくると、たまには子どもを預けてリフレッシュしたい! というママも増えてくるのではないでしょうか。
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なかには「独身のころ大好きだったジャニーズのコンサートに再び行くようになった」「学生時代に夢中だったロックバンドのライブに15年ぶりに行ってハマってしまった」なんていう声も。
大好きだった〇〇に再びハマって、ママたちが青春時代にカムバックする理由とは? 脳内では何が起きていて、どんな影響があるのでしょうか?
脳研究者で、ご自身もふたりの娘さんの子育て真っ最中の池谷裕二先生にお話をうかがいました。
池谷裕二先生 プロフィール
研究者、薬学博士。東京大学・薬学部教授。専門は神経科学および薬理学で、脳の成長や老化について研究している。『海馬』(新潮文庫)、『進化しすぎた脳』(講談社ブルーバックス)など著書多数。近著に『パパは脳研究者』(クレヨンハウス)がある。プライベートでは二児の父。
■時間とともに美化される「過去の記憶」
―― 出産後、子育てに慣れてくると、学生時代や独身のころに好きだったアーティストに再びハマるママが、ちらほら出てくるように思います。何か理由はあるのでしょうか?
池谷先生:「マンネリ化の打破」があるのではないでしょうか。小さい時は見るもの・聞くものひとつひとつが輝いていたのに、年をとってさまざまな経験を重ねることで、マンネリ化してくる傾向があります。
加齢によるマンネリ化はごく自然なことですが、マンネリ化の打破は快感なんです。再び同じアーティストを好きになるにしても、当時とは違った心の余裕があるというか、「新鮮さ」がありますよね。
―― たしかに。昔好きだったアーティストに再びハマるというのは「昔好きだった時の私が好き」みたいなこともあるのでしょうか?
池谷先生:それもありますね。年月を経てそのアーティストの容姿が変わったとしても、アーティストを好きだったという「感覚」を脳は覚えています。
よく人間は悪いことばかり覚えていると言われますが、調べてみると実際はその反対で、良いことをよく覚えているんです。「バラ色回顧」といって、時が経つと過去の記憶が美化されます。
例えば、失恋して間もない頃は苦い思い出ばかりだけど、時間とともに記憶は美化されて、じんわり温かい気持ちになりますよね。心理試験でも、「悪い記憶は抑圧がかかって連想が止まってしまい、思い出さない」というデータがあります。
あとは、昔好きだったドラマを見て、楽しくなる気持ちも一種の「新鮮さ」がありますね。
■「新婚時代にカムバック!」も脳に好影響
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―― なるほど。懐かしいだけではなく、ワクワク感とか高揚感がありますよね。脳にもいい影響があるのでしょうか?
池谷先生:そうですね。ものごとの見方や捉え方(枠組み)を変えて、プラスの方向に考えることを専門用語で「リフレーミング」といいます。先ほどの「青春時代にカムバック!」以外に例をあげると、マンネリ化している夫婦が、結婚式や新婚旅行など仲睦まじかったころのビデオを見ると、しばらく夫婦関係が改善するのがそうです。
「子育てや家事、いろいろ不満はあるけれど、子どもがいて楽しい時もある。今の状況って、まあまあ恵まれているよね」と、一歩ひいた目で見られるようになります。
―― ママの「リフレーミング」は子どもやパパにもいい影響がありそうですね。
池谷先生:もちろん。お母さんがイライラしないのは、家族にとってもいいこと。だからカムバック! もそうですし、ママの息抜きは大切ですね。私も妻が飲み会に行く時は子どもの寝かしつけまでやっていますよ。
■ヒトの親は「子育てするようにできていない」
―― おっしゃるとおり息抜きは大切だと思うのですが「ママは子育てを頑張らなくてはいけない」みたいな社会的な圧力がいまだにあるように感じられます。
池谷先生:そういう風潮はたしかにありますね。0歳で保育園に預けるのはかわいそうとか。ここで言っておきたいのは、生物学的にヒトは「親が子どもを育てるようにできていない」「子どもも親の言うことを聞くようにできていない」ということ。
人類の祖先が誕生したのが約500万年前、 ヒトが農業を始めて定住するようになったのが約1万年前。農業をするまでの500万年もの間、人類の祖先は狩猟をして暮らしていたんです。日中、親が狩りをする間、子育てをするのは周りの子どもたちとおばあちゃんでした。
これまでの人類の歴史500万年を1年に例えるなら、ヒトの親が子育てをするようになったのは、大晦日になってからのこと。まだまだ日が浅いんです。そんなにすぐうまくいくわけがない。だから、ヒトの親が子育てするとストレスがかかるのは当然といえます。
―― 「ヒトの親が子どもを育てるようにできていない」なんて驚きました! 親はどうすればいいのでしょうか?
池谷先生:ポイントは、周りの子どもやおばあちゃんとの関わり。親が言ってもきかないのに、お友だちに注意されると子どもはすぐやめますよね。同じ子どもの言うことなら、子どもは受け入れます。だから、子ども同士のコミュニティー作りが大切ですね。
それと、おばあちゃんや、それに代わる保育園の先生などが関わる環境作りができるといいと思います。児童館なども活用して、子ども同士やおばあちゃん的な先生と関わっていけるようにしてはいかがでしょう。
子育てにストレスを感じるのは生物学的に見ても当たり前のことなので、それ自体を気にすることはありません。息抜きすることをうしろめたく思うお母さんもいるかもしれませんが、イライラが爆発する前にうまくリフレッシュして子育てを「リフレーミング」できるといいですね。
(コバヤシカヨ)
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