普通とは“違う”子に、どうしたら親は「愛してる」を伝えられる?
Woman.excite / 2018年11月16日 6時0分
ドキュメンタリー映画『いろとりどりの親子』11月17日(土)新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開
©2017 FAR FROM THE TREE, LLC
自閉症やダウン症など、親とは違う性質を抱えた子をもつ300組以上の親子を取材した『FAR FROM THE TREE』。世界中で50以上の賞を受賞した作家、アンドリュー・ソロモンの同作は、同じような境遇にいる親子に勇気を与えると共に、あらためて家族の本質について問う内容で瞬く間にベストセラーとなり、24か国語に翻訳されるまでの反響を呼んでいます。
ドキュメンタリー映画『いろとりどりの親子』は、この原作の映画化。作品では6組の親子を取材しています。ここで映し出されることは、ひとりの人間としてひとりの親として考えさせられることばかり。ちょっと大げさかもしれませんが、「これまでの社会通念をガラッと変えるようなこと」が示されているといっていいかもしれません。
©2017 FAR FROM THE TREE, LLC
■親の考える「普通」と子どもが違っていたら…
そもそもアンドリュー・ソロモンが本著を書くきっかけになったのは、自身がゲイでそれに対し苦悩する両親の姿を見てのこと。自分の両親と同じような状況に置かれたほかの親たちは“どう向き合ってきたのだろう?”ということから、いわゆるマイノリティに属する子のいる家族を取材するようになったといいます。
彼はろうの子のほとんどは健常の親から生まれ、親は子どもを治療しようとするけれど、子どもは思春期になると、「自身のコミュニティ」を発見することに気づく。すると同時に、親から子へ受け継がれる「縦軸のアイデンティティ」と、周囲の仲間から学び、養われる「横軸のアイデンティティ」が存在することに気づいたそうです。
そして、自閉症、ダウン症、LGBTに関わらず、親の「普通」と、子どもが成長とともに発見するアイデンティティが異なると、両者がその違いを認め、受け入れるまでには時間がかかることがわかったといいます。この親と子の「違いの受容」こそが本作の大きなテーマといっていいでしょう。
■親の気持ちが子どもを追い詰める
この作品には6組の家族が登場します。
1組は、原作者で映画のストーリーテラーでもあるアンドリュー・ソロモンと、その父のハワードの親子。
©2017 FAR FROM THE TREE, LLC
2組目は、かつてダウン症の人々の可能性を示す代弁者になるほどの知名度を得て、テレビ番組『セサミストリート』にも出演していたジェイソンと、母親の脚本家、エミリーの親子。
©2017 FAR FROM THE TREE, LLC
3組目は、自閉症のジャックと彼のためにあらゆる治療を試したというエイミーとボブのオルナット夫妻。
©2017 FAR FROM THE TREE, LLC
ほか3組も、直面した問題や抱えた困難はそれぞれに違いますが、最終的に彼らがたどり着いたのは「受容」の心にほかなりません。
親としては「普通」の子との違いをそう簡単には認められない。先のエミリーもオルナット夫妻も「この子ならば」と一般的な子に近づけ、普通の学校に通えるように、あの手この手を打つ。でも、そのことが逆に子どもを追い詰めて、関係が悪化してしまう。
最終的に行き着くのは、互いに認め合うこと。他の子との違いをきちんと認めてあげたとき、ここに登場する家族は思わぬ世界と未来が開けていくのです。
■他人とわが子を比較していたら、親の愛情は伝わらない
©2017 FAR FROM THE TREE, LLC
これはなにもマイノリティに属する子をもった親に限ったことではないと思います。私自身を含め、一般的な親というのは、どうしても他人の子とわが子を比較しがちとなっているように思えます。
©2017 FAR FROM THE TREE, LLC
「●●君はできるのに、なんであんたはできないの!」とか、「その歳で、この程度のことはできないと恥ずかしいよ」なんて、ついつい口から出てしまう。ほかの子より勉強が遅れているように思えると、やみくもに追いつかせようとしたり、不得意なことがあると、人並みぐらいにできるよう求めたりしがちとなってしまったり。
「十人十色」という言葉があるように、子どもによって個性も違えば得意なことも違う。性格も違えば、考え方も違う。そんなことは言われなくてもわかっている。でも、実際は子どもがほかより劣っていることがあると敏感に反応してしまう自分がいることに気が付き、愕然とします。
©2017 FAR FROM THE TREE, LLC
そうしてついつい冷たく、厳しく当たってしまう。でも、それは残念ながら、どんなに愛情があっても一方通行。まずは、互いの意思を尊重して認め合う。子どももひとりの人格者。そこからはじめないと親の愛情が伝わらないことを本作は教えてくれます。そして、違いを認めることで子どもを楽にできれば、じつは親の気持ちも楽になることを教えてくれます。
