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妻が稼いで僕が家事。思い描いた人生とは違うけど…ゆるくてヒリつく主夫エッセイ『今日も妻のくつ下は、片方ない』

Woman.excite / 2019年3月5日 8時0分

妻が稼いで僕が家事。思い描いた人生とは違うけど…ゆるくてヒリつく主夫エッセイ『今日も妻のくつ下は、片方ない』


『今日も妻のくつ下は、片方ない。妻のほうが稼ぐので僕が主夫になりました』(双葉社)は、「あらかじめ決められた恋人たち」のベーシストであり、現在は漫画家としても活躍中の劔樹人(つるぎ・みきと)さんが、自身の兼業主夫としての暮らしをつづった漫画エッセイ。

コラムニストの犬山紙子さんと結婚したのち、主夫となり、妻の妊娠が発覚するまでの日々を描いた作品です。

慣れない家事に戸惑いつつ、人生に苦悩しつつ、ときにクスッと笑えたり、やさしい気持ちになれたり、妙に切なさの余韻が広がったり…何てことのない時間を淡々と過ごす作者の日常を通して、読者が感じる情緒はそれぞれ。

愛ってなんだろう? 幸せって何だろう? 自分って何だろう? そんな想いが不思議とこみあげてくるような、ゆるっと物思いにふけりたくなる1冊です。


■34歳、居場所を失った僕に妻が提案した「主夫」という生き方

作者である劔樹人さんは、かつて音楽での成功を目指し、バンド活動に明け暮れる20代を過ごしていました。

生活できるほどの状況には及ばず、それでも音楽の仕事をあきらめきれなかった劔さんは、バンドマネージャーとしての道を歩み始めます。

担当していたロックバンド「神聖かまってちゃん」はブレイクし、劔さん自身も多忙を極め、日々の暮らしはそれなりに充実していくのですが、音楽業界の現実は厳しく、ほんの数年で状況は一変。

犬山さんと出会ったときには、ほぼフリーランスの状態となり、生計をたてるのも精一杯…。

34歳にして、まるで学生時代のような貧乏生活を送っていました。




『今日も妻のくつ下が片方ない』「はじめに」より



不器用な劔さんを隣で見ていた犬山さんからの、思わぬ逆プロポーズ。

しかも結婚にあたり、彼女が劔さんに提案したのは、「妻が稼ぎ、夫が家事をする」という兼業主夫の暮らしでした。

「お金を稼ぐことが好きな犬山さん」と「人の面倒を見るのが得意な劔さん」、それぞれの得意不得意を見極めた犬山さんの提案はきわめて合理的で、夫婦で補い合うことの意味を深く感じるもの。

世の中の夫婦が彼らのように、“男女”としてではなく、“適正”で夫婦の役割を決められたとしたら、「結婚」や「子ども持つこと」に対して、より一歩を踏み出しやすい社会になるのかもしれません。

しかしながら、社会の常識や個人に刷り込まれた考えを簡単に変えることができないからこそ、私たちは表向きなんとか男女の役割を演じようと必死なわけで…。

もちろん劔さんだって同様に悩みながらも、それでも自分が決めた人生として「主夫」の道を歩み始めるのです。


■手探りで始めた家事…戸惑いと喜びが交錯する僕の日常

不器用ながらも、なんとか家事をこなしていく劔さんの暮らしは、“主夫としての成長”だとか、“賢い生活の知恵”なんてものとは趣の異なる、まるでコントのような独特でゆるりとした日常。

なじみのない女性ものの服を洗濯するときには、妙な緊張感におそわれてみたり…



『今日も妻のくつ下が片方ない』「未知なる素材の恐怖。」より



輪ゴムを妻のアクセサリースタンドにかけてみたり…



『今日も妻のくつ下が片方ない』「何処へ。」より



一見ふざけているようでいて、いたって真面目な劔さんの姿がやけにツボだったりするのです。

主夫としての生活を始めたばかりのころは、多忙だった過去の日々を思い出して、“自分にはそういう方が向いているんじゃないか”なんて、想いを巡らせたり、葛藤が皆無なわけでもなかった劔さん。

しかし、ちょっとした小さな発見に喜びを感じたり、正解のわからないまま家事をやり過ごしたりしながら、終始、淡々と日常を暮らしていきます。

寝室で無造作にくつ下を脱ぎ捨てる妻の癖に困惑しながらも、ばらけた片方のくつ下を見つけて喜んでみたり、硬いデニムを「履いて伸ばして」と妻にお願いされて、困りつつも妻の依頼を受け入れたり、ちょっぴり独特だけど幸せそうな“夫婦のかたち”と地味だけど味のある“僕の日常”。

そんな劔さんのゆるーい日々を描いた漫画のなかでは、「幸せ」とか「喜び」とか「苦悩」とか、そんなありきたりな表現など使わず、少々言葉足らずの漫画の余白に、そっと想いが添えられているよう…。

さらに、愛する誰かに対して、不恰好に甘えたり、甘えられたり…、何気ない日常が実はパートナーへの信頼や安心感に満ちていること、そんな愛が行間からしみじみにじみ出ているのです。



■人生に思い悩んでいたある日、妻の妊娠が発覚して…

主夫としての暮らしは、それなりにやりがいを感じるものではあるけれど、妻の収入で生活することへの後ろめたさをどこかぬぐえない劔さん。

ときに、“選ばなかった別の人生”に対して、悶々と思い悩む日々を過ごします。

そして、「子どもをどうするか?」について、妻と話し合う機会が増えたことで、さらに漠然とした不安が胸の内につのるのです。



『今日も妻のくつ下が片方ない』「往生際。」より



自分で決断してきたはずの人生なのに、選ばなかった別の人生に対して、ないものねだりをしてしまうのも、また人間の性。

劔さんも、そんな悩みのループを行ったり来たりしながら、日々をやり過ごします。

そんな悩み多き中年期を過ごしていた劔さんに、突然妻から妊娠したことを告げられます。

後日、2人で病院に行った帰り道、これから大きく変わる生活を前に“最後の晩餐のような気分”にひたりながら、喫茶店でジンジャーエールを飲む劔さん。

決して不安な気持ちが一掃されたわけではないけれど、すがすがしさとともに、新たな人生を前向きに歩き出すことを決意するのです。

かつて、劔さんが願ったように、夢とか才能とか、ほしいものが全部手に入れられる人生も素晴らしいけれど、つまづいたり、失敗しながらも、自分らしく生きる人生もまた尊く、美しいもの。

未知数だらけの未来に人生をゆだね、その運命を甘んじて受け入れてみることも、人生にとってある種、必要なことなのかもしれません。

幸せの形は誰にも決められないし、幸福な未来を誰も約束はしてくれない…。

だからこそ、不確定な未来のなかで、悩みながらも、もがきながらも、わが道を進もうとする劔さんの姿が、なんだかじみじみ心に沁みて、思わず自分自身のこともやさしく慰めてあげたくなるのです。



■劔樹人さんからのスペシャルコメント

その後、無事わが子が生まれ、妻と娘との新たな生活が始まった劔さん。ウーマンエキサイトでも新しく連載『劔樹人の「育児は、遠い日の花火ではない」』が始まった劔さんに、現在の心境について伺いました。



このマンガを描いていたころは妻の妊娠前、たった数年のことですが、もうずいぶん前のような気がしています。

家事育児について、家族について、人生についてなど、自分の考え方が、この数年だけでそれなりに変わったせいかもしれません。

だから読み返してみると、当時の自分に対して気恥ずかしい若さというか、未熟さも感じます。

かつては人と自分を比べて悩んだようなことも、今ではすっかりどうでもよくなったし、自分の生き方を自然に肯定できるようになりました。

子どもが生まれたということはそれだけ自分を変えてくれた、本当に大きな大きな出来事でした。

この作品を世に出してから、家事育児関係の仕事が増えました。

でも、私は今も昔も、家事をすごくやっているわけでもないし、すごくできるわけでもないし、かといってやってないのにやってるようにアピールしているわけでもないし、隠しているわけでもないし、ごく普通に当たり前に毎日を過ごしているだけだと思っています。

だから、この作品もすごく普通というか、特別な何かはないと思います。

でも、特別何があるわけでもない生活に、何を見つけるか、そして、何を見つけてもらうかというのがずっと自分のやりたいことだったりするので…。

だから余白が多いし説明も少ないのですが、読んでくださった方に、何かちょっとでも引っかかるものがあったら嬉しいです。

(劔樹人)

『今日も妻のくつ下は、片方ない。妻のほうが稼ぐので僕が主夫になりました』
劔樹人著(双葉社)1,000円(税抜)


大人気ブログ【劔樹人の「男のうさちゃんピース」】『男の家事場』シリーズに40ページ以上の描き下ろしを加え、待望の書籍化! 音楽を生業としていた僕は、2014年にエッセイスト・タレントの犬山紙子と結婚し、兼業主夫になった。慣れない家事の、難しさと面白さ。くだらなくて笑える、小さな幸せ。でも僕は――「妻に稼いでもらっている」「音楽では食っていけない」。もやもやと過ごしていたある日、妻の妊娠が発覚し…?


<劔樹人さんの情報>
●ブログ:劔樹人の「男のうさちゃんピース」
●Twitter:@tsurugimikito
●Instagram:tsurugimikito
●ウーマンエキサイトの連載:劔樹人の「育児は、遠い日の花火ではない」


 
 
(倉沢れい)

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