好き嫌いが多く食べない「これって、わがまま?」誤解の多い子どもの味覚【榊原先生、教えて! 子どもの体の不思議 第4回】
Woman.excite / 2019年4月5日 17時0分
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子どもを育てるお母さんの悩みは尽きません。さまざまな解決法を編み出してきたお母さんにも「これは困ったぞ…」という事態が必ずあるものですよね。
なかでもよく耳にするのが「子どもの食事」に関するもの。「野菜が入っていると、手をつけてくれない」「好きなものしか食べない」「食事の時間が嫌い」などなど、多くのお母さんが子どもの好き嫌い、食わず嫌いに悩んでいます。
大人と比べ、子どもは好き嫌いが多い気がしますが、何か理由があるのでしょうか? 小児科医でありお茶の水女子大学名誉教授・榊原先生に、「子どもの味覚」にまつわる悩み、疑問に答えてもらいました。
お話をうかがったのは…
医師・お茶の水女子大学名誉教授
榊原洋一先生
お茶の水女子大学人間発達教育研究センター教授。東京大学医学部卒業。専門は小児科学、小児神経学、発達神経学など。小児科医として発達障害児の治療にかかわる。著書は『大人が知らない子どもの体の不思議』(講談社)など多数。
■食べ物の好き嫌い、子どもはどうして多い?
――先生。今回は子どもの味覚についていろいろ教えてください! 世のママたちは「子どもの好き嫌い」に悩んでいる人が多いと思います。私も子どもは好き嫌いが多い気がするのですが、どうしてなのでしょう?
榊原洋一先生(以下、榊原先生):そうですね…。これは子どもの好き嫌いが多いというよりも「大人がたくさんの味を好んでいるだけ」といえるでしょうね。
――えっ…。
榊原先生:考えてみてほしいのですが、この世界には食べられるものが本当にたくさんありますよね。食べものであふれている、といってもいい。だから大人はいろいろな種類の味を子どもに与えようとします。でもそんなにたくさんの味を与える必要は全然ないんですね。
――栄養バランスの整った食事を与えるためには、いろいろな食材を使って、品数も多くしたほうがいいと思っていたんですが…。そうではないんですか?
榊原先生:ある研究者が赤ちゃんの食の好みを調べたところ、刺激の少ない、味の薄いものを好むことが分かりました。
赤ちゃんは濃い味、苦い味、酸っぱい味などは、ペッとはき出すんです。これは「刺激のあるものは体に害がある」ということを無意識に感じとっているからなんです。
――刺激のある味は体に良くないと、無意識に感じている?
榊原先生:そうです。だから食べようとしません。そして刺激の少ない薄い味と同様に、甘い味も好むんです。
母乳やミルクには甘みがありますよね。これをペッとはき出す赤ちゃんはいないと思います。これは甘いもの=栄養があるものと認識しているからです。生きていくために栄養のあるものを欲しているんですね。
刺激のある味をうけつけないこと、栄養のあるものを欲することは「生物的に自然な反応」なんです。
■「好き嫌い」は生き物として当たり前!?
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――自然な反応…ということは好き嫌いするのは「当たり前のこと」なんですか?
榊原先生:そうです。当たり前です。「好き嫌いがある」という言葉自体、私はあまり好きじゃない(笑)。大人が「うちの子は好き嫌いが多くて…」というのは、大人自身がいろいろな味が好きなだけなんですよ。
――私たち大人がいろいろなものを食べているだけ…。では、なぜ大人になるといろいろな味が好きになるんでしょう?
榊原先生:大きくなってくると、刺激がある味でも体に害がないことが経験から分かってきますよね。また食べ慣れることで、平気になってくる。
それに味だけじゃなく、においや雰囲気などから「食べてみよう」というチャレンジ精神で食事を楽しめるようになる。文化の中で、味のバラエティを楽しめるようになってくるんです。
――確かに私も生姜や大葉、辛いものなど大人になって食べられるようになったもの、好きになったものがたくさんあります…!
榊原先生:子どもに好き嫌いが多い、というのではなくて、そもそも食べられるレパートリーが少ないのは生物的に当たり前のこと。生き物として当たり前の反応、といえるでしょうね。
■赤ちゃんはいつから味覚を感じている?
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――素朴な質問ですが、赤ちゃんはいつから味覚を感じているのでしょうか?
榊原先生:お母さんのおなかの中にいるときから味覚を感じていますよ。
――本当ですか…! おなかの赤ちゃんが味覚を感じていることは、どうやって分かるんでしょうか?
榊原先生:たまたま妊娠中のお母さんに、ある薬品を注射する必要がありました。体には無害な薬品です。
この物質は血管の中をめぐり、舌の中の血管を流れるときに苦みとして感じられます。だからお母さんは当然、苦みを感じますよね。
そしてこの物質は胎盤を通じて、おなかにいる赤ちゃんの舌の中の血管にも流れます。そのとき「苦そうな表情」をした赤ちゃんの様子がエコーで観察できたんです。
――興味深いですね…! それで赤ちゃんは味覚を感じていることが分かったんですね…!
榊原先生:そうです。先ほどお話ししたように、赤ちゃんの好きな味は最初は刺激のないもの、薄味ですが、甘い味も好むようになります。
これはどうして分かるかというと、さまざまな味の液体をほ乳びんに入れ、乳首を吸う時間を比較してみたんです。その結果、甘い味を含む乳首を吸う時間が長かった。反対に苦い味、酸っぱい味は苦手であることも分かりました。
――なるほど…。じゃあ、塩味はどうでしょう? 味覚の中には先生のおっしゃったように甘み、酸味、苦みなどがありますが、塩味もありますよね。塩味はどのように感じているのでしょうか。
榊原先生:おもしろいことに「好きでも嫌いでもない」ようなんです。
――え、好きでも嫌いでもない…?
榊原先生:正確にいうと、塩味の薄い、濃いの微妙な違いは区別できず、どんな塩味でもニュートラル。つまり反応がないんです。
――塩味を受け入れはする。でも、薄い・濃いなどの塩の割合について「好き・嫌い」とは感じていないということですか?
榊原先生:そうです。
――味によって、違う感じ方をしている…。子どもの味覚っておもしろいですね!
今回は、子どもの好き嫌い、そして味覚にまつわる不思議について、お話をうかがいました。
子どもの好き嫌いは、ママの大きなお悩みの一つとしてあげられますが、実は好き嫌いは当たり前のこと、自然なことという先生の言葉に胸をなでおろしたママも多いのではないでしょうか。
嫌いなものを減らしてほしい、少しでもいろいろな食材を食べてほしい…。今まではそう思ってがんばっていましたが、お皿に盛りつけた瞬間に子どもから嫌な顔をされて、食事の時間が楽しめないときもありました。子どもにプレッシャーをかけていたことも…。
気にする必要はない、自然な反応ならそこまで気を張らなくてもいいんだ、との先生の言葉にホッとしました。
次回は「子どもの手足の不思議」についてお話をうかがいます。お楽しみに!
『大人が知らない子どもの体の不思議』(講談社)
榊原洋一著
子どもと大人はどう違うのか。それは単に大きさだけの違いではありません。どうして夜泣きをするの? どうして寝相が悪いの? どうして落ち着きがないの? 子育て中に親が抱く「答えが見つかりにくい質問」にエビデンスの精神で解答することを試みました。子どもの心と体の不思議を理解する、手助けとなる一冊。
(すだ あゆみ)
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