■「自分たちには直すべきところなんてない!」心を自由に
©2017 FAR FROM THE TREE, LLC
ただ、この作品は、そうした親と子の関係で大切なことを伝えながら、そのさらに一歩先のメッセージをわれわれに届けます。それは、いまの社会にある固定観念のチェンジといいますか。ある意味で世の中の意識改革を求めるメッセージです。
低身長症のリア・スミスとジョセフ・A・ストラモンドはこう言います。「自分たちには直すべきところなんてない」と。続けて、ジョセフはこう言います。「俺があんたなら自殺すると言い放ったやつがいる。身体が不自由なら、心も不自由だと?」。
©2017 FAR FROM THE TREE, LLC
自閉症で話すことのできなかったジャックは、ある医師によりタイピングで自分の言葉を伝えることができたとき、「僕はがんばっている。僕は頭がいい」と言います。
また、アンドリューは以前「同性愛は異性愛より劣ったもの」とずっと感じていたそうです。
ただ、ここにきて性的マイノリティに対する見方が大きくかわってきました。病気だとみなされていた同性愛が、いまでは個性として認められることになった。ちょっと視点を変えただけで見方がかわる。そう彼は伝えます。
障がい=かわいそう。こういったマイノリティに対するネガティブな社会的なイメージは、そろそろ払拭(ふっしょく)したほうがいいかもしれません。障がいがあっても、マイノリティであっても、ごくごく一般の人間と変わらない。
別に自分の境遇を恨んだり、悔やんだりしているだけではない。自分なりに喜びも幸せも感じている。「違い」はけっして闇ではない、考え方によっては大きな光になりうることを、ここに登場する親子のそれぞれの生き方は物語ります。このマイノリティや障がい者に対する意識の改革は、これからの社会を考える上で、非常に重要になってくる気がします。
少し飛躍した話にもなりましたが、よりよい親子関係のヒントを与えられるとともに、これからの社会の在り方について見つめるいい機会になることでしょう。
11月17日(土)新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開
©2017 FAR FROM THE TREE, LLC
自閉症、ダウン症、低身長症、LGBTなどの子どもを持つ6組の家族を取材したドキュメンタリー映画。困難を抱える子どもと、彼らと向き合う親たちが、自分たちのたどってきたこれまでの山あり谷ありの道のりと、決して苦難ばかりではない歓びの日々について語る。
作品中に出てくる言葉、考え方をひとつ変えるだけで「しあわせの形は無限に存在している」ことがほんとうに実感できる心温まる映画です。
公式サイト:http://longride.jp/irotoridori/
(水上賢治)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
自閉症の息子は「言葉が出ない」「おうむ返しばかり」…悩み続けた母を救った“息子の一言”
オトナンサー / 2024年9月21日 9時10分
-
「母親と映画監督、どっちを取るの?」女性監督(47)が出産&育児で直面した“社会から置いていかれる”恐怖《9年ぶりの新作もテーマは「家族」》
文春オンライン / 2024年9月20日 17時0分
-
のべ 1 万組以上の親子を診察した発達専門小児科医による「発達特性に悩んだらはじめに読む本」 9 月 27 日発売
PR TIMES / 2024年9月18日 15時45分
-
わが子は“天才児”かも…と舞い上がる母の“夢と現実” 真の「障害受容」を隠しているもの
オトナンサー / 2024年9月15日 9時10分
-
健常児と交流させたい…“自閉症児”と母、小学校へ 「なんで話せないの?」の問いに感じた、子どもたちの“成長”
オトナンサー / 2024年9月14日 7時10分
ランキング
-
1痛くて腕が上がらない…【医師監修】五十肩という思い込みには要注意!痛みの原因と病状セルフチェック
ハルメク365 / 2024年9月23日 11時50分
-
2どんな時にスマホを買い替える? 3位スペック不足を感じた時、2位故障した時…1位は?
まいどなニュース / 2024年9月23日 16時0分
-
3226kmを走破「世界一超人の91歳」その驚く肉体 20年間食べ続けてきた「食事メニュー」を公開
東洋経済オンライン / 2024年9月23日 10時0分
-
4「高くても低くてもダメ」血糖値の正しい整え方 人格破綻まで招きかねない「低血糖」の恐怖
東洋経済オンライン / 2024年9月23日 17時0分
-
5コーヒーよりもはるかに効果的…88歳医師が「長生きしたいならこれを飲むべき」と強く勧める"飲み物"
プレジデントオンライン / 2024年9月23日 15時15分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください