『グリンチ』『シュガー・ラッシュ』現実に子どもが直面する問題を骨太に描く
Woman.excite / 2018年12月13日 6時0分
『シュガー・ラッシュ:オンライン』12月21日(金) 全国公開
年末年始を含む冬休みシーズンのファミリー・ムービーの定番は、やはりアニメーション映画。今年は『グリンチ』と『シュガー・ラッシュ:オンライン』という大注目作がスタンバイしています。
『シュガー・ラッシュ:オンライン』©2018 Disney. All Rights Reserved.
かたや子どもたちに大人気のキャラクター「ミニオン」でおなじみのイルミネーションの最新作で、かたやディズニーの最新作。否が応でも期待が高まりますが、どちらもその期待を裏切らない。もう一つ言うと、今の子どもたちに見て、考えてほしい問題の含まれた内容になっています。
■これまで描かれなかった子どものリアル問題を描く
『グリンチ』と『シュガー・ラッシュ:オンライン』ですが、ひと言でいえば単に楽しいだけでは終わらない作品といっていい。どちらも、親としてはなかなか言葉で説明できないメッセージを子どもたちに届けてくれる内容になっています。
しかも、それは従来のアニメーションがよくテーマにしてきた「夢」や「希望」の大切さといったことではありません。これまで子ども向けアニメーションで正面から語られることの少なかった、今まさに子どもたちが実生活で直面しているであろう友人関係や親子関係の問題が、物語の中に大きなテーマとして組みこまれ、大切なメッセージを伝えます。
魅力的なキャラクターや美しいアニメ映像にももちろん目を奪われて、一瞬見落としてしまいそうになるのですが、そのストーリーは今の時代をまるで反映させたかのような内容で、中身はじつに骨太です。
■謝る大切さを教えてくれるグリンチ。大人はどうする?
©2018 UNIVERSAL STUDIOS
まずはじめに『グリンチ』は、世界で愛される絵本作家、ドクター・スースの原作の映画化です。主人公の人里離れた洞窟で愛犬のマックスと暮らしているグリンチ。ひねくれ者の彼は村の人々に意地悪なことばかりをしています。
そんな彼は人々がみんな楽しそうで一緒に過ごすクリスマスが大っ嫌い。そこで、プレゼントからツリーまでクリスマスに関わるありとあらゆるものを、クリスマス・イブの夜に村中の家から盗んでしまおうと思いつきます。
詳しくは明かせませんが、そのなかで、グリンチはひとつ改心します。みずからの過ちに気づき、深く反省するのです。それに気づかせてくれるのが、村の少女、シンディ・ルー。
グリンチはあることから彼女の“サンタへのお願い”を知ります。じつは彼女、自分のためのプレゼントもクリスマスのごちそうも望んでいない。彼女がサンタにお願いしたいのは、「いつも一生懸命働いて、なんだか最近、ちょっとお疲れ気味のママの幸せ」だけ。
そのとき、グリンチは気づくのです。「クリスマスは独り占めするものではない。みんなで幸せを分かち合う。誰かの幸せを願うことなのだ」と。さらに自分がクリスマスを嫌いな本当の理由にも気づきます。「本当はクリスマスが嫌いなのではない。あるトラウマから、クリスマスを誰とも祝えない、ひとりぼっちの自分が嫌いなのだ」と。
これまで目をつぶってきた自分の嫌な面と向き合うグリンチ。そして、彼は最大の勇気を振り絞って、自分のしたことを正直に話し、みんなに「ごめんなさい」の気持ちを伝えます。
このグリンチの行いから、「謝ることの勇気」や「人の言葉に耳を傾けること」など、子どもが学ぶことはきっと多いはずです。また、なにか最近、謝罪会見といいながら、言い逃れしたり、話をはぐらかしたりといったいい大人の悪あがきを目にすることが多いのではないでしょうか? そういう意味で、グリンチの潔い姿には、大人も見習うべきところがあるといっていいでしょう。
■グリンチが描く、今の世界に対する痛切なメッセージ
©2018 UNIVERSAL STUDIOS
もうひとつ触れておきたいことがあります。それはシンディ・ルーをはじめとする村の人々の厚意です。悪いことをしたことに気づくグリンチですが、悪いことをしたことに変わりはありません。普通ならばみんなからそっぽを向かれても仕方がない。
でも、シンディー・ルーは、グリンチをパーティーに招待します。グリンチがパーティーにいくと、村の人々も何事もなかったかのように彼に接します。つまり、悪いことをしたグリンチを大きな心をもって受け入れるのです。
ここに込められたメッセージこそが本作の最重要ポイントといっていいかもしれません。
いま、世界では仲間以外は認めない。自分とちょっとでも違う人間は受け入れない。そんな排他主義の意識が社会で強まってきている。そのことを危惧するように、本作は他者との協調性の重要さと、思いやりの心の大切さを唱えます。それは大人、子ども関係なく、いろいろと自分の身の回りの人間関係について考える機会になることでしょう。
■自分の想いは相手のため?『シュガー・ラッシュ:オンライン』
©2018 Disney. All Rights Reserved.
