戦時中、保母が挑んだ「疎開保育園」。今、子どもを守るため何ができるのか
Woman.excite / 2019年2月22日 6時0分
戸田恵梨香、大原櫻子W主演『あの日のオルガン』
©2018「あの日のオルガン」製作委員会
戸田恵梨香、大原櫻子W主演の話題作『あの日のオルガン』が、2月22日(金)に公開されます。
時は太平洋戦争末期。迫り来る空襲から逃れるべく、日本初の「保育園児の集団疎開」に挑んだ保母たちの実話を描いた物語です。
多くの困難に立ち向かう彼女たちのたったひとつの願いは“子どもの命を守ること”。そこには、現代を生きる私たちが知るべき真実や思い、葛藤が詰まっていました。
■“子どもの命を守る”強い意志が生んだ疎開保育園
©2018「あの日のオルガン」製作委員会
1944年。東京・品川では、空襲警報が響けば防空壕(ぼうくうごう)に避難する生活が続いていました。
政府は、子どもたちを「学童疎開」として地方へ集団疎開する措置をとりましたが、そこには保育園に通う幼児たちは含まれていませんでした。そこで立ち上がったのが、戸越保育所の主任・板倉楓(戸田)ら若き保母たち。子どもの命と、文化的な生活を守るため、日本初の「疎開保育園」を決意するのです。
そうはいっても、当然、一筋縄ではいきません。「幼い子どもたちを手放したくない」という親と「子どもの命だけでも助けたい」という親の意見は真っ二つ。
©2018「あの日のオルガン」製作委員会
大切な命だからこその思いが交錯するなか、「子どもたちを守りたい」一心で、楓ら保母が、53人の幼児を連れた「保育所疎開」を実現させるところから物語は始まります。
■子育てにおいて、立場の違う大人が必要となるワケ
©2018「あの日のオルガン」製作委員会
疎開先は、埼玉にある荒れ(ボロ?)寺。ふだんでも大変な子ども相手の保育。親元から離れた疎開先で暮らす、つまりは24時間休む間もなく保育するのだから、なおさらです。おねしょにトイレ、食事にお風呂と、次から次へと現実的な試練が降りかかります。
それらの困難をき然とした態度で乗り越えようとリードするのが、戸田恵梨香演じる板倉楓。「怒りの乙女」と称される、後輩保母からの信頼も厚いしっかり者です。かたや大原櫻子演じる野々宮光枝は、子どもたちととにかく楽しく笑って過ごす天真爛漫(てんしんらんまん)な新人保母。
©2018「あの日のオルガン」製作委員会
物語では、2人の対比がとにかく鮮やかに描かれています。大黒柱として子どもたちを守ることに必死な楓と、オルガンを弾きながら音楽を楽しみ、子どもと同じ目線で遊ぶ光枝。同じ保母という立場でありながら、その役割は大きく違っているのです。
そして、そのどちらも子どもたちにとっては欠かせない存在。楓と光枝のかみ合わないやりとりを見ていると、クスッと笑わせられると同時に、人の生き方に正解はないこと、また人はひとりでは生きられないこと、だからこそ支え合いが必要なこと…ついつい忘れてしまうたくさんの“大切なこと”を思い出させてくれます。
立場が異なったとしても「子どもを守り成長させたい」と考える大人が複数存在することが子どもにとっていかに大切なことなのか、過酷な時代背景のなかに、現代にも通じる問題が提議されています。
©2018「あの日のオルガン」製作委員会
戦時中の日常を自然体で魅せる2人の表現力には驚くばかりですが、ほかの保母たちを演じるのも、佐久間由衣、三浦透子、堀田真由、福地桃子ら、1000人を超えるオーディションで選ばれた話題性、実力ともに十分な若手女優陣。困難な時代を生きる女性たちの熱い思い、そんな彼女たちが子どもたちを見つめる柔らかなまなざしに、だれもが引き込まれることでしょう。
■“心の戦い”を描くことで浮かぶ、目に見えない残酷さ
©2018「あの日のオルガン」製作委員会
本作は戦争を題材にした映画ではあるものの、いわゆる“戦闘”を描いた作品ではありません。ですが、その一方で“心の戦い”ともいえる葛藤が多く描かれています。
死と隣り合わせの極限の状態で迫られる“決断”の数々。子どもの命はもちろん、その家族からの期待という重圧、さらには自身の友情、愛情など、さまざまな思いを胸に、人生の選択を下し続けた女性たちの強さが胸に刺さります。
また親として考えてしまうのは、やはり子どもを疎開させるか否か。想像するだけで胸が苦しくなるテーマですが、たった75年前には、これが現実として突き付けられていたのです。戦争には人の命を奪う残酷さがある。けれども厳しい争いの裏で、目には見えない残酷さにもあふれていたことを思い知らされます。
残虐な場面を描かずして、戦争の悲惨さをも伝える本作。「戦争は恐ろしいものだ」というシンプルな感情をもたらすだけでなく、今一度立ち止まり、子どもや家族との向き合い方、さらには“生きること”について、あらためて見つめ直すきっかけとなるのではないでしょうか。
■戦争の実態と保母たちの思い、子どもの目にはどう映る?
©2018「あの日のオルガン」製作委員会
涙をこらえきれないつらい場面もありますが、子どもたちの純真無垢な姿に癒やされ、また光枝を中心としたコミカルな演出によって、重いストーリーの中にも軽やかさがある『あの日のオルガン』。
ただただ子どもたちを守るために強く生きた保母たちの姿は、ワンオペ育児や保育所不足など、さまざまな子育て問題が蔓延る今を生きる私たちの心を大きく揺さぶります。
そして、戦争のリアルを描きつつ、素晴らしい役者、スタッフが紡いだ美しく、温かい真実の物語は、ぜひとも親子で観たい作品のひとつ。今も昔も変わらない“宝”である“子ども”の心にも、きっと響くものがあるはずです。
©2018「あの日のオルガン」製作委員会
太平洋戦争末期、迫りくる空襲から防空壕に避難する生活が続く1944年。東京・品川区の戸越保育所の主任保母・板倉楓(戸田恵梨香)は園児たちの疎開を模索していた。一方、親たちは子どもを手放すことに反発。別の保育所・愛育隣保館の主任保母(夏川結衣)の助けもありなんとか親たちを説得するが、戸越保育所の所長(田中直樹)がようやく見つけてきた疎開先は埼玉の荒れ寺。そして、親から離れた幼い子どもたちとの生活は問題が山積みだった。それでも保母たちや疎開先の世話役(橋爪功)は子どもたちと向き合い、みっちゃん先生(大原櫻子)はオルガンを奏で、みんなを勇気づけていた。しかし、疎開先にも徐々に戦争の影が迫っていた―。
原作:久保つぎこ『あの日のオルガン 疎開保育園物語』(朝日新聞出版)
監督・脚本:平松恵美子
出演:戸田恵梨香、大原櫻子、佐久間由衣、三浦透子、堀田真由、福地桃子、白石糸、奥村佳恵、林家正蔵、夏川結衣、田中直樹、橋爪功
公開日:2月22日(金)新宿ピカデリーほか、全国ロードショー
公式サイト:https://www.anohi-organ.com/
(nakamura omame)
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