「ハイハイをしない、遅い…」手足の発育が心配だけど、ハイハイは必要?【榊原先生、教えて! 子どもの体の不思議 第5回】
Woman.excite / 2019年4月12日 20時0分
![「ハイハイをしない、遅い…」手足の発育が心配だけど、ハイハイは必要?【榊原先生、教えて! 子どもの体の不思議 第5回】](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/womanexcite/womanexcite_E1554183816219_0-small.jpeg)
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寝返りがうてるようになった、お座りできるようになった…。子どもの成長は本当に早いですよね。どんどん動きが活発になる赤ちゃんを見ていると「がんばれ、がんばれ!」と心からエールを送りたくなります。
でも、その成長の途中で「ちょっと心配」と思ってしまうこともあるかもしれません。
例えば、ハイハイ。「ハイハイが遅くて心配…」「ハイハイをほとんどせずに立ち始めたけど、大丈夫かな?」といったお悩みを持つお母さんは多いようです。
今回は、榊原先生にハイハイを含めた「子どもの手足」にまつわる不思議について教えていただきました。
お話をうかがったのは…
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医師・お茶の水女子大学名誉教授
榊原洋一先生
お茶の水女子大学人間発達教育研究センター教授。東京大学医学部卒業。専門は小児科学、小児神経学、発達神経学など。小児科医として発達障害児の治療にかかわる。著書は『大人が知らない子どもの体の不思議』(講談社)など多数。
■子どもの成長に「ハイハイ」は必要?
――先生。今回は子どもの手足についていろいろ教えてください! 成長の過程としてハイハイから二足歩行へ…といわれていますが、「なかなかハイハイがはじまらない」と心配になってしまうお母さんも多いようです。
榊原洋一先生(以下、榊原先生):ハイハイは必ずするもの、と思っているお母さんは多いかもしれませんね。でも赤ちゃんの中にはハイハイせずに歩き出す子もいるんですよ。
――えっ…。いきなり歩きはじめる子がいるんですか?
榊原先生:います。全体の3%くらいの赤ちゃんは、おしりでずり歩きして移動し、そのまま歩きはじめるようになる子がいます。
――そうなんですか…! ハイハイは「歩くための準備期間」のようにとらえていたのですが、違うのでしょうか?
榊原先生:「ハイハイができる」というのは腕と手足が交互に動かせる。首が座り、前方を向いていられる。奥行きを理解できる。これらができている、という証拠なんです。
ハイハイは赤ちゃんの運動として、とても良いものだと思います。でも「歩きはじめるために必ず必要か」といわれると、そういうわけではないんです。
――「ハイハイをしはじめる時期はこのくらい」というのがあって、その時期になかなかハイハイがはじまらないと「何か体に問題があるのでは?」と不安に思うお母さんも多いと思うのですが。
榊原先生:ハイハイしないからといって運動発達に問題がある、という事実はありません。先ほどの、おしりでずり歩きしているうちに歩きはじめるお子さんがいるように、ハイハイしなくても正常に運動機能は発達していくんです。
――つまりハイハイの時期が遅いとか、ハイハイしないことで悩みすぎることはない…?
榊原先生:医者目線でいうと、脳の発達やほかの病気に関係していることも一部あるので「絶対に問題ない」とはいえないものの、ハイハイしなくても歩きはじめる場合があるのは本当ですよ。
■赤ちゃんが手足をバタバタ…どうして?
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――先生。わが子が赤ちゃんのとき足をふんばったり、ゆるめたり、バタバタさせたりをずーっと繰り返していたことがあって「疲れないのかな~」と不思議でした。何か理由があるのでしょうか?
榊原先生:赤ちゃんが手足をバタバタさせる理由ははっきりしていないのですが、私は「手足を動かしているときの感覚を確かめている」のだと思いますね。
――感覚を確かめている…?
榊原先生:そうです。例えば人間には視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚など五感と呼ばれるものがありますよね。その五感以外に「体性感覚」というものがあります。体性感覚とは何かを簡単にいうと、すみませんが目を閉じてみてもらえますか…?
――はい(目を閉じる)。
榊原先生:左手をあげてみてください。
――はい(左手をあげる)。
榊原先生:今どうなっていますか…?
――左手が上がっている感じがします(笑)。
榊原先生:見えていなくても、手が上がっている感覚がありますよね。手がどのへんにあるかも感じています。体の一部が動いていることの感覚があるはずです。これが体性感覚なんですね。
――自分の体の一部がどこにあるか、という感覚…。
榊原先生:例えば、授乳するとき、赤ちゃんの口元に乳首を持っていくと吸うようなしぐさをしますよね。これは、「反射」と呼ばれる無意識の動きです。
それとは逆に、自分の意志で動かそうとする「随意運動」というものもあります。赤ちゃんが手足をバタバタさせるのは、これらの動きとはまったく違うものなんです。
――意図的に動かしているわけでもなければ、反射でもない?
榊原先生:いわゆる「体の試運転」ともいえる動きなんです。
大人が手を前に出すとき「手を前に出そう」と思う間もなく、とっさにできますよね。でも子どもは最初、どうやって手を前に出すのかも分かりません。
運動するとき、人には必ず感覚があります。筋肉がどのくらいの強さで収縮しているのか、脳から情報を受け取っているんです。けれど子どもは、どうやったら、どう動くかという経験が少ない。
だから、まずは経験するしかないんです。手足をバタバタ動かすのはその感覚を感じて、試しているからだと私は思います。
――すごい! 一生懸命に自分の体の動かし方を試しているんですね!
榊原先生:体の取扱説明書なんて、ありませんからね(笑)。「手足の試し運転をしている」と表現する人もいますね。
■指しゃぶり、こぶししゃぶりをするのはなぜ?
――先生、手足のバタバタと同じように不思議なのが指しゃぶりや、グーにした自分の手を口の中に入れようとする「こぶししゃぶり」といわれるものです。これはなぜするのでしょうか?
榊原先生:ひとつに、赤ちゃんは口まわりがいちばん発達していることが関係しています。1歳くらいまでは目にしたものを自分で口に持っていき、確かめようとします。
もうひとつは、人の体の中で「指先」や「舌」などが敏感な部分だからです。発達している口まわり、そして感覚のするどい舌で何かを確認しようとするわけですね。
何も持っていない状態で、赤ちゃんが確認できるものといったら、何だと思いますか?
――…自分の手、ですか?
榊原先生:そうです。何も与えなければ、自分の手しかありませんよね。足もありますが、体勢的に口に含むのは難しいでしょう。手を口に入れるのは、手しか口に入れるものがないからなんです。
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――…なるほど。
榊原先生:手を口に持っていくことで、口は手を感じますし、手は口を感じますよね。感覚のするどい手と口がお互いの感覚を楽しむことができる。赤ちゃんは口と手の感覚を楽しみながら、探索しているのだと思います。
こぶしごと口に入れてしまうのは、まだ手と指を別々に動かすのが難しいからです。赤ちゃんは最初、手をにぎった状態で生まれますし、パーだと大きくて口に入りませんよね。
たまたまグーにした状態のときに手が口の中に入り、それがこぶししゃぶりと呼ばれているのかもしれませんね。うちの孫は手を開いているときに口に入れて、指先が鼻の穴に入ってしまうこともありますよ。
――そうなんですね(笑)。面白いお話をたくさんありがとうございました!
今回は、子どもの手足にまつわる不思議について、お話をうかがいました。赤ちゃんは必ずハイハイするものと思っていましたが、いきなり歩き出す子も一定数おり、必ずしも通る道ではないことを知りました。
また、赤ちゃんの不思議行動は、自分の体を知るための探索行動であることも興味深く感じました。そうと分かると、手足をバタバタしたり、こぶししゃぶりをしている我が子を見る目が変わりますよね。「あ、試しているな~」とママも楽しい気持ちになるでしょう。
次回も子どもの体の不思議についてお話をうかがいます。お楽しみに!
『大人が知らない子どもの体の不思議』(講談社)
榊原洋一著
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子どもと大人はどう違うのか。それは単に大きさだけの違いではありません。どうして夜泣きをするの? どうして寝相が悪いの? どうして落ち着きがないの? 子育て中に親が抱く「答えが見つかりにくい質問」にエビデンスの精神で解答することを試みました。子どもの心と体の不思議を理解する、手助けとなる一冊。
(すだ あゆみ)
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