一方、全米で公開され記録的な大ヒットになっている『シュガー・ラッシュ:オンライン』もまた多くのメッセージを届けてくれます。“今”を生きる子どもたちにぜひみてほしいと個人的にはいいたい1本です。
この作品のストーリーの根本で言及しているのは、「真の友情」といっていいかもしれません。
本作の主人公は、ラルフとヴァネロペ。人間たちが知らないアーケイド・ゲームの世界の住人であるゲーム・キャラクターの二人は、大の仲良しで楽しい毎日を過ごしています。
でも、ヴァネロペが活躍するレースゲーム<シュガー・ラッシュ>のハンドルが壊れてしまう緊急事態が発生。このままではゲームが廃棄処分の危機に! それを防ぐためにはインターネットでハンドルを買うことが必要と知ったラルフとヴァネロペはインターネットの世界へ向かいます。
©2018 Disney. All Rights Reserved.
ただ、そこでヴァネロペは自分が本当に活き活きと生きられ、自分らしくいられる場所を見つけてしまいます。ラルフと過ごす楽しい毎日も捨てがたい。でも、苦渋の決断で、彼女は新たなレースゲームの世界で自分の力を試す決断をします。
それを知ったラルフはひどく落ち込みます。ヴァネロペと別れるのは寂しい。どうにかして一緒にいたい。そして、ヴァネロペを自分に振り向かせようと、ほんの出来心から、ちょっとしたいたずらをしてしまいます。
それをきっかけに大の仲良しだったはずの二人の関係にひびが入るのですが、本作はそのときどきに沸き起こる二人の感情を互いにぶつけ合うような構成にしてこちらへ届けます。そのため、われわれはラルフとヴァネロペ、双方の言い分に耳を傾けることになります。
その互いの感情のすれ違いから垣間見えてくる「真の友情」。ラルフもヴァネロペも、自分がどれだけおのおのを想っているか、その思いのたけをぶつけるように語ります。
でも、ある瞬間に、その思いが時に相手の重荷になってしまうこと、良かれと思ってやったことが相手にとっての幸せの妨げになってしまうことに気づきます。そのとき、はじめて自分のひとりよがりを認識するのです。
相手のことを想うならば時に一歩引くこと、隠れて見えないところから応援することも必要。そして、二人は自分たちの関係において、ほどよく心地の良い距離と関係を見つけていくのです。
こうしたトラブルはおそらくほとんどの子どもたちが体験したことがあるはず。友人関係を構築する上で、なにが大切なのか? 子どもたちにヒントをきっと与えてくれることでしょう。
■ささいないたずらが「いじめのタネ」になる
©2018 Disney. All Rights Reserved.
それからもうひとつ。ラルフがヴァネロペにいたずらをしてしまうと触れましたが、これがのちのち大変なことに。このいたずらがあれよあれよと暴走し、取り返しのつかない事態を招きます。
このことが物語るのは、ほんのささいないたずらが時に「いじめのタネ」になってしまうこと。
たとえば自分にとってはたいしたことでなくても、相手によってはその人の心を深く傷つけてしまうことがある。仲良くしたいからこそ生まれてしまう相手への嫉妬や憎悪をどうコントロールすればいいのか?
そのことを物語全体で本作は伝えています。そういう意味で、いじめが社会問題になっている日本こそ、最も心に響くメッセージの込められた1作といっていいかもしれません。
いずれも話題性だけのアニメーションではありません。人として大切にしたいことのメッセージが含まれた内容です。そのメッセージに親子で耳を傾け、学校のこと、友人関係のことなどいろいろな会話をもってみてはいかがでしょうか。
12月14日(金)全国公開
©2018 UNIVERSAL STUDIOS
『怪盗グルーの月泥棒3D』をはじめ、『ミニオンズ』、『SING/シング』など大ヒットアニメーションを生み出しているスタジオ「イルミネーション」による最新アニメ。
絵本作家、ドクター・スースの代表作を原作に、ひねくれ者のグリンチが起こすとんだ騒動が描かれる。
字幕版のベネディクト・カンバーバッチが担当したグリンチの日本語版吹替えは大泉洋。そのほか吹替え版には杏、宮野真守らが声の出演を果たしている。ひとりぼっちのグリンチがどんな幸せなクリスマスを迎えるのか注目です!
『グリンチ』と共に同時上映! 『ミニオンのミニミニ脱走』
©2018 UNIVERSAL STUDIOS
12月21日(金) 全国公開
©2018 Disney. All Rights Reserved.
2012年に公開され大ヒットを記録したディズニーのアニメーション『シュガー・ラッシュ』の続編。
ゲームの裏側の世界を舞台に、アーケード・ゲームの人気キャラクターであるラルフとヴァネロペ が、ゲーム廃棄危機に直面し、インターネットの世界へ。新たな大冒険を繰り広げる。
インターネットの世界を可視化したアニメーションのユニークな表現に目を奪われる一方で、「真の友情」について言及したストーリーに大人から子どもまで深く考えさせられます。
(水上賢治)
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