「子どもの正しい判断力」を奪っていないか? 大人にコントロールされない世界とは
Woman.excite / 2018年4月13日 12時0分
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『泳ぎすぎた夜』2018年4月14日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて公開
こんなに「子どもが、子どもとして存在する」映画はこれまであっただろうか? ひと言でいえば、映画『泳ぎすぎた夜』は、そんなことを思わせる作品です。
描かれるのは、少年の過ごすたった1日のこと。その日になにか特別なことが起きるわけではありません。ごくごくありふれた日常でしかない。でも、主人公の少年の一挙手一投足から目が離せなくなる。この映画を観ると、「親は子どもの持つ力をもっと信用しないといけないのでは?」と、問いかけられている気がします。
©2017 MLD Films / NOBO LLC / SHELLAC SUD
世界の映画祭でも“いままでにない、子ども映画”と高い評価を受けた本作の五十嵐耕平監督とダミアン・マニヴェル監督に話をお聞きしました。
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ダミアン・マニヴェル監督(左)と五十嵐耕平監督(右)
■大人にコントロールされない本当の子どもの姿とは
『泳ぎすぎた夜』で驚かされるのは、少年のほんの些細で日常的な行動になぜか目を奪われてしまうところ。子どもの世界や子どもの時間そのものが作品に刻まれています。どうやったらこんな子どもの自然な姿をとらえられるのだろうか。
――どうして子どもを主人公にした作品を撮ろうと、思ったのでしょうか?
五十嵐耕平監督(以下、五十嵐):二人の意見で、「雪国での少年の物語」ということになったんですが、僕が「子ども」という題材に取り組みたかった理由は、その存在の曖昧さというか。ひと言でいうと、子どもって次にどんなことをするのかリアクションが読めないから。
たとえば大人だったら取っ手のある荷物を持つとなったら、迷わずその取っ手をつかんで持ち上げる。その行動はこちらの想像の範囲内で収まります。でも、子どもの場合は、想像に収まらない。取っ手があってもそれをつかまないで、もちあげようとするかもしれない。そんな子どもの意外性のある感性が引き出すことができたら、おもしろい作品ができるんじゃないかなという漠然とした考えがありました。
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ダミアン・マニヴェル監督(以下、ダミアン):ただ、子どもを主人公にした映画ではあるんだけれど、通常のアプローチとは違うものにはしたかった。
五十嵐:通常の映画に出てくる子どもは、ほとんど子役です。映画の撮影というのは、基本的にすべてにおいて大人の都合で進んでいく。何時から何時までというスケジュールから、セリフを言うタイミングまで大人の指示。子どもの役を任された子役はその指示どおりに動くわけです。
ふと、「そこにほんとうの子どもの姿が存在しているの?」と疑問に思ったんです。僕たちが撮るのであれば、子どもの本質をとらえたい。大人にコントロールされていない子どもの本来の姿を映画の中に落とし込めないものかと。
ダミアン:コントロールできないということはリスクがあるということ。撮影が滞りなく進むとは限らないし、最悪、映画が完成しない可能性も否定できない。でも、子どもはすごくクリエイティブ。被写体としては最高で、そこに賭けてみようと思ったんだよね。
■「子どものルール」は大人とはまったく異なる?
監督たちは、「いまどきの子どもはシャイでおとなしい」といったイメージを持っていたそうだが、主人公を演じる古川鳳羅(こがわ・たから)くんはそのイメージとまったく違ったと話します。鳳羅くんは、自分の想いを体ごとぶつけてくるエネルギーを持ち、次の瞬間、何を考えてどう動くのかまったく予想できなかったとか。
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――演技経験のない彼を起用して映画作りに取り組まれたわけですが、子ども本来の姿をひきだすため、どんな創作がなされたのでしょうか?
五十嵐:鳳羅くんに出会ったことで、はじめて形になっていたことが多いですね。子どもの純粋な姿を撮りたいと思っていたわけですけど、鳳羅くんに接するようになって、子どもには「子どものルール」があるということがわかってきました。ただし、大人が考えたルールからは完全にはみだしているんですけど(苦笑)。
時間の使い方、何に目的意識を持つのか、何に興味を持つのか。これらが大人とはまったく違う。同じ風景をみても、大人が考える範囲以外のところを見ていて、まったくの別世界を感じていたりする。それを映し撮りさえすれば、自然と目指すものになるのではないかと思いました。
ダミアン:僕は鳳羅くんの中に、喜劇王のチャップリンを見いだしていました。彼ならきっと人とは違う世界を見せてくれる。たぶん彼が次にどんなリアクションをするのか楽しみで目が離せなくなると。
五十嵐:僕ら大人はもう子どものころの感覚って、忘れてしまっている。考えたところで浅はかなアイデアでしかない。だから、そこに頼るよりも、鳳羅くんを信じる。こちらの枠にあてはめないで、彼に自由にやってもらう。そうすれば、なにか彼から子どもならではのことが出てくるだろうと。
たとえば犬を相手にほえ合うシーンがあるのですが、犬にほえられたら、本能的な反射で彼はほえ返す。それだけなんだけど、もう目がくぎ付けになる。最終的には、僕たちが、鳳羅くんの世界に入っていって、そこで映画を撮る感覚でした。
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■「子どもの正しい判断力」を親は奪っていないか
少年は父の仕事場を探して、寒さ厳しい雪の中、道をトコトコ歩いて、電車にのって記憶をたよりに目的地を目指します。しかし子を持つ身としては、ついつい“危ない”とか“気をつけろ”とか思ってしまう。しかし一方で、もっと子どもの本能を信用しなければいけないという気にもさせられます。
筆者自身、「寒いから手袋して」、「マフラーまいて」とか、本人任せにしてもいいことまでついつい口を出してしまっている気がします。でもそんなこと言わるまでもなく、「子どもには子どもの正しい判断力」があって、過度な干渉は必要ないのではないか? といったメッセージが作品から伝わってきます。
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五十嵐:雪が降っている中で、子どもがひとりで出かけるというのは相当危険な行為だと思います。道をわたるのも危なっかしいし、電車に乗るのも大丈夫かなと思いますよね。子どもにとっては大冒険。ただ、こうした経験を多かれ少なかれ僕らも子ども時代に体験しているんじゃないですかね。
海で泳いでいたら、想像以上に沖に出てしまったとか(笑)。それで初めて身をもって危険を感じる。そういったことはいまでもふと頭をよぎる瞬間があって、忘れてはいない。こういう判断力って自分で実際に経験して初めて実感として体得していくような気がするんです。それが自分の生きていく上での力にもなる。
危ないことは知識として知っているけど、「どう危ないのかわからない」ことが本当は危ない気がする。もちろん経験することの限度はあると思うけれど、危険なことをすべてシャットアウトしてしまうのはどうなんだろうと個人的には思います。僕自身も今回、鳳羅くんをとおして、子どもの判断力や自立心をもっと信じてあげてもいいんじゃないかなと思いました。
ダミアン:そして子どものときの自由な時間、ひまな時間ってすごく長い。大人になると、「子どものとき、あんなに時間があったのに、なんでなにもしなかったんだろう」って思ったりするぐらい(苦笑)。
この「自由に想像をめぐらす時間」も子どもには必要なんじゃないかなって思いました。こういう自由な時間が持てるのも、じつは子どものときだけなんじゃないかな。だからこそ大切にしてあげたい。
実際の日本についてはよく知っているわけではないけれど、なんとなく日本の子どもにはあまり自由がない印象がある。フランスはもうちょっと自由がある。ただ、怒るときは世界共通で、親はものすごく怖いけどね(笑)
■「子連れのお母さんを見守りたい」と思える作品
本作を撮るときに、監督たちは鳳羅くんと男同士の約束を交わしたと言います。たとえば「今日は終わったら一緒に遊ぶから、あとワンシーンは撮ろうね」と。それを鳳羅くんが守れないときは、きちんと叱ったそう。「映画とか僕の都合ではなくて、人と人が約束したこと。僕と鳳羅くんの問題だから。」と五十嵐監督は話します。
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――今回の作品をとおして、自身の少年時代といまの子どもたちと比べて、感じた違いはありましたか?
五十嵐:たとえばスマホといった社会や時代で表面的なことは変わっている。でも、本質的なところでは、あまり変わってないんじゃないか。子どもは子どもでしかなくて、じつは僕たちが子どものときとなにも変わらないのではないかと思いました。
ダミアン:僕も同じ意見。たとえばパリの子は大人っぽいし、田舎はもっと子どもっぽい。でも、子どもの持っている本質みたいのはまったく変わらないんじゃないかな。
五十嵐:たとえば鳳羅くんはゲームが大好きです。でも、あんな雪国に住んでいるのに、雪でも楽しんで遊ぶんですよね。「雪=ちょっとウキウキ」みたいな感覚は、子どもから失われていない。
――お二人ともまだお子さんはいらっしゃらないということですが、ご自身も将来、子どもを持ちたいと思いましたか?
五十嵐:想像できないというのが正直なところ。でも、毎日のこと考えると、大変ですよね。とくに悪ガキの男の子をもったら(笑)。
今回、鳳羅くんと接するなかで、僕は自分の母に感謝しました。そして東京などで電車に乗っていると、子連れのお母さんをよく見かけます。いつも大変そうだなと思ってましたが、その苦労は想像以上だと思う。もっと社会として優しい目でみていいんじゃないかなと思いました。
ダミアン:想像はしましたね。自分も「子どもをもったらどうなるのか?」と。たぶん大変。でも、そうなったらがんばるしかないかな(笑)
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4月14日(土)よりシアターイメージフォーラムほか全国順次公開
日本の五十嵐耕平監督とフランスのダミアン・マニヴェル監督が、青森県平川市に住む小学二年生の男の子、古川鳳羅くんとともに作り上げた、これまでにない子ども映画。ある朝、すでに仕事に向かっていない父親にふと自分の書いた絵をみてほしいとおもった6歳の少年。思い立ったが吉日と彼は父親の働く魚市場へ! ここから少年のとても小さいけど、本人にとっては大きな冒険がスタートする。
子どもだけに流れる豊潤で自由な時間を映像に映しこむことに成功したそのシーンの数々に驚かされる1本。大人が見過ごしがちな、子どもの可能性と豊かな感性を体感できることでしょう。
(水上賢治)